1 「模倣」の意義
(1)判例・学説の状況
「模倣」の意義について、山本143ページは、「「模倣」とは、原型となる商品の形態を盗用してこれと同一又は実質的に同一のものを意図的に作り出すことをいう」とし、「模倣は、客観的要件である模倣の事実と主観的要件である模倣の意図から成る」という。また、経済産業省49ページは、「「模倣」といえるためには、①他人の商品にアクセスすること、及び②結果の実質的同一性、が判断の要素としてあげられる」とする。
この点、ドラゴンソード事件東京高裁判決は、「不正競争防止法2条1項3号にいう「模倣」とは、既に存在する他人の商品の形態をまねてこれと同一または実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいい、客観的には、他人の商品と作り出された商品を対比して観察した場合に、形態が同一であるか実質的に同一といえる程に酷似していることを要し、主観的には、当該他人の商品形態を知り、これを形態が同一であるか実質的に同一といえる程に酷似した形態の商品と客観的に評価される形態の商品を作り出すことを認識していることを要するものである。ここで、作り出された商品の形態が既に存在する他人の商品の形態と相違するところがあっても、その相違でわずかな改変に基づくものであって、酷似しているものと評価できるような場合には、実質的に同一の形態であるというべきであるが、当該改変の着想の難易、改変の内容・程度、改変による形態的効果等を総合的に判断して、当該改変によって相応の形態上の特徴がもたらされ、既に存在する他人の商品の形態と酷似しているものと評価できないような場合には、実質的に同一の形態とはいえないものというべきである」としており(東京高裁平成10年2月26日判決)、その後の裁判例は概ねこの定義を踏襲している。
これに対し、土肥417ページは、「保護対象における創作レベル(商品形態の特異性)と行為の悪性の度合いを相関的に理解し、これらの2つの要因が構成する総量の多少によって、いわば定量的な模倣概念を考えておくべきではないかということである」とする。青柳220ページも、「A:原告製品形態が従来品に比して有している特徴と、B:被告の行為態様(被告商品形態は原告形態に創作を加えているか、被告行為態様の悪性の度合等)を相関的に判断して実質的同一性を判断すべき」とする。
(2)検討
被告の行為が不正な競争行為といえるか否かという観点から考えると、土肥説、青柳説のように、実質性同一性の判断において、行為の悪性等を考慮するべきことになろう。確かに、民法上の一般不法行為の成否については、被侵害利益の種類・性質に加えて侵害行為の態様が考慮されるのであり、本号違反の行為も不法行為の一種であるから、本号違反か否かの判断においても、行為の悪性等を考慮すべきとも思える。しかし、民法上の一般不法行為の場合と異なり、本号違反の行為に対しては、差止請求が認められるのであるから、実質的同一性の判断は、できる限り明確にしておくべきであり、行為の悪性等は考慮すべきではあるまい。従って、ドラゴンソード事件東京高裁判決の提示した基準が妥当である。
2 「模倣」か否かの判断の方法
(1)判例・学説の状況
模倣か否かの判断の方法について、山本145ページは、「先行者の商品と模倣したとされる商品とを眼前に並べて比較する対比的観察の方法によるべきである」とし、判断の基準について、「ありふれた特徴のない部分よりも、その商品に個性を与え、その商品が本来発揮すべき実質的機能又は世人の美感に訴える審美的な機能をより一層高めるべく開発されたことがうかがえる特徴的な部分を高く評価すべきである。このほか、今後の運用においてその商品の種類、用途形態の特徴などを踏まえで判断されていく中で判断の基準の細部も固まっていくものと思われる。その際、意匠法の類似性の判断基準が大いに参考になるであろう」とした上で、「意匠における類似判断の基準(高田「意匠」147頁以下)のうち、本号の場合にもあてはまりそうなものを挙げると、次のとおりである。「(1)全体観察による総合判断、(2)肉眼をもってする対比観察、(3)ありふれた部分は小さく評価され、特徴ある部分は大きく評価される、(4)斬新なものほど類似の幅が広く、同種類のものが数多く出れば出るほど類似の幅は狭くなる、(5)商品の見やすい部分の意匠の相違は大きなウエイトを持って判断される、(6)模様は、モチーフ、描法、構図、柄の大きさ及び色彩の総合として判断される、(7)大小の相違はその商品としての常識的なものである限り類似と判断される、(8)色彩は明度を中心としたトーンにより判断される。この中の「類似」という用語を「模倣」に置き換えれば、そのまま模倣の判断基準として用いても差し支えないものと思われる」とする。また、中島512ページも、「概括的に言えば、本条項における「実質的同一」は、特許発明や実用新案における技術思想と対象製品との対比問題との共通性はなく、むしろ意匠における類比判断の方法が参考になると思われる。すなわち対比にあたっては、先行商品と模倣商品について全体的に観察し、また先行商品の特徴的な部分、斬新な部分、目につきやすい部分の形態が模倣商品にも存在するか否か等を観察することが重要である。裁判上、意匠が類似するとされる範囲は、限定的であるので、本条項の適用における「実質的同一」の範囲もこれと大差ないものになろうかと思われる」とする。なお、意匠の審査基準22.1.3.1の(3)を見ると、意匠の類否判断に関し、
「①見えやすい部分は、相対的に影響が大きい。
②ありふれた形態の部分は、相対的に影響が小さい。
③大きさの違いは、当該意匠の属する分野において常識的な範囲内のものであれば、ほとんど影響を受けない。
④材質の違いは、外観上の特徴として表われなければ、ほとんど影響を与えない。
⑤色彩のみの違いは、形状又は模様の差異に比して、ほとんど影響を与えない。」
との記載がある。
この点、田村296ページは、意匠法の類似の判断基準を実質的同一性の判断と同義と解することには疑問があると述べる。また、外川83ページは、山本説に対し、「特に(3)、(4)、(5)は、不正競争防止法2条1号3号のような完全模倣を規制する本条の実質的同一性判断には馴染まないものであり、意匠の類似と不正競争防止法2条1項3号の実質的同一性とは明確に区別すべきものと思う。」と批判する(本間357ページも同旨)。
裁判例を見ると、イメージ・コレクション事件判決は、原告商品の宣伝方法、原告商品と被告商品との共通点・相違点及び弁論の全趣旨(同種の商品の形態などと思われる)から、原告商品の特徴的な点を確定した上で、原告製品の形態と被告商品の形態とを対比して、その実質的同一性を判断している(東京地裁平成14年11月27日判決)。以下、同様の判断手法・基準を採用した裁判例を列挙すると、携帯電話用アンテナ事件判決は、「原告商品において、当該商品において、当該商品分野における既存商品と区別される形態的特徴は、二段折れ収納形状にあるものというべきである。」とした上で、原告製品の形態と被告製品の形態とを対比して、その実質的同一性を判断している(東京地裁平成13年9月20日判決)。小熊タオルセット事件判決は、「包装箱に収納された状態の原告商品を正面から見た場合に、形態上の最も大きな特徴として看取されるのは、小熊の人形と小熊の絵が描かれたタオルがそれぞれ大きなブロックを形成し、それらが組み合わされて全体としての商品を構成しているという点である」とした上で、原告製品の形態と被告製品の形態とを対比して、その実質的同一性を判断している。その他の裁判例として、小型バック事件判決(東京地裁平成13年1月30日判決)、網焼プレート事件判決(大阪地裁平成10年9月17日判決)、カルティエ事件判決(東京地裁平成16年7月28日)、One*Way事件判決などがある。
また、裁判例の中には、実質的同一性の判断に際し、需要者に与える印象の同一性に言及するものがある(ドラゴンソード事件東京地裁判決、ドラゴンソード事件東京高裁判決・イメージ・コレクション事件判決・小熊タオルセット事件判決・活水器事件判決(東京地裁平成12年12月26日)など)。
(2)検討
そもそも、商品の形態は、その商品の機能を高め、又は美感をより発揮させることを目的として選択される(山本144ページ)ところ、機能的形態を保護の対象から除外する括弧書きの趣旨に照らせば、形態の実質的同一性の判断に当たっては、美感、即ち需要者に与える印象の同一性が重要なファクターとなることは当然ともいえよう。このことは、特に、被服・バッグ・時計などのデザイン性の高い製品について妥当すると考える。
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