知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

営業秘密の侵害行為

2011-03-14 21:23:12 | 不正競争防止法

1 営業秘密の侵害行為

営業秘密を利用する行為のすべてが不正競争防止法(以下「不競法」といいます。)に違反し、営業秘密の侵害であるとされるものではありません。法は、営業秘密を保護する一方で、情報の自由な流通を確保するため、不競法2条1項4号から9号に該当する6類型の行為についてのみ、営業秘密の侵害行為として不正競争行為となると規律しています。これら6類型の行為は以下の4グループに分けることができます。

(1)   不正取得者の不正利用行為(不競法2条1項4号)

(2)   正当取得者の不正利用行為(不競法2条1項7号)

(3)   悪意重過失転得者の不正利用行為(不競法2条1項5号、8号)

(4)   事後的悪意重過失者の不正利用行為(不競法2条1項6号、9号)

 

2 不正取得者の不正利用行為

窃取、詐欺、強迫その他の不正な手段によって営業秘密を取得する行為(以下「不正取得行為」といいます。)およびその取得にかかる営業秘密を使用または開示する行為は、不正競争行為となります。窃取、詐欺、強迫とありますが、これらは刑法上の概念と必ずしも一致するものではなく、具体的な行為が、「窃取、詐欺、強迫その他の不正な手段」に該当するか否かは、不競法の趣旨に照らして判断されることになります。裁判例の中には、現実には顧客情報を第三者に売却する意図であったにもかかわらず、情報管理室の操作担当者に対して、受注予定者の購入履歴を調査する旨の虚偽の事実を告げて顧客情報を取得した行為について、詐欺により営業秘密を取得する行為であるとしたものがあります【美術工芸品事件(東京地判平成11・7・23判時1694号138頁)。】

 

3 正当取得者の不正利用行為

保有者から営業秘密の開示を受けた者が、不正の利益を得る目的または保有者に損害を加える目的をもって当該営業秘密を使用または開示する行為は、不正競争行為であるとされます。例えば、ライセンス契約によりノウハウを開示されたライセンシーが、不正の利益を得る目的で第三者に当該ノウハウを開示してしまう場合がこれに該当します。

 

4 悪意重過失転得者の不正利用行為

営業秘密について不正取得行為または同7号に該当する不正取得行為もしくは秘密を守るべき法的義務に違反して営業秘密を開示する行為(以下「不正開示行為」といいます。)が介在したことを知りまたは知らないことに重大な過失があって、当該営業秘密を取得、使用または開示する行為は、不正競争行為とされます。「秘密を守るべき法的義務」には、法定の秘密保持義務の他、契約に基づく秘密保持義務も含まれます。

 

5 事後的悪意重過失者の不正利用行為

営業秘密を取得した時点では不正取得行為または不正開示行為が介在していることにつき善意無重過失者であった者が、悪意または重過失に転じた後に、当該営業秘密を使用または開示する行為は、不正競争行為であるとされます。もっとも、善意無重過失取得者がその後に悪意に転じたとしても、取引の権原の範囲内において営業秘密を使用、開示する行為は、法の適用が除外されます(不競法12条1項6号)。


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