1 11月20日の朝日新聞に「発明を奨励する会」が意見広告を出している。
前半部分は升永さん、後半部分は中村氏の文責となっているが、後半部分も升永さんの意向が反映していると考えるので、「升永意見広告」と呼ぶ。
2 升永意見広告は、前半部分において、人類絶滅のリスクを防ぐ貢献度を尺度として、青色LEDの貢献度は、過去のノーベル賞に比べて天文額的に大であるという。
確かに、青色LEDが人類に対して大きな貢献をしたことは事実である。しかし、この事実と利益配分ルール(発明から生じた利益の一部を発明者に分配するルール)とは何の関係もない。中村氏の著書「怒りのブレイクスルー」によれば、中村氏が特許法35条(職務発明に関して相当対価請求権を認めている規定)の存在を知ったのは、日亜化学退職後に日亜化学が住友商事(米国クリー社製の青色LEDの輸入元)を特許権侵害を理由として訴えた後のことである。つまり、中村氏が利益配分ルールを認識したのは青色LEDの発明後である。このように、青色LEDの完成時には、中村氏は利益配分ルールを知らなかったのであるから、利益配分ルールが青色LED発明の動機づけになったという事実は存在しない。
さらに、青色LED人類全体に貢献するものであるというなら、人類全体が中村氏に対して報いるべきであり、一民間企業である日亜化学に全ての負担を求めるのは筋違いだ。
3 升永意見広告は、後半部分において、利益配分ルールにより、日本から超過利益を生む発明が生まれることが期待できるという。
しかし、前記のとおり、利益配分ルールは、中村氏自身による青色LED発明の動機づけとなっていない。中村氏が日本の技術者の代表であるというなら、利益配分ルールがなくとも、日本から超過利益を生む発明が生まれることは十分に期待できるはずだ。
また、升永意見広告は、「とてつもない発明」=「超過利益を生む発明」ということを暗黙の前提としている。
しかし、このような前提が成り立たないことを知るには、過去のノーベル賞を得た発明をいくつか思い出せば足りる。例えば、島津製作所の田中氏による質量分析器の発明は超過利益を生んでいない(販売できたのは1台のみらしい)。
また、現行法の職務発明規定は大正10年法に由来するものであるが、特許庁HPに掲載されている日本の10大発明のうちの7つは大正10年以前のものである。つまり、利益配分ルールなど存在しない時代において、日本の10大発明のうちの7つは生まれているのである(残り3つのうちの2つは大学の研究者のもの)。
4 升永氏は、特許法35条が利益配分ルールを定めていることを自分が初めて発見したと述べている。そうであるなら、利益配分ルールが実質的に機能したのは、どんなに長くみても、中村判決以降の僅か10年程度のことである。升永意見広告のいうように、利益配分ルールが93年間継続したという事実は全く存在しないのである。
5 以上のとおり、升永意見広告は、全く筋が通らないものである。意見広告を出すお金があるなら、日本版ノーベル賞として「中村賞」でも設けることの方が発明奨励につながるだろう。
以上
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