知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

東芝私的補償金請求控訴審

2011-12-26 22:34:53 | 最新知財裁判例

東芝私的補償金請求控訴審

平成23年(ネ)第10008号 損害賠償請求控訴事件

控訴棄却(請求棄却)

主たる争点は以下の3つ。

① アナログチューナー非搭載DVD録画機器の特定機器該当性(争点1) 

② 法104条の5所定の協力義務の法的性質(争点2) 

③ 不法行為に基づく損害賠償義務の有無(争点3)

裁判所の判断は24ページ以下。

1 協力義務の意義について

本判決は、まず,争点2の法104条の5所定の協力義務の意義について、「控訴人が上乗せ額を被控訴人に請求することができるとすべき根拠は,一義的にはない」と述べた上で、「控訴人は,争点2の主張を根拠にして,法104条の6に従って認可された補償金の額を協力義務の履行としてまず請求するが,上記の説示に照らし,この請求は理由がない」と判断しつつ、「製造業者等が協力義務に違反したときに,指定管理団体(本件では控訴人)に対する直截の債務とはならないとしても,その違反に至った経緯や違反の態様によってはそれについて指定管理団体が被った損害を賠償しなければならない場合も想定され,法104条の5違反ないし争点3(被控訴人による不法行為の成否)における控訴人主張を前提とする請求が成り立つ可能性がある」として、不法行為の成立の余地は肯定しました。

2 アナログチューナー非搭載DVD録画機器の特定機器該当性

しかしながら、本判決は、争点1について、 「アナログデジタル変換が行われた」の要件について、それが「「客観的かつ一義的に明確でない」とした上で,立法経緯等にかんがみて総合的な見地から解釈するならば,「放送波がアナログであることを前提にしてこれについてアナログデジタル変換を行うことが規定されていると解するものであり,これを超えての範囲を意味するものと解することはできない」と判断し、アナログチューナー非搭載DVD録画機器の「特定機器該当性」を否定し、結論として、損害賠償義務はないと判断しました。

3 コメント

業界の注目を集めていた裁判ですが、東芝が地裁に引き続き高裁でも勝利しました。まずは、勇気をもって筋を通すことを貫いた東芝の知財部その他の関係者の方を讃えたいと思います。

判決内容は妥当と考えます。

まず、協力義務の意義については、私的録画補償金の支払義務者が特定機器の購入者である(著作権法104条の4)こと等に照らせば、これに加えて、特定機器の製造業者等が管理団体に対し補償金の支払義務を負うと解するのは困難でしょう。もっとも、これは、支払義務がないとうことを意味するだけですので、協力義務の違反により不法行為の成立があり得ることも本判決が判示するとおりと思います。

次に、アナログチューナー非搭載DVD録画機器の「特定機器該当性」についてですが、立法経緯に照らせば、「アナログデジタル変換が行われた場所が録音機器の内部である必要があるか否かについての文言上の限定はないが,当該録音機器の規格またその対象録音媒体の規格に沿ったアナログデジタル変換が行われることが必要であるということができる」と判断は支持できます。また、私見は、著作権による複製の制限が、行動の自由の例外であり、私的利用(著作権法30条1項)は行動の自由の原則に戻り著作権侵害にならないと解するところ、特定機器の利用による私的利用について補償金の支払いを要するとの規律は(著作権法30条2項)、行動の自由の原則を再び覆す例外的措置と位置づけられますから、立法経緯に照らして文言を限定解釈することは法解釈として合理的と考えます。

本判決は上告されるでしょうが、最高裁はこれを覆すことはないと信じます。

 


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