1 平成23年(行ケ)第10408号審決取消請求事件
2 本件は拒絶査定不服審判不成立審決の取消を求めるものです。。
3 本件の争点は進歩性の有無です。
4
4-1 本判決は、相違点2についての認定・判断の誤りについて、引用発明及び引用刊行物2記載事項を認定し、「R移動をさせる際に,引用発明では,駆動軸46と駆動軸48が逆転することとなる一方,引用刊行物2記載事項では,第2回転出力軸4のみが回転するのは,単に動力を伝達する径路の相違に基づくものであるといえる」と判断し、「伝動装置において,回転動作や回転力を伝達するに当り,入力される回転動作等と,出力される回転動作等を決定すれば,その間の動力伝達機構に任意の機構を選択して設計することは,当業者の技術常識であるから,機序に実質的な差異のない引用発明と引用刊行物2記載事項との間で,動力伝達機構の構造を転用することには,何ら技術上の妨げはない」とし、さらに、そして,かかる動力伝達機構として,引用刊行物2記載事項では,「第1のモータにより回転駆動され,旋回軸心を有する回転基台が備えられ,前記回転基台の内部には,第2のモータにより回転駆動され,前記旋回軸心と同軸に配置された第1支軸が,該回転基台の回動とは無関係の状態に突出させられ,前記第1支軸には,第1アームの一端部が取り付けられ,前記第1アームの他端部には,該第1アームの回動とともに,該第1アームの体内でプーリ及びベルトを介して2:1のギア比で回動されることとなる第2支軸が,該第1アームの回動とは無関係の状態に突出させられ,該第2支軸には,第2アームの一端部が取り付けられ」た構成を採用しているから,引用発明の「上部アーム31が,肩部40における軸Y1の回りにシャフト46と同調して向きを変えるために第1の駆動軸46に固定的に搭載され,前方アーム部が,伝動システム140で第2の駆動軸48に接続され,アームアセンブリ25の肘部41において回転軸Y2の回りに回転される」構成と置換することには,技術上の妨げはなく,当業者が容易になし得るものである」と述べて、「引用発明における駆動部27及び可動アームアセンブリ25を引用刊行物2記載事項の搬送用ロボットの駆動部及びアーム伸縮機構に置き換えることは事実としてできないとの原告の主張は,理由がない」と結論付けました。
4-2
次に本判決は、相違点4についての判断の誤りについて、原告の「補正発明は,ロボットの基本形式が引用発明とは全く異なっており,引用発明の移動軌跡を1種にすることは自明でないし,論理式を導く示唆もない,補正発明は,R移動とT移動がそれぞれ1軸制御であり,複合制御のときのみ2軸制御を行うようにするとともに,その制御の論理式も簡易な論理式で済むようにしている」との主張に対し、「引用発明と引用刊行物2記載の搬送用ロボットとは,アーム駆動の機序に差異はなく,R移動及びT移動という2つの同じ移動を行い,またR移動及びT移動を行うための軸(駆動軸46,48,回転出力軸3,4)の回転方向に実質的な差異がないことは,上記2(2)イで説示したとおりであるから,ロボットとしての基本形式を異にしているとはいえない」とし、さらに、「引用発明においては,末端作動体部44上に基板Sが載置されていない状態から,末端作動体部44の中心が基板除去/挿入軸X1,X2に沿って移動させても,末端作動体部44の移動を妨げる技術的な事情はなく,また,引用刊行物1には,「別の実施例においては,カセットの内側の位置がアームアセンブリ25の「R」移動を妨げるところでは,末端作動体44はカセットに対応する基板除去/挿入軸X1,X2に対して小さい角度の軸に沿って,カセットに対して末端作動体を並進させることによりカセットに挿入される」(16頁7行~11行)と記載されているように,末端作動体部44をカセット26L,26Rへの最短経路が妨げられる場合には,末端作動体部44の中心の移動経路を基板除去/挿入軸X1,X2に対して小さい角度で動かすことが示唆され,すなわち,小さい角度が0 °を想定すると,移動経路は,基板除去/挿入軸X1,X2に沿って移動することになるから,末端作動体部44上に基板Sが載置されているかいないかにかかわらず,基板除去/基板挿入動作において,末端作動体部44の中心が基板除去/挿入軸X1,X2に沿って移動するものとすることは当業者にとって複数の動作が可能なものの一方の動作にまとめて単純化したものにすぎず,格別の困難性を有するものではない」と判断しました。
本判決は、また、「引用刊行物1には,「基板は,カセット26の側面127と実質的に平行に方向付けられた軸Xに沿って,正面アクセス開口部を通ってカセット26の中へかつそこから外へ搬送される。カセットはフレーム20の正面11の近くにほぼ並んで配置される。カセット26の基板アクセス開口部126は,フレーム20の背面部13の方と同じ方向に面する。よって,それぞれのカセット26の中へかつそこから外へ基板がそれに沿って搬送される軸Xは,互いに実質的に平行に整列配置される」(10頁26行~11頁3行)とされ,軸X1及びX2を概念として含むことが明らかな軸Xに沿って基板がカセット26に対して出し入れ,すなわち,基板挿入/基板除去されることが示されており,特段異なる退行動作の制御を行うのであればともかく,そうとはされていないから,基板を搬送する部材が基板をカセット26に挿入した後に基板が載置されていない状態で退行する際には,基板をカセット26から除去する場合と同様の搬送径路(軌跡)をとるとみるのが自然であり,他にそのような動作であると認定することを妨げる記載もない。その点,引用刊行物1の記載において,末端作動体部44の中心の移動経路を基板除去/挿入軸X1,X2に対して小さい角度で動かす動作に関して,冒頭に「別の実施例においては」と説明されているように,かかる動作が引用発明の一実施例の位置づけにすぎないことは明らかである」と述べ、「引用発明では,末端作動体部44上に基板Sが載置されているかいないかにかかわらず,基板除去/基板挿入動作において,末端作動体部44の中心が基板除去/挿入軸X1,X2に沿って移動するものとすることは想定されていた
ともいえる」とした上、「補正発明と引用発明とは,「基板の中心の一点を,旋回軸心から一定距離だけ外れて,かつ,ハンド(末端作動体部44)の到達範囲内にある任意の方向の直線上を,ロボット本体(ロボット24)に対して直線移動させる」点で一致するものであるから,その移動の軌跡を数学的に表わせば,駆動軸46の回転角度をθ,駆動軸46に対する駆動軸48の相対回転角度をφとしたとき,引用発明は,「{m+2Lsin (φ)}sin (θ)=h(一定)」を満足する移動を行うものである」ことを根拠として、「引用発明には,「{m+2Lsin (φ)}sin (θ)=h(一定)」とすることが,実質的に示されているといえるから,当業者が容易に想到し得る程度のものである」と結論づけました。
5 本判決は、「伝動装置において,回転動作や回転力を伝達するに当り,入力される回転動作等と,出力される回転動作等を決定すれば,その間の動力伝達機構に任意の機構を選択して設計することは,当業者の技術常識である」及び「引用刊行物1の記載において,末端作動体部44の中心の移動経路を基板除去/挿入軸X1,X2に対して小さい角度で動かす動作に関して,冒頭に「別の実施例においては」と説明されているように,かかる動作が引用発明の一実施例の位置づけにすぎないことは明らかである」ことを容易想到性を肯定する理由の1つとしている点において参考になると思われます。
以上
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