1 判断の枠組み
公開買付価格決定のプロセスについて何らの明示的判断がないまま、裁判所が「公正な価格」の金額について審査している点は疑問である。しかし、第三者委員会の設置がないこと、価格算定書の基礎となるべき資料に信用性を措くことができないこと等から、公開買付価格が「独立した関係当事者が真摯に交渉した結果決定されたもの」結論は妥当である。
2 価格決定申立制度の趣旨の理解
これに対し、価格決定申立制度の趣旨を「経済的調整を図ること」と判断し、少数株主の保護に偏していないことは評価できる。
3 市場価格について
また、上場会社の市場価格について、「意図的な人為操作などがない限り、当該会社の資産、収益力、業績予想、配当見込額等を織り込んだその時々の市場価格が当該会社の客観的企業価値を表している」として、取得日における当該会社の公正な価格は、その当時の市場価格を基準に定めるべきと判断した点も正しい。
これに対し、市場価格を算定する際の対象期間について、「MBOの準備を開始したと考えられる時期から、公開買付けを公表した時点までの期間における株価については、特段の事情のない限り、原則として、企業価値を把握する指標として排除すべき」とした点には批判が強い。
しかし、この点は、この合議体の裁判官らの独自の見解ではなく、日本の資本市場に対する裁判官の強い不信感の表れの可能性も否定できない。
実務対応としては、MBOの準備段階から、「対抗的公開買付けを仕掛けられない範囲で、自社の株価をできる限り安値に誘導するよう作為を行う」ことがないような利益相反防止措置を講じることが有益と思われる。
4 プレミアムについて
スクイーズアウトにおいては、株主から強制的に株式を取得するのであるから、プレミアムを付加すること自体は否定できない。
また、「独立当事者間価格」によらないのであれば、「MBOを実施するについて作成されることとなる株価算定についての評価書を基礎として計算されるべき」との判断は、合理的である。
そして、その評価書について、その基礎となる数字に信用性がないとすれば、裁判所が前例に従って、プレミアムを20%と判断したこともやむを得ないと思われる。
実務対応としては、価格算定書については、公開可能なものを複数(最低3つ)取得することが望ましい。
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