知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

海葉審取(商標)

2012-03-08 05:01:08 | 最新知財裁判例

海葉審取

平成23年(行ケ)第10252号 審決取消請求事件(商標)

請求認容

本件は拒絶査定不服審判不成立審決の取消しを求めた事案です。

争点は本願商標(海葉(標準文字))と引用商標(海陽)との類否(商標法4条1項11号)です。

裁判所の判断は9ページ以下。

1 本判決は、まず、本願商標の観念について,本願商標「を構成する「海」と「葉」の文字は,いずれも平易,常用,かつ一般人にとって観念を容易に想起し得る漢字であり,また,2文字程度の漢字を組み合わせた単語について,これを構成する文字からその意味を理解することも通常のことであるから,本願商標からは,「海」と「葉」から生じる観念を組み合わせた,「海草の葉っぱ」,「海に浮いた葉っぱ」程度の観念を生じるものと認められる」とし、また、呼称について、「本願商標からは,構成文字に応じて,「カイヨウ」,「ウミハ」の称呼が生じ得るところ,原告は,本願商標を指定商品に含まれるかまぼこに使用する際に, 「かいよう」の読み仮名を付しているから(甲18),本願商標からは基本的に「カイヨウ」の称呼が生じるもの」と判断しました。

2 本判決は、次に、引用商標の観念について、「平易,常用,かつ一般人にとって観念を容易に想起し得る漢字を組み合わせたものであり,「陽」の文字からは「日の当たっている側」(甲10),「太陽」等の観念を生じるから,一般人にとって,構成文字である「海」と「陽」から生じる観念を組み合わせた,「海に昇る太陽」,「海に沈む太陽」,「海の日の当たる場所」程度の観念を生じる」とし、称呼について、「構成文字に応じて,「カイヨウ」,「ウミヒ」の称呼が生じ得るところ,引用商標権者は,引用商標を指定表品に含まれるかまぼこに使用する際に,「かいよう」の読み仮名を付しているから(乙4の1),引用商標からは基本的に「カイヨウ」の称呼が生じる」と判断しました。

3 本判決は、さらに、類否について検討し、まず、外観について,「本願商標と引用商標は,それぞれを構成する漢字2文字のうち, 先頭の1文字が「海」であって共通するものの,「海」ともう1文字の漢字を組み合わせた単語は非常に多く存在するから(乙3),「海」と組み合わされる漢字の外観上の相違を軽視することはできないというべきである。そして,本件においては,「葉」と「陽」との間に旁(つくり)や偏(へん)の共通性はなく,その相違は大きいから,全体として両者は外観が大きく異なる」とし、次に、観念について,「本願商標からは「海草の葉っぱ」,「海に浮いた葉っぱ」程度の観念が生じるのに対し,引用商標からは,「海に昇る太陽」,「海に沈む太陽」, 「海の日の当たる場所」程度の観念が生じるから,両者は観念において大きく異なる」とし、称呼について,「本願商標と引用商標から生じる称呼は,いずれも基本的に「カイヨウ」であり,基本的に同一である」とした上で、「本願商標と引用商標とは,その外観,観念において大きく相違し, 称呼において基本的に同一であるところ,海の母音である「あい」も,葉や陽の母音である「おう」も,漢字の音読みとしてありふれた読みであり,これに「K」と「Y」の子音を組み合わせた「KあいYおう」との称呼は2文字の漢字のありふれた読みからくるもので,外観,観念の相違に比較すると,識別力が弱いものである。そして,本件において,この判断に反して特に考慮すべき取引の実情は認められないから,本件においては,外観と観念の相違が称呼の共通を凌駕するものというべきであって,指定商品について共通するものがあるとしても,本願商標と引用商標とは類似するものではない」と判断しました。

4 本判決は、続いて、被告の「本願商標と引用商標とで抵触する指定商品を取り扱う業界などにおける取引の実情を考慮すると,称呼が極めて重要な要素となる」との主張に対し、「確かに,証拠(乙5の1~6の6)によれば,日常の買い物が困難になっている高齢者等に対応するため,本願指定商品に含まれるかまぼこ等を取り扱っている複数のスーパーマーケット,インターネットを利用したネットスーパーにおいて電話注文を受け付け,また,ウェブサイトを設けているかまぼこ店においても電話注文を受け付けている事実が認められるものの,他方において,これらの電話注文の多くは,事前に配布されたカタログや商品一覧のチラシの存在,ウェブサイト上の商品情報や商品番号,さらには単価などの閲覧等を前提とするものと認められるから, これらの電話注文に関して称呼のみで取引が特定されている実情にあるとはいえない。 また,CMソングについても,本願指定商品に含まれるかまぼこを取り扱っている複数の業者がCMソングを作成している事実は認められるものの(乙7の1~7の5),CMソングの歌詞には取扱業者の名称も含まれるのが通常であろうから,これにより称呼のみが特に重視される実情にあると認めることはできない」と判断しました。

本判決は、称呼が基本的に同一であるにもかかわらず、外観・観念の相違を重視して、商標の類否を否定したをしたものとして参考になると思われます。

 

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