知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

大株主の特別な取り扱い

2011-04-07 07:53:25 | M&A

1 株主の平等な取り扱い

前記のとおり、「株主の平等な取り扱い」はTOB規制の趣旨の一つである。この「株主の平等な取り扱い」の意味は、実質的には少数株主に比べて大株主を有利に扱わないということであり、逆に言えば、少数株主に比べて大株主を不利に扱うことは、TOB規制の趣旨に反しないと解される。そして、現在の実務においては、大株主との間でTOBに関する契約(以下「応募契約」)を締結し、応募契約の中で、いくつかの点において、少数株主に比べて大株主を不利に扱う効果をもたらす条項を規定している。

 

2 撤回権・解除権の制限及び損害賠償の規定[1]

法は、公開買付けに応募した株主(以下「応募株主」)が公開買付期間中いつでも応募を撤回(公開買付けに係る契約の解除)することを認めており[2]、当該応募の撤回を理由とする買付者による損害賠償・違約金の請求を禁止している[3]

しかし、大株主についてもこの規定の趣旨が及ぶとすると、買付者は、多額の費用を負担して公開買付けを開始したにもかかわらず、大株主の一方的な都合により大株主による応募の撤回が可能になるが、かかる自体は買付者の地位を著しく不安定にするものであり、許容し難いというべきである。また、前記のとおり、大株主の持ち株数を公開買付けの下限に設定した場合には、大株主の一方的な都合により公開買付けが不成立となってしまい、せっかく検討の上応募した応募株主の利益も害することになり、妥当ではない。

そこで検討すると、この規定は、応募株主の撤回の自由を確保することにより、応募株主の応募が十分な検討に基づくものであることを制度的に担保しようとするものである。したがって、その性質は強行規定であるが、その射程範囲は、検討の機会が十分に与えられた大株主との間において公開買付手続きの外で締結された応募契約には及ばず、応募する少数株主の中の応募株主との間に成立する「公開買付けに係る契約」に限定されると解するべきである。

したがって、応募契約において、大株主の応募義務を規定し、撤回権・解除権を制限することは、法の趣旨に反するどころか、むしろ適合するものというべきである[4]

 

(3)公開買付価格の均一性

以上の見解を推し進めると、「公開買付価格の均一性」[5]についても実質的に考えることができるように思われる。すなわち、大株主に対してTOB価格を超過する金員を支払い、実質的に株式の対価となる金員を別の名目で支払うことは、「少数株主に比べて大株主を有利に扱う」ものであり、「公開買付価格の均一性」に反して許されないが、他方、大株主との関係において株式の売買価格をTOB価格よりも低くすることは、「少数株主に比べて大株主を不利に扱う」ことであり、「公開買付価格の均一性」の要請に反するものではないというべきである。このように解することができるとすれば、少数株主に対しては、(買付者が考える)十分なもの以上のプレミアムを支払うことが可能になる一方、大株主との関係において株式の売買価格を例えば時価とイコールに設定する場合には、買付者の予算に与える影響も限定的となる。



[1]全体につき、石井禎・関口智弘編著「実践TOBハンドブック 改訂版」日経BP社の180頁以下、長島・大野・常松法律事務所編「公開買付けの理論と実務」271頁以下。

[2]27条の121

[3]27条の123

[4]さらに、応募契約において、大株主に表明保証を行わせ、その違反について損害賠償義務・補償義務を課すこと、公開買付け終了後の株主総会における議決権行使を買付者の指定する者に一任すること等の規定を設けることも、違法ではない。

[5]27条の23項、令83


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