1 営業秘密の不正取得行為の立証
裁判例を見ると、この点は、多くの場合、間接事実の積み重ねにより証明されています。目撃証言がない場合はもちろんのこと、目撃証言がある場合も、その目撃証言の信用性が争点となることから、やはり、間接事実の積み重ねによる証明が必要となります。
2 裁判例
(1)放射線測定機械器具事件【東京地裁判決平成12・10・31判時1768号107頁】
放射線測定機械器具事件は、ご質問の事案と類似の事案について、①原告の顧客情報を不正に取得したと主張される者のパソコンには原告の顧客情報が入力されていたこと、②被告会社のダイレクトメールの送付先には原告会社の顧客の占める割合が高いこと、その他原告の顧客情報に依拠したことを強く推認させるデータの共通性が存在すること、などの間接事実から、不正取得の事実を認定しました。
(2)医療用器具事件【東京地裁平成12・9・8判時1764号104頁】
医療用器具事件は、医療用器具を販売する原告が、元従業員および元従業員が設立以来取締役を務める被告会社に対し、被告らが顧客名簿等の営業秘密を不正に取得し、利用しているとして損害賠償等を求めた事案です。このケースを見ると、①被告会社は設立後2年余りで急激に医療用器具の売り上げを伸ばしていること、②被告会社の顧客のかなりの部分が原告の顧客と重なることなどの事実が、原告の顧客名簿を不正に取得し、これを利用して営業活動を行ったことを推認させる間接事実となると解されます。これに対し、③原告の顧客と被告会社の顧客とで共通する者には、大規模な病院や元従業員が原告に在職中に自ら訪問した病院も含まれていること、④被告会社は学会等を利用してPR活動を行っていること、⑤医療用器具に改良を加え、特許も出願していることなどの事実が、原告の顧客名簿を不正に取得し、これを利用して営業活動を行ったという推認を妨げる間接事実となると解されます。本判決は、以上の間接事実を総合して、被告らが、原告の顧客名簿を不正に取得し、これを利用して営業活動を行ったことを推認することはできないと判断しました。
(3)車両運行管理業務請負事件【東京地裁平成12・12・7判時1771号111頁】
車両運行管理業務請負事件は、車両運行管理業務請負業を営む原告が、元従業員が勤務する被告に対し、被告が契約内容一覧表等の営業秘密を不正に取得し、利用しているとして、営業秘密を使用した営業活動の差止めを求めた事案です。本判決は、①元従業員が原告を退社後間もなく被告に入社していること、②元従業員は原告に在職中契約内容一覧表等を取り扱っていることは認められるが、それ以外に元従業員が契約内容一覧表等を不正に取得したことをうかがわせる事情は認められず、他方、③契約内容一覧表等には不正な手段を用いて入手するだけの有用性は認められないこと、④被告の営業先には原告の顧客以外の事業所も相当数含まれていることに照らして、元従業員が契約内容一覧表等を不正に取得したと認めることはできないと判断しました。
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