水中切断用装置事件判決
平成24年(行ケ)第10402号 審決取消請求事件
1 事案の概要
1-1 本件は、特許庁が無効2011-800131号事件について平成24年7月10日にした審決のうち,「訂正を認める。」との部分及び「特許第3261672号の請求項1ないし2に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との部分を取り消すことを求めるものです。
1-2 本件発明1
【請求項1】
「ノズルから噴射されるアブレシブによりワークの切断加工を液中で行うためのキャッチャ槽を備え,このキャッチャ槽にアブレシブ切断中にキャッチャ槽内の水位が上限水位を越えた場合にこの上限水位を越えた水を外部に排出するための水位上限調整用オーバーフロー排出口が設けられている水中切断用アブレシブ切断装置において, 前記キャッチャ槽の内部と液面下で連通すると共にワークの切断加工エリアから平面視で外側に配置された(以下,この訂正事項を「訂正事項c」という。)液位調整タンクを備え,該液位調整タンクの内部の液面上は気密室に形成され, 該気密室は該気密室内への気体の導入又は導出によって液位調整タンク内の液体を液面下の連通路を介して前記キャッチャ槽に吐出又はキャッチャ槽内の液体を液位調整タンク内に吸入するための給排気装置に接続されていることを特徴とする水中切断用アブレシブ切断装置」
1-3 本件発明1と甲7発明との相違点
2-1 甲7記載の発明(以下「甲7発明」)の内容
「ワークの切断加工を水中で行うための焼成槽を備える,プラズマ・アーク・トーチシステムのような水中切断装置において, 前記焼成槽の内部と水面下で連通する第二排気チャンバーを備え, 該第二排気チャンバーの内部の水面上は気密室に形成され,該気密室は該気密室内への空気の導入又は導出によって第二排気チャンバー内の水を水面下の水路を介して前記焼成槽に吐出又は焼成槽内の水を第二排気チャンバー内に吸入するための給排気装置に接続されている水中切断装置」
1-4 本件発明1と甲7発明との相違点
相違点1
水中切断装置が,本件発明1ではノズルから噴射されるアブレシブに
よりワークの切断加工を行う水中切断用アブレシブ切断装置であるのに
対し,甲第7号証記載の発明ではプラズマ・アーク・トーチ・システム
のような水中切断装置である点。
相違点2
キャッチャ槽が,本件発明1では切断中にキャッチャ槽内の水位が上
限水位を越えた場合にこの上限水位を越えた水を外部に排出するための
水位上限調整用オーバーフロー排出口が設けられているのに対し,甲第
7号証記載の発明ではオーバーフロー排出口が設けられていない点。
相違点3
液位調整タンクが,本件発明1ではワークの切断加工エリアから平面
視で外側に配置されるのに対し,甲第7号証記載の発明ではこのような
ものでない点。
2 争点
主たる争点は、相違点3に係る容易想到性の判断です。
3 裁判所の判断
本判決は、訂正を認めた上、 取消事由3(本件発明1についての容易想到性の判断の誤り)について 「水などの液中で切断加工を行う装置において,水槽などの加工槽内の液面(水位)を調節する装置を切断加工領域を除く領域(外側)に備えることは,本件出
願日以前において周知であった」と認定し、「後記3(1)のとおり、甲7公報記載の水中切断装置において用いられているプラズマ・アーク・トーチ・システムに代えて,ノズルから噴射されるアブレシブによりワークの切断加工を行う水中切断用アブレシブ切断装置とすることは当業者が容易に想到し得ることである」と判断し、「水などの液中で切断加工を行う装置において,水槽などの加工槽内の液面(水位)を調節する装置(本件発明における「液位調整タンク」に該当する。)を,切断加工領域を除く領域(外側)に備えることは,本件出願日以前において周知であったこと,及び,アブレシブ切断装置においては,ノズルから噴射された研磨材を含む高圧水は水中でも減衰が少なく,ワークに衝突し加工を行った後の下流領域においても,かなりの衝撃加工エネルギーを保有しているものであることは本件出願日において周知であったこと(甲28,29,33)に照らすと,甲第7号証記載の発明において,切断方法としてアブレシブ切断を採用した際に,液位調整タンクなど損傷してはいけないものを,アブレシブジェットが直撃してしまう場所を避けて切断加工領域を除く領域(外側)に配置することは,当業者が容易に考えることであり,そのように考える動機付けがあるといえる」と述べ、さらに、「甲第7号証記載の発明に関し,上記の構造とすることが技術的に困難であるとは認められない(甲7,19,30,32)ことからすれば,液位調整タンクを切断加工領域の下側から切断領域を除く領域(外側)に配置することは設計的な変更事項であるといえる」と判断し、「甲第7号証記載の発明において,切断方法としてアブレシブ切断を採用した際に,上記周知技術を適用して,相違点3に係る発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たものであると認められる」と結論付けました。
ここで、「甲7公報記載の水中切断装置において用いられているプラズマ・アーク・トーチ・システムに代えて,ノズルから噴射されるアブレシブによりワークの切断加工を行う水中切断用アブレシブ切断装置とすることは当業者が容易に想到し得ることである」ことについて、本判決は、「甲第7号証記載の発明は,ワークの切断加工を水中で行うための焼成槽を備えるプラズマ・アーク・トーチシステムのような水中切断装置において,焼成槽(キャッチャ槽)内の液位を上下させるための第二排気チャンバー(液位調整タンク)からなる液位調整手段を有するものである(甲7)。そして,甲9公報には,高放射性固体廃棄物の水中切断装置に関する発明が記載されているところ(特許請求の範囲,【0001】),被切断物,すなわちワークを水中で切断する手段として,研磨材すなわちアブレシブを混入したウォータジェットを噴射するためのノズルを用いても,プラズマアークを照射するためのトーチを用いてもよいことが記載されているので(【0032】),同公報には,切断装置において種々の切断方法を適宜選択して使用することができることが開示されているものといえる」と認定し、「甲7公報記載の水中切断装置において用いられているプラズマ・アーク・トーチ・システムに代えて,ノズルから噴射されるアブレシブによりワークの切断加工を行う水中切断用アブレシブ切断装置とし,相違点1に係る発明特定事項を本件発明1のものとすることは,当業者が容易に想到し得ることである」と判断しました。
4 検討
本判決は、調整タンクの損傷を避けるという点を周知技術を適用する動機付けと解しています。これは、当該周知技術が採用される一般的理由を動機付けの基礎付け要因としたものであり、周知技術の内容自体に動機付けがある例と整理できます。
また、本判決は、単一の公知文献に「ワークを水中で切断する手段として,研磨材すなわちアブレシブを混入したウォータジェットを噴射するためのノズルを用いても,プラズマアークを照射するためのトーチを用いてもよいことが記載されているので(【0032】),同公報には,切断装置において種々の切断方法を適宜選択して使用することができることが開示されているものといえる」ことから、プラズマ・アーク・トーチ・システムをノズルから噴射されるアブレシブによりワークの切断加工を行う水中切断用アブレシブ切断装置に置換することは容易想到であると判断しており、単一の公知文献に開示があることを以て、特定の技術事項が当業者が容易に想到し得る選択事項であると判断した根拠とした例として参考になると思われます。
以上
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