知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

周知表示

2011-03-14 21:45:24 | 不正競争防止法

1 周知性の意義

不正競争防止法(以下「不競法」といいます。)2条1項1号の保護を受けるためには、当該表示が、「需要者の間に広く認識されているもの」であることが必要です。ここにいう「需要者の間に広く認識されている」ことを「周知である」(周知性)といいます。それでは、どの程度の「需要者」の間に広く認識されていれば、周知性の要件を充足するのでしょうか。この問題は、地理的範囲の問題と顧客層の問題と知名度の高さの問題に分けて考察するのが便宜です。

 

2 地理的範囲の問題

地理的範囲については、全国的に知られている必要はなく、一定の地域において広く知られていれば足りると解されます。この点は、法2条1項2号にいう「著名性」の場合には、地理的範囲としては全国又は相当な広範囲が想定されていることと異なります。

 

3 顧客層の問題

周知性が認められるためには、「需要者」の間に広く認識されていれば良いので、当該商品や営業が一般消費者ではなく特定の消費者層を需要者とする場合、周知性を認定する対象も、当該特定の消費者層となります。この点、ホテル・ゴーフル・リッツ事件【大阪高判平成11・12・16(判不競810の351頁)】においては、当時、パリにおける高級ホテルとして、海外旅行に関心のある一般消費者の間で広く知られていた「リッツ・ホテル」の「リッツ(RITZ)」という表示が、周知性の要件を充足するか否かが問題となりました。被告は、全国から無作為に抽出したアンケート結果において、リッツ・ホテルを知っている者は2パーセント以下であったことなどを指摘して争いましたが、本判決は、かかるアンケート結果につき、海外における高級ホテルの周知性を認定するための資料としては、対象母体の選定方法に疑問があると述べ、「リッツ(RITZ)」の周知性を肯定しました。

 

4 知名度の高さ

知名度の高さについては、当該事案において、不競法に基づく保護を与えるに値するだけの知名度があるか否かにより決する他なく、定量的基準を示すのは困難ですが、あえて一般論を示せば、10%を超える程度の知名度でも周知性を肯定できるとする見解があり、妥当と思われます(有斐閣「不正競争法概説〔第2版〕田村善之」46頁)。

 

5 商品形態と周知表示性

商品の形態は、本来的には商品の出所を表示することを目的として選択されるものではありませんが、①特定の商品形態が同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し、かつ、②当該商品形態が、(A)長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は、(B)短期間でも強力な宣伝等が伴って使用されたような場合には、結果として、商品の形態が商品の出所表示の機能を有するに至り、かつ、商品表示としての形態が需要者の間で周知になることがあり得ます。裁判例としては、【プリーツ・プリーズ事件(東京地判平成11・6・29判時1693号139頁)】などがあります。


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