放電ランプ意匠権侵害事件
大阪地方裁判所
平成23年(ワ)第529号
平成25年01月22日
1 事案の概要
本件は、後記本件各意匠権を有する原告が、被告に対し、被告による別紙被告製品目録1及び同2記載の各製品(以下、同目録1記載の製品を「被告製品1」、同目録2記載の製品を「被告製品2」といい、併せて「被告各製品」という。)の製造販売等が、後記本件各意匠権を侵害すると主張して、意匠法37条1項及び2項に基づき、被告各製品の製造販売等の差止め、廃棄を求めるとともに、本件各意匠権侵害の不法行為に基づき、損害賠償金8476万2400円及びこれに対する不法行為の後の日である平成23年1月23日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 争点
(1) 被告意匠は本件各意匠に類似するか(争点1)
(2) 原告の損害(争点2)
3 裁判所の判断
3-1 争点1(被告意匠は本件各意匠に類似するか)について
3-1-1 要部認定
登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものであるところ(意匠法24条2項)、その判断にあたっては、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して、需要者の注意が惹き付けられる部分を要部として把握した上で、両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察し、全体として美感を共通にするか否かを判断すべきである。
本件各意匠に係る物品及び被告各製品は、いずれも放電ランプであり、光源ユニットのランプホルダーに、前記認定の方法で取り付けて使用することを予定したものであることを考慮すると、取引の際、あるいは取り付けの際には一定方向からしか観察しないということはなく、ランプホルダーに取り付けた後には、通常見えなくなる部分についても、全体として観察の対象になるというべきである。
また、原告は、第1胴部下面及び第2胴部上面の形状は、第1胴部又は第2胴部によって通常見えない部分であって、部分意匠の美感にはさほど影響しない旨主張するが、意匠公報の各図面からも明らかなとおり、上記各形状は、取引又は取り付けの際に、第1胴部及び第2胴部の形状自体から看取できることから、直接視認することが困難であることをもって、美感に影響しないとはいえない。
また、大きさがほぼ同じ第1胴部下面と第2胴部上面という2つの底面とその間に設けられた円柱部からなる溝部が存在することについては、それ自体は、公知意匠(乙4、5)にもみられ、溝部が存在すること自体は、前記認定のとおり、放電ランプをランプホルダーに取り付けるために必要な構成であって、本件各意匠の溝部の構成に格別に美感を生じさせる要素ではない。
以上を総合すると、本件各意匠の要部は、溝部ではなく、第1胴部下面の形状、第2胴部上面の形状及び第2切欠部の形状であると解するのが相当である。
3-1―2 本件意匠1と被告意匠との対比
本判決は、本件意匠1と被告意匠との共通点と相違点を認定した上、類否について検討し、「本件意匠1と被告意匠は、第1胴部下面の形状、第2胴部下面の形状、第2切欠部の形状について、異なる美感を生じている。本件意匠1と被告意匠を全体としてみると、いずれも第2切欠部が存在すること自体によって、一定の印象の共通性が生じるものの、第1胴部下面、第2胴部上面及び第2切欠部の各形状の相違点が組み合わさることによって、本件意匠1では、第1胴部下面と第2胴部上面がいずれも線対称であるから、規則的で静的な印象を強めているのに対し、被告意匠では、第2胴部上面は線対称であるも第1胴部下面は線対称ではないことから、不規則で動的な印象を強めているということができる」と判断し、「被告意匠を全体として観察したときに、本件意匠1と類似の美感が生じるとまでは認められず、両意匠が類似しているということはできない」と結論付けました。
4 検討
まず、本判決は、類否判断の一般論として、「意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して、需要者の注意が惹き付けられる部分を要部として把握した上で、両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察し、全体として美感を共通にするか否かを判断すべきである」との基準を採用しました。
また、本判決は、要部認定において、「本件各意匠に係る物品及び被告各製品は、いずれも放電ランプであり、光源ユニットのランプホルダーに、前記認定の方法で取り付けて使用することを予定したものであることを考慮すると、取引の際、あるいは取り付けの際には一定方向からしか観察しないということはなく、ランプホルダーに取り付けた後には、通常見えなくなる部分についても、全体として観察の対象になるというべきである」と判断しました。
穏当な判断と思われます。
以上
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