知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

周知表示混同惹起行為(3)

2012-10-27 20:12:33 | 不正競争防止法

1 出所の混同

不正競争防止法(以下「不競法」といいます。)の2条1項1号に該当する不正競争といえるための要件の一つとして、「他人の商品又は営業と混同を生じさせること」が挙げられています。ここにいう「混同」に、単に商品又は営業自体を取り違える(A商品表示とB商品表示を間違うこと)場合のみならず、商品又は営業の主体を取り違える場合(商品を作ったり売ったりしているところを間違うこと。「出所の混同」)も含むことは、実務上当然とされています。

 

2 広義の混同

さらに、本号にいう混同の中には、出所の混同を越えて、両者間に何らかの関係があるのではないかと思わせる混同(広義の混同)までも含まれると解されています。この点、【日本ウーマン・パワー事件(最判昭和58・10・7判時1094号107頁)】は、「両者間にいわゆる親会社、子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係が存するものと誤信させる行為」は、混同を生じさせる行為に該当すると判断し、さらに、【NFL事件(最判昭和59・5・29判時1119号34頁)】は、自己と他人との間に「同一の商品化事業を営むグループに属する関係が存するものと誤信させる行為」も、混同を生じさせる行為に該当すると判断しました。

このように広義の混同概念は拡大の一途を辿っていますが、表示の使用についてライセンス関係が存するとの誤信は、広義の混同に含まれないと解する見解があり、注目に値します(詳細は有斐閣「不正競争法概説〔第2版〕田村善之」89頁参照)。

 

3 類似性と混同のおそれ

(1)原告の表示と被告の表示とが同一又は類似であったとしても、出所の混同が生じ得ないため、不競法2条1項1号に該当しない場合があります。

まず、他人の商品であることを示す表示を、当該他人の商品に付して販売したとしても、出所の混同を生じ得ないため、不競法2条1項1号に該当しないと解されます【ラコステ事件(東京地判昭和59・12・7無体集16巻3号760頁)など】。もっとも、流通過程で改変が加えられた場合には、周知表示の主体が販売した商品ではなくなっているため、不競法2条1項1号に該当することになります。ただし、販売態様如何により、当該改変を加えられた商品を販売する主体が周知表示の主体と異なること(緊密な営業関係も存しないこと)が明示されている場合には、混同のおそれが否定され、不競法2条1項1号に該当しないとされる場合もあり得ます【マグアンプK事件(大阪地判平成6・2・24判時1522号139頁)】。なお、マグアンプK事件では別途商標権侵害は肯定されています。

(2)また、モデルガンに対し実銃と似せるために実銃と同一の表示を付したとしても、かかる表示が出所を表示するものではないことを理由として、不競法2条1項1号に該当しないとする裁判例があります【ベレッタ事件(東京地判平成12・6・29判時1728号101頁)】。このような場合も、出所の混同が生じ得ない場合といえましょう。

(3)さらに、【大阪第一ホテル事件(大阪地判昭和48・9.21無体集5巻2号321頁)】においては、周知表示である「大阪大一ホテル」と相手方の表示である「大阪第一ホテル」との類似性は肯定されたものの、①両者の営業規模の差、②両者の宿泊施設様式の差、③「第一ホテル」グループのホテルグループとしての著名性、④「大一」が造語であることなどが考慮され、混同おそれはないと判断されました。


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