知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

自炊代行訴訟判決に対する反論

2013-11-28 16:56:32 | 著作権

自炊代行訴訟に対する反論

第1 原判決の内容
原判決は、書籍の電子ファイル化が複製における枢要行為であることを根拠として、複製の主体は法人被告らであり利用者ではないから、30条(私的使用目的複製の抗弁)は問題にならないと判断しているが、複製の主体の事実認定誤るとともに30条の解釈を誤ったものと言わざるを得ない。以下理由を述べる。

第2 反論
1 著作権法の位置づけ・構造
1-1 情報利用の自由に対する規制としての著作権法
古来より情報は自由利用が原則であり、また、情報の自由利用は社会の厚生の増大をもたらす側面がある(中山「著作権法」13頁参照)。また、日本は、自由主義を基調とする社会であり、情報の利用も自由が原則であり、これに対する規制は例外である。
この点、著作権法は、著作物という情報の利用についての規制であるが、これはそもそも「著作者等の権利の保護を図」(著作権法1条)るために例外的に認められるものである。

1-2 著作権法の構造
著作権法は、著作物について、全ての利用行為を規制の対象とするものではなく、「私的でない複製」と「公に提示・提供する行為」のみを禁止するものである(前田「著作権の間接侵害論と私的な利用に関する権利制限の意義についての考察」(知的財産法政策学研究Vol.40)182頁)ところ、「複製」については、「複製」全般を禁止行為と規定した上で(著作権法21条)、30条以下の制限規定により、この禁止を解除するという仕組みを採用している。この仕組みを前提として、30条以下の制限規定は例外であって、厳格に解釈すべきとの見解もあるが、そもそも著作権による規制が情報の自由利用に対する例外なのであって、30条以下の制限規定は、原則に立ち返るものであるから、厳格に解釈すべきとの見解は成り立たず、むしろ、時代により変化する社会的要請に応じて「文化的所産である著作物の公正な利用」(著作権法1条)を確保するために柔軟に解釈されるべきものである。

2 利用方法確保説
30条の立法趣旨は、情報の自由利用の原則を背景として、著作物の多様な利用方法を確保させることに求めるべきである。すなわち、書籍に即していえば、書籍の利用方法としては、書籍という媒体をそのまま閲覧することが典型的な利用方法であるが、これ以外にも、筆写することにより理解を深めたり、一部を複製してファイルすることにより自分なりのデータベースを作成することにより、自己の創作等の素材・インセンティブとする等、多様なものが想定される。このように、著作物について、個人の創意工夫に基づく多様な利用方法を確保することは、文化の発展に寄与する(著作権法1条)ものであり、著作権法の予定するところであるとともに、自由主義の理念に合致するといえる。
もっとも、たとえ、著作物の多様な利用方法の確保のためのものであっても、著作権者の正当な利益を害するような規律は許されない。
この点、書籍に即して言えば、著作権者は、書籍が販売される過程の必須の要素である複製と最初の譲渡について禁止権を有しており、この禁止権を背景として正当な対価を得る機会が与えられているから、読者が書籍を購入した後に行う複製については、原則として、著作権者に禁止権に与える必要はない。但し、その複製が、複製物を公衆に譲渡又は閲覧させる等の目的で行われる場合等は、著作権者の正当な利益を害することになるため、禁止権の対象にすべきであり、そのために、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られて範囲内において使用すること(以下「私的使用」という)」を目的とするとき」という要件(以下「私的使用目的要件」)が設定されている。そして、使用者以外の者の発意に基づいて複製が行われる場合には、当該複製は、私的使用のためのものではないことが多いことから、私的使用目的要件の充足を担保するために、「使用する者が複製」という要件が設定されている。また、この場合の「使用者」は、著作物の媒体を正当に取得した者でなければならない。

3 「使用する者が複製」の解釈
3-1 委託複製含有説
このように、30条の立法趣旨を、著作物の多様な利用方法の確保に求めた上で、私的使用目的要件により著作権者の正当な利益が保護されていると解するならば、「使用する者が複製」という要件の意義は、当該複製の対象となる著作物を格納する媒体が正当に取得されたこと(著作権者に対価を得る機会が与えられていたこと)を担保するとともに、私的使用目的要件の充足を担保することにあることになる。
以上の理解を前提とすれば、「使用する者が複製」といえるためには、使用者自身が物理的に複製する場合のみならず、第三者に委託して複製させる(以下「委託複製」)場合も含まれると解すべきである(委託複製含有説)。けだし、委託複製を禁止権の対象としないことは、自ら複製する時間的余裕等のない者に対して私的使用目的の複製の機会を確保し著作物の多様な利用方法の確保を促進することにつながるものであり、30条の趣旨に合致するからである。
もっとも、前記の30条の趣旨に照らせば、「使用する者が複製」に該当する委託複製といえるためには、以下の要件が必要である。
第1に、「委託」である以上、使用者が当該複製を行うことを発意したことが必要である。
第2に、「使用する者が複製」という要件の意義は、当該複製の対象となる著作物を格納する媒体が正当に取得されたこと(著作権者に対価を得る機会が与えられていたこと)を担保することにあるから、委託者たる使用者が当該媒体を選択・調達することが必要である。
第3に、当該複製物は、当該媒体を正当に取得した者に対してのみ提供されることが必要である。けだし、当該媒体が第三者に提供されるとすれば、著作権者の正当な利益が害されるからである。

4-2 あてはめ
これを本件について見ると、被告ドライバレッジの提供するサービスは、利用者の依頼に基づくものであるから、「使用者が当該複製を行うことを発意した」ものであるといえる。そして、対象の書籍は利用者が購入し、被告ドライバレッジに送付したものであるから、「委託者たる使用者が当該媒体を選択・調達したものである」といえる。さらに、被告ドライバレッジは、生成された電子データを利用者に納品しており、電子データ及び裁断本の販売は行っていないのであるから、「当該複製物は、当該媒体を正当に取得した者に対してのみ提供される」ものであるといえる。
。以上の点に照らせば、被告ドライバレッジの提供するサービスは、利用者の委託に基づくものであり、当該サービスの提供過程で生じる「複製」は30条により許容されるものであることが明らかである。

以上

 

 

 


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