知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

クランプ審取

2012-03-11 22:41:56 | 最新知財裁判例

クランプ審取
平成23年(行ケ)第10127号 審決取消請求事件
請求棄却
争点は進歩性の有無です。
1 裁判所の判断は23ページ以下
本判決は、相違点1に関し、「被加工物(ワーク)をを支持・固定するクランプ装置においてクランプロッド(ピストンロッド)が傾くことが望ましくないこと(本件明細書の段落【0003】)は,本件優先日当時においても当業者に自明な技術的課題にすぎないところ, クランプロッドの円周方向にガイド溝及び係合具を均等に(特に3組以上)配置し, クランプロッドをハウジング(カバー,シリンダ)内で複数の方向から支持するよ
うにすれば,クランプロッドの傾きを防止し,その運動をより円滑にガイドできることは当業者には明らかであるから,甲第14,第15号証に記載された上記技術的事項を適用する動機付けに欠けるところはない」と述べた上、「甲第12号証発明に甲第14,第15号証に記載された上記技術的事項を適用することにより,当業者において,ガイド溝及び係合具を複数組設け, かつガイド溝を相互に平行に配置することとして,相違点1を解消することは容易であるというべきである」と判断しました。
そして、本判決は、原告の「クランプロッドに設けるガイド溝を複数にすると強度上の問題を無視できなくなる」などの主張に対し、「ガイド溝の深さや形状を工夫したり,またはそもそもクランプロッドの材質をより頑丈なものにしたりすることによっても対処が可能であるから,当業者にとってガイド溝を複数にする動機付けに欠けるものではないし,上記技術的事項の適用に阻害要因があるものでもない」と判断しました。
2 本判決は、相違点2に関し、「機械設計・製図に関する一般的な文献である山本唯雄ほか著「新版3訂 JISによる 機械製図法」の記載を引用した上で、「本件優先日当時においてすら,油圧ピストンと同様な機構を含む油圧クランプ装置で,前記すきまばめの最も緊密に嵌め合う範疇に属する公差域クラスの組合せを用いることが当業者に知られていたということができる」と認定し、他方、本件明細書(甲4)中では,クランプロッドの第1,第2摺動部分とハウジングの緊密な嵌合の程度を示す数値等は特定されていないが,クランプロッドの第1,第2摺動部分とハウジングとの間の隙間が小さすぎるときには,クランプロッドの回転動作に支障が生じ,滑らかに回転しないことは明らかである。クランプロッドはハウジング内で回転可能でなければならないから(特許請求の範囲),クランプロッドの第1,第2摺動部分とハウジングとの間の隙間をできる限り小さくするとはいっても,クランプロッドの旋回動作を阻害しないよう,なお相当程度の隙間が存在することは本件発明1において当然に予定されているというべきである」と述べて、「少なくとも本件優先日当時の当業者の技術常識ないし周知技術・慣用技術に照らしてさえ,本件発明1にいう「緊密に嵌合支持」は,上記のすきまばめにおける穴と軸材の各直径の公差域クラスの組合せと同程度の水準のものか,又は上記組合せの範囲内で公差の大きさをさらに最適化する(例えばクランプロッドの外径に係る公差を小さくする)程度のものにすぎないというべきであって,審決のように隙間の設定及び緊密な支持嵌合が設計的事項であると断定してよいかはともかくとして,クランプロッドの傾き防止という技術的課題を解決するという見地から,当時の当業者の技術常識ないし周知技術・慣用技術を用いて当業者が容易に想到できる事柄であると評価して差し支えない」と判断しました。
本判決は、機械設計・製図に関する一般的な文献から当業者の技術常識を丁寧に認定したものとして参考になります。


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