1 平成24年(行ケ)第10090号,第10414号 審決取消請求事件,同参加事件
2 本件は特許無効審判請求不成立審決の取消訴訟です。
3 争点は進歩性の有無です。
4 本判決は、進歩性に関し、「甲1発明は,プリペイドカードに記載された情報の隠蔽を課題とするものであることが認められる」としつつ、他方、「有価証券情報の印字部外周に施された抜き型による加工はプリペイドカードを抜き取り可能とするためのものであるところ,これは,プリペイドカードが単に有価証券情報をカード購入者に通知するのみならず, 利用者による携帯を予定しているため,有価証券情報が記載されているとともに有価証券情報を隠蔽してもいる折畳み対向紙片から分離させる必要があるために設けられたものと解される。すなわち,購入者に交付されるシートからプリペイドカードを分離して使用できるようにすることも,請求項1~8にその構成が包含されているのみならず,考案の詳細な説明の段落【0010】,【0024】,【0026】,【0030】,【0031】,【0035】にその構成が独立して説明されている事項であり,甲1発明において技術的課題の一つとされていたというべきである」と認定し、「甲1発明は,折畳み対向紙片の内側面に印字された部分が有価証券情報のように隠蔽される必要のないものであっても,折畳み対向紙片の内側面の一部分を独立して抜き取る(折畳み対向紙片から分離させる)必要性があれば,プリペイドカードに代えてかかる分離させる必要があるものを採用するについての動機付けを含有するものというべきである」と判断した上で、「広告の一部に返信用葉書を切取り可能に設けることは, 本件出願前に既に周知の技術であったと認められる(特開2004-133065 号公報〔甲3〕,特開平3-55272号公報〔甲16〕)。そして,広告の一部に返信用葉書を設ける場合,返信のために葉書部分を分離させる必要があることは明らかである。したがって,消費者等が受領したシートや紙面から分離して使用するものとして,甲1発明の「プリぺイドカード」に代えて「葉書」を採用することは当業者にとって容易想到であるというべきである」と判断し、また、「返信用葉書を備え付けた郵便物であって,当該返信用葉書に受取人の個人情報(氏名・会員番号・生年月日・電話番号・性別・住所など), 預金残高,借入金額などの隠蔽すべき情報が予め記載されたものも本件出願前において周知の技術であったと認められる(特開2000-177277号公報〔甲17〕,特開平2-108073号公報のマイクロフィルム〔甲19〕)」と認定し、よって,「 隠蔽されるべき情報が記載され,かつ,顧客等に送付ないし交付される郵便物や書面から分離して使用されるべきものとしてプリペイドカードと葉書は共通する一面を有しているといえる」ことを根拠として、「甲1発明の「プリぺイドカード」に代えて「葉書」を採用することは当業者にとって容易想到であるということもできる」と結論づけました。
さらに、本判決は、審決の「プリペイドカード」を筆記性が要求され,さらに大きさや厚さの基準が定められている「葉書」に代える動機が甲1発明には見出せない」とのロジックに対し、「筆記性や大きさや厚さといった基準の差異については,「分離して使用されるもの」の単なる物品特性上の相違にすぎない。また,甲1発明が,プリペイドカード付きシートが購入者によって受領された後はプリペイドカードを分離させることに意義があり,そこに技術的課題を見出したことからしても,「葉書」に筆記性が要求され,大きさや,厚さといった基準があるからといって,「プリペイドカード」を「葉書」に代える動機がないということはできないというべき」と判断しました。
5 本判決は、先行文献が複数の技術的課題と有する場合において、1つの技術的課題の共通性を基礎として動機付けを認めた事例として参考にあると思われます。
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