知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

「職務発明の現状と課題(富士重工業の場合)」(知財研フォーラムv85)を読む

2011-06-16 13:29:26 | 職務発明

本稿においても、職務発明規定に関する規則の内容が開示されており、参考になる。

「Ⅱ 職務発明の問題点」の「1 不合理性と不平等感」の部分は、発明者ではなく、技術を育て製品に繋げるプロデューサー的な人物が本来的なイノベータであるにもかかわらず、「相当の対価」の受領権者の対象外であることの不合理性は既に指摘したとおりであり、意を強くした。

また、「2 相当の対価の在り方」の部分は、極めて重要である。引用すると、「発明者の技術開発における思いはとても純粋である。職務発明に対する対価も「処遇」の一部として適度に存在していれば足り、技術者もそれで納得しているし、それ以上のものを求めていない。その処遇をどのように設定するかは人事戦略、人材採用戦略として会社が決めれば良いことである。それに魅力を感じて就職希望するかしないかは、就活者の選択に委ねれば良いのだ」。

これも従前から書いているとおりである。発明者の「純粋さ」を職務発明制度が歪めてしまったのではないかとの危惧がある。また、「相当の対価」の「相当性」の判断を含む賃金政策・人事政策は、まさに各社の実情に応じて各社が選択すれば良いのであり、生活保障という意味を超えて、裁判所が「相当の対価」の相当性について判断することは原則適切ではない。

さらに、「3 インセンティブの勘違い」の部分も重要である。ここでは、技術者に対するアンケート結果が紹介され、発明に対するインセンティブは、実績補償ではなく、「出願時補償金」ではあることが示されている。

もっとも、ここで、職務発明がノウハウとして秘匿された場合に相当の対価の支払いがないことが多いとの指摘は、逆手に取られて、「ノウハウについても相当対価を支払うべき」との訴訟をまねく恐れがある。

そして、「4 職務発明制度の費用対効果」の部分では、裁判例の解釈に従おうとした結果、各社の制度が複雑になり、運用コストが増大している点が指摘されている。当職は、このような現状を踏まえ、現在、シンプルな職務発明規定のモデルに取り組んでいる。


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