2016年を振り返って 279号
20世紀を振り返ってみると1917年に「世界を揺るがした十日間」があった。ロシア革命である。世界が地獄を見た第一次世界大戦があった。世界の破局を思わせた第二次世界大戦があった。世界の破局に怯える第三次世界大戦ともいうべき米ソ冷戦が45年間も続き、ソ連の崩壊をもって冷戦が終わった。中国は日中戦争に勝利し、国共内戦に勝利した共産党軍が中華人民共和国を建国した。1960にはアフリカ諸国が植民地から抜け出し、独立した。1973年には南アメリカにあるチリーが合法的な選挙によって社会主義政権を成立させた。このような世界史的出来事を思い浮かべてみると20世紀とは戦争と革命の世紀であったということができる。その歴史的経過の底に流れている動きとは、資本主義経済とその政治体制を破壊し、社会主義的な経済、政治体制を樹立しようとする動きを押しとどめようとする動きであったと考えることができるだろう。
第一次世界大戦反対、戦争の早期終結を求める中からロシア革命が起き、ソ連という社会主義政権が出現した。1929年の世界大恐慌の中から社会主義社会を求める人民の運動を抑える政治運動としてファシズム勢力が出現した。ドイツファシズム体制そのものであったナチスの力によってソ連邦を倒そうと図った戦争が第二次世界大戦であった。東アジアにあっては、日本のファシズム勢力によって中国の社会主義化を阻止しようと図ったが、失敗する。第二次世界大戦でソ連邦を倒すどころか、中国や東ヨーロッパ諸国に社会主義諸国が出現してしまった。第三次世界大戦・冷戦の主たる目的は社会主義諸国を封じ込め、その勢力が膨張するのを防ぐということであった。西側諸国の指導者たちは西側諸国国民の生活向上に力を入れ、自由な市場経済の有利性を誇示することによって西側諸国国民の支持を得る政策を追求した。この政策こそが社会主義勢力の拡大を阻止するという認識を得ていた。自由と民主主義が社会主義を倒す。この政策が功を奏し、第三次世界大戦・冷戦に西側諸国は勝利した。ソ連を中心にした東ヨーロッパ諸国はもともと経済の発展が後れていた。硬直した社会主義経済が東ヨーロッパ諸国国民の生活向上が西側諸国に追いつかない。また共産党独裁という政治体制が経済の硬直性を強め、生産性を阻害した。冷戦という準戦時体制という緊急事態が長期に渡ったため経済活動の発展が阻害された。
冷戦の勝利が新しい自由主義の謳歌する世界を西側諸国に出現させた。自由な競争による市場経済がより一層の経済を活性化させる。経済を成長させる。1990年前後から新自由主義経済は猖獗を極めた。その結果、西側諸国の経済は二十数年確実に成長し、GTPは大きくなっても国民の生活は良くならない。富が国民には滴り落ちてこない。こんなことになってしまっている。その不満が覆出したのが2016年であったように思う。アメリカではラストベルト地帯と言われる重工業地帯がゴーストタウンになった。自動車工業の街・デトロイトは廃墟になってしまった。その結果がトランプ氏の勝利となった。イギリスではスコットランドの市民たちの生活が良くならない。東欧諸国からの移民の増加によって勤労者の賃金が上がらない。EUからイギリスは離脱する。フランスでは右翼が台頭する。日本にあっても「維新の会」のような党派がマスコミを賑わす。それもこれも国民の生活が困窮化しているからだ。アメリカが冷戦に勝利した結果のマイナスが表面化した年が2016年だったのではないだろうか。