軸受装置審取
平成23年(行ケ)第10251号 審決取消請求事件
請求棄却
本件は拒絶査定不服審判不成立審決について取消しを求めるものです。
争点は、実施可能要件の充足の有無です。
裁判所の判断は16ページ以下
本判決は、「本願発明は,硬化層のかしめ側端部の位置を本件関係式に基づいて規定することにより,内輪と中空軸との間に隙間が発生しないようにすることを特徴とする軸受装置(【請求項1】)であるところ,本願明細書の前記(1)エの記載からすると,本願発明の発明者らは,実験(本件試験)と試算によりX=(A-C-D)Y /Eとの式を求め,同式から本件関係式を導いたものであると認められる」と認定し、本件関係式が本件試験の結果から導かれたものであるとしても,「本願明細書には,本件関係式が普遍的に成立することの十分な裏付けがあるということはできない」と判断しました。
そして、本判決は、結論として、「本願明細書の発明の詳細な説明の記載には,当業者の技術常識を踏まえても,硬化層のかしめ側端部の位置を本件関係式に基づいて規定することにより,内輪と中空軸との間に普遍的に隙間が発生しないこととなる理由が明らかにされておらず,当業者が本願発明の技術上の意義を理解するために必要な事項
が記載されていないものといわざるを得ない」と判断し、さらに。一般論として、「法36条4項において,明細書の発明の詳細な説明について,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しなければならないと規定した趣旨は,発明の詳細な説明に基づいて当業者が実施できない発明に対して独占的な権利を付与することは, 発明を公開したことの代償として独占権を付与するという特許制度の趣旨に反する結果を生ずるためである」と述べた上、「本願明細書の発明の詳細な説明には,当業者が本願発明の技術上の意義を理解するために必要な事項の記載がない以上,当業者は, 出願時の技術水準に照らしても,硬化層のかしめ側端部の位置を本件関係式に基づいて規定することにより内輪と中空軸との間に普遍的に隙間が発生しないという技術上の意義を有するものとしての本願発明を実施することができないのであるから, その記載は,発明の詳細な説明に基づいて当業者が当該発明を実施できることを求めるという法36条4項の上記趣旨に適合しないものである。 したがって,このような本願明細書の発明の詳細な説明の記載について,通常の知識を有する者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないとして,法36条4項の要件を満たさないと判断した本件審決に誤りがあるということはできない」と判断しました。。
本判決は、実施可能要件の充足を否定した一事例として参考になると思われます。
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