醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  196号  聖海(白井一道)

2016-01-31 15:33:46 | 随筆・小説

  芭蕉は日本の民衆文化の創造者だ

侘助 お前みたいなものは「くたばってしめえ」と父親に怒鳴られた。、俺のペン・ネームはこの言葉から付けたと言われている作家は誰か、ノミちゃん、知っているかい。
呑助 もちろん、知っていますよ。「二葉亭四迷」でしょ。誰でも知っていると思いますよ。
侘助 そうだよね。その二葉亭四迷は日本の文学史上でどんなことをしたのかも、もちろん知っているよね。
呑助 言文一致を唱え、江戸時代から続く文語文を口語体の文章に変えたと云われているんですよね。
侘助 そうそう。そうなんだよね。しかし私はね、芭蕉について調べ始めてからね、芭蕉の俳句を読んで、芭蕉が口語の文を使い始めたのではないかと、思っていたんだ。
呑助 なるほど、「閑さや岩にしみいる蝉の声」ですね。どこにも江戸時代の古びた言葉はありませんね。
侘助 そうでしょ。「塩鯛の歯ぐきも寒し魚の店」。芭蕉四九歳の時の句だよ。魚屋の店先に並んだ塩鯛に冬を表現している。現代の日本人が理解するのを妨げる言葉が何もないよ。これぞ、まさしく言文一致の句じゃないかな。
呑助 でも、学校じゃ、二葉亭四迷が日本近代文学の始まりだと教えられたように記憶していますね。それは言文一致だと。
侘助 そうだよね。そのように今でも学校では教えているんじゃないかと思うよ。イギリスではシェークスピアが当時のイギリス人がしゃべっていた言葉で芝居を書いたとか、イタリアでは、ダンテが当時の民衆がしゃべっていたトスカナ語で『神曲』を書いた。これがヨーロッパのルネサンスだと教えているよね。
呑助 そんなことを中学でも、高校でも教わったように思うな。
侘助 文化はすべて貴族と僧侶が独占していた。なぜなら当時の民衆はラテン語を全然読むことも書くこともしゃべる事もできなかったからだ。それを民衆が聞いて分かる言葉で文学を表現した。民衆の文化を創造したのがルネサンスだった。
呑助 ルネサンスとは民衆の文化が生まれたということですか。
侘助 そうだと思うんだ。日本でもね。芭蕉が生きた時代、文化を独占していたのは武士や僧侶たちだったんだ。なぜなら彼らは漢文を読み、書くことができたからなんだ。元禄時代の町人や農民は漢文など読める人はほとんどいなかった。もちろん漢詩など詠むことのできる人などいなかった。
呑助 中世ヨーロッパのラテン語に相当する言葉が日本では漢文ですか。
侘助 そうなんだ。近代哲学の祖と言われているデカルトはラテン語ではなく、フランス語で哲学書を書いた最初の人だと云われているようだよ。
呑助 元禄時代に生きた芭蕉は日本のシェークスピアということになるんですか。
侘助 そう言っている人がいることを知ったんだ。
呑助 へえー、それは誰ですか。
侘助 長谷川櫂という人なんだ。長谷川氏は『芭蕉の風雅』という著書の中で「イギリスはシェークスピアの国といわれる。それにならえば、日本は芭蕉の国というしかないだろう」とね。シェークスピアが近代イギリスの民衆文化を創造したように芭蕉は近代日本の民衆文化を創造したといえる。そのように私は理解した。

醸楽庵だより  195号   聖海(白井一道)

2016-01-30 12:41:13 | 随筆・小説

  日本語考--テレビ番組を見て---(3)

侘助 今朝、テレビを付けたら辛坊氏が司会する日テレの番組を放送していた。政治評論家の田崎史郎(時事通信社特別解説委員)氏が出演していた。田崎氏は十二時間前ぐらい、安倍総理と酒を飲んでいたと話した。甘利氏の辞任で安倍総理はどうでしたかと、辛坊氏が問いかけると平然としていたと田崎氏は応えていた。
呑助 政治評論家というのは総理と会食し、総理の意向を宣伝する人をいうんですか。
侘助 田崎氏という政治評論家は総理の意向を説明することで生活している人なのでしようね。テレビに出演し、話をする。雑誌や新聞に政府の意向を解説し、宣伝することを生業にしている人なんでしような。
呑助 その会食費は割勘なんでしようかね。
侘助 きっと一流の料亭のようなところでの会食だから、われわれ庶民の一か月分の生活費ぐらいを一回の夜の会食に使っているんだろうけれど、割勘というのは無いと思うよ。多分、総理が出すんじゃないかな。
呑助 奢って貰ったんじゃ悪口は云えませんね。
侘助 そうだよね。悪口を言ったら次がないよ。だから辛坊氏が司会する番組は政府広報の番組みたいなものかな。
呑助 そう言われてもしょうがないかもしれませんね。いや、そうして番組は成り立っているのかもしれませんよ。
侘助 きっとその通りなんだろうね。ジャーナリズムとは権力を批判するものだと思っていたのは間違いなのかもしれないな。
呑助 政府のプロパガンダなんじゃないですか。
侘助 ノミちゃん、難しい言葉を知っているね。中国の新聞や放送は政府のプロパガンダ、広告・宣伝だ。だから真実の報道はないとよく批判しているが、同じようなことを日本のマスコミ、特に日テレの辛坊氏の番組は、そうなのかもしれないな。
呑助 辛坊氏が司会する番組には、真実の報道がないということなんですか。
侘助 そうだと思うね。五十万円貰ったの、どうのという事より、日本の経済がこれからどうなるのか、徹底的に甘利さんと議論した方が日本国民のためなんじゃないかと辛坊氏が発言するとコメンテイターの岩田氏が同意の発言をした。甘利氏の汚職に目を瞑るのが日本国民のためになるということを最もらしく発言し、野党が甘利氏の汚職を摘発するのはどうかというような雰囲気がこの番組の空気だった。
呑助 そうなんですか。庶民は交通違反でもしようものなら、厳しく糾弾されますよ。罰金も取られます。血も涙もなく罰金は取られますよ。
侘助 今、テレビ局は不景気のようだよ。広告収入が急激に減っているようなんだ。すべてのテレビ局の広告料の総額がインターネットの広告料より少なくなったと、いう話を聞いたことがあるよ。
呑助 広告料が減ってきているんですか、通りで最近コマーシャルの時間が長いなーと感じていたんですよ。
侘助 今から百七・八十年前、ドイツの学者、カール・マルクスという人がね、「その社会における支配的な思想はその社会の支配的な階級の思想である」という言葉を言ったんだ。いつの時代もその社会の世論というものはその社会で大きな力を持っている者たちの考えが支配的なんだ。力のない庶民たちの気持ちを代弁してくれる新聞やテレビや雑誌というものは数が少ないんだ。何といっても最大の国民意識を左右するものは小学校から大学にいたる教育機関だよ。この教育が国民思想に決定的な影響を与えているんだ。

醸楽庵だより  194号   聖海(白井一道)

2016-01-29 16:15:53 | 随筆・小説

 日本語考--甘利氏の言葉について--(2)

侘助 甘利大臣が辞任したね。大臣室で五十万円づつ二回、リベートを貰ったことを思い出し、辞任した。
呑助 これは汚職ですか。
侘助 汚職だよね。自分自身悪いことをしたと自覚し、辞任したんじゃないかと思う。
呑助 そうですよね。悪いことをしたのではなかったら、辞任しませんよ。
侘助 だから不思議な感じがしたね。辞任会見の冒頭、甘利氏は「国民に心配をかけて深くお詫びします」とこのように挨拶をした。
呑助 悪いことをしたのではなく、「国民に心配をかけた」ので辞任したんですか。
侘助 そうだよね。国会議員は国民に心配をかけるようなことをしたら辞任しなければならないのかね。甘利氏は悪いことをしたという自覚がないのかもしれないな。
呑助 悪いことをした自覚はないが、「お前は悪いことをしたのだという人々から言い逃れることができません。なんとか、言い逃れられるだろうと思っていた仲間に心配をかけて申し訳ありません。お詫びします」ということなんですかね。
侘助 上手いことを言うね。その通りだ。だから私などは甘利氏のことなど全然心配などしていないからね。国会議員としてもやってはいけない悪いことをしたのだから、議員も辞職すべきだと思うくらいだからね。
呑助 まぁー、そうですよね。国民の大半は、ほぼ全員といっていいくらいは心配するどころか、自民党の政治家は皆、悪いことを隠れてしているんだと思っていると思うな。
侘助 甘利氏はまた次のような発言もしていた。業者の「総務担当者が菓子折りと封筒を挿し出し受け取る。事務所長に渡し、適正な処理を指示した。客の前で現金の入った封筒をポケットしまったと、週刊誌には書いてありますが、そのような品格が疑われるような行為はおりえません」。甘利氏は自分自身を品格のある人間だと思っていることに驚いてしまったよ。
呑助 そうですよね。人間的に品格のある人間ならこのような汚職をするはずがないと私のような者でも思いますね。
侘助 政府自民党が提出した平和安全法は憲法違反だと日本を代表する憲法学者三人が憲法違反だと述べた。その学者たちの発言を無視し、数の力でゴリ押しをした。現日本国憲法九十九条には国務大臣、国会議員、その他のかべての公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う。このような条文があるんだ。この条文を無視する自民党議員たちには人間としての品格があるのかね。憲法九十八条には、憲法は国の最高法規であって、この条規に反する法律は、その効力を有しない。このようにあるんだ。
呑助 国の最高法規に違反することを平気でする自民党議員にとっては、法律違反など、朝飯前なんじゃないんですか。
侘助 ノミちゃんもそう思うかい。言葉というものは恐ろしいものなんだ。嘘を真のように言うことができる。悪いことをしても悪いことをしたのではないというように言うことができる。総理官邸で辞任の挨拶を甘利氏はした。その後、女性職員から花束を貰った。

醸楽庵だより  193号   聖海(白井一道)

2016-01-28 12:41:59 | 随筆・小説
 
  日本語考--グローバル化は中世化--(1)

侘助 今日は言葉の問題について考えてみないかい。
呑助 言葉についてですか。俗語を正した芭蕉の話ですか。それはもうしましたよ。
侘助 「葱白く洗いたてたる寒さかな」芭蕉の句だよ。上手いね。三百年前の日本語だよ。ちっとも古びない日本語だね。磨かれた日本語だね。三百年後の我々日本人にも瑞々しい日本語だよ。
呑助 当時の日常語、俗語が美しい日本語に創りかえられていますね
侘助 こういう日本語、芭蕉が磨いた日本語より英語を勉強しろと子供たちに強制しようとする財界人や自民党議員、文科省の役人たちがいるんだ。
呑助 本当ですか。保守主義者というのは日本の伝統文化を大事にする人々なんじゃないんですか。
侘助 そうだよね。その人々は本来だったら、日本人や日本語、日本文化を大事にする民族主義者であるべきはずなのに、小学校から英語の授業をさせようとしているんだ。
呑助 大学でも講義は英語でしろと言っているらしいですよ。
侘助 英語を公用語とする特区を設けようともしているらしい。
呑助 でも、英語でコミュニケーションできる国民が増えていくことはいいんじゃないですか。
侘助 一見、よさそうに見えるけれども、安易に考えると大きなしっぺ返しがくるんじゃないかな。
呑助 どんな問題があるんですか。
侘助 「グローバリ化は中世化だ」という議論を最近聞いたよ。
呑助 国際化することがなぜ中世化なんですか。
侘助 ヨーロッパ中世は国際社会だったからね。
呑助 中世ヨーロッバ社会は国際社会だったんですか。
侘助 そうなんだ。国というものが無かったんだ。大土地所有者の領主という統治者はいたんだけれどもね。
呑助 それがどうして国際社会なんですか。
侘助 ローマカトリック教会の信者としてつながっていたんだ。それらの人々はみなラテン語をしゃべっていた。カトリック教会の僧侶たちや貴族の領主たちも皆ラテン語を話していた。ラテン語を共通語として領主や僧侶たちは結びついていた。
呑助 分かりました。今、グローバルに活躍する企業経営者たちは皆、英語を話すということなんですね。
侘助 英語を話す人々が世界を支配する。これが「グローバル化は中世化だ」という事なんじゃないかと思う。
呑助 ヨーロッパ中世に生きた農民たちもラテン語を話していたんですか。
侘助 農民たちは皆、その土地の言葉を話していたんだ。英語とか、フランス語、ドイツ語、イタリア語をね、話していたんだ。支配される人々は、皆、ラテン語など聞いたこともなければ、話すことのできるものはいなかった。だからね、グローバル社会にあって、英語でのコミュニケーション能力のないものは一生、貧しい生活をおくらざるを得ない境遇になってしまうかもしれない。
呑助 これからの若者は厳しいですね。
侘助 厳しいね。グローバルに活躍する親に育てられた子供たちは支配する側の人間になっていくだろうがね。

醸楽庵だより  192号  聖海(白井一道)

2016-01-27 11:27:16 | 随筆・小説

   憲法とは何--たまには政治の話でも--(5)

呑助 自民党の改正草案というのはどのようなものなんですか。
侘助 自民党がネットに公表しているんだ。だから誰でもダウンロードして読むことができるんだ。
呑助 こういうことは自由民主主義の実行ですね。
侘助 そうだな。この憲法草案を東京大学名誉教授の樋口陽一氏が「慶安御触書」のようなものだと言っている。
呑助 「慶安の御触書」とは何ですか。
侘助 「慶安の御触書」とは元禄10年(1697年)に出されたものなんだ。その内容は百姓に対し贅沢を戒め、農業など家業に精を出すよう求めた内容で、32ヶ条からなるものなんだ。
呑助 憲法とはなにか違うと、いう感じがしますね。江戸時代の倹約令みたいなものですか。
侘助 そうなんだ。現代の日本国民を江戸時代の農民のように扱っているんだ。国民主権を認めていない憲法草案なんだ。
呑助 主権者である国民が政府に命令したものが憲法なんですよね。
侘助 国民を統治の対象者にしているのが自民党の憲法草案の特徴なんだ。だからじゃないかと思うんだ。樋口陽一さんといったら日本を代表する憲法学の権威者のようだよ。その人が自民党の日本国憲法改正草案に対して「慶安の御触書」のようなものだと、言っているんだ。自民党の憲法改正草案は憲法ではないと言っている。
呑助 戦前の明治憲法のようなものという話を聞いたことがあるように感じていたんですが、そうじゃないんですか。
侘助 樋口先生は明治憲法は立派な立憲主義に基づいた憲法であったと言っている。それに比べて自民党の憲法草案は江戸時代の権力者が統治者の農民に対して派手な着物を着てはいけないとか、夫婦相和せとか、兄弟は仲良くしろとか、いう御触書みたいなものだと言っているんだ。
呑助 具体的には、どんなことが自民党の憲法草案には書いてあるんですか。
侘助 改正草案第三条の一項には「国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする」。第三条二項「日本国民は、国旗及び国家を尊重しなければならない」と書いてある。このように国民の義務を規定しているんだ。憲法とは国民の権利を書いたものなのが義務を強制するものになっているんだ。
呑助 憲法とは国民の権利を保証するものなんですよね。それでいいんですよね。
侘助 権利とは義務を求めるものなんだ。権利と義務とは一枚の紙の裏と表の関係になっているんだ。現憲法では第十三条で「すべて国民は、個人として尊重される」と書いてある。国民は個人として尊重される権利があるということは国は個人を尊重する義務があるということになる。
呑助 なるほどね。自民党の憲法草案は国と国民との権利・義務の関係を逆転しているということなんですか。
侘助 そうだと思う。自民党参議院議員の片山さつき氏は「国に何かをしてもらうことを願うのではなく、国に何ができるかを考えてもらうような憲法を書いた」とツイッターで書いていた。
呑助 なかなか上手いことを言うものんですね。ダマサレソウ。

醸楽庵だより  191号   聖海(白井一道)

2016-01-26 14:53:04 | 随筆・小説
 
   憲法とは何--たまには政治の話でも--(4)

侘輔 今日は自・公政権による憲法改正の手法について考えてみようと思うんだ。どうかな。
呑助 諦めましたよ。付き合いますよ。短くお願いします。
侘助 自民党副総裁の麻生太郎氏は「わーわー騒がないで。喧噪のなかで決めてほしくない」と言っている。
呑助 静かに自民党憲法草案を可決したいということなんですね。
侘助 そうなんだろうな。憲法改正反対の騒々しい喧噪の中で強行採決などという手法は採りたくないということなんじゃないかな。
呑助 「民主主義ってなんだ」と若者たちの声がとどいてくるような場所で自民党の憲法改正案を可決したくないということですね。。
侘助 保守系政治家が良く口にする言葉は粛々と可決したいという事だと思うね。粛々と可決されそうもないからそう言うんだろうね。
呑助 そんな粛々と可決する手法なんてあるんですかね。
侘助 麻生太郎氏はその秘策があると仲間内で話したようなんだ。
呑助 麻生さんって、なかなか利口なんですね。ずる賢い人なんですね。
侘助 「ワイマール憲法はある日気づいたら、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口に学んだらどうかね」と麻生氏は発言したようなんだ。
呑助 ワイマール憲法というのは何なんですか。
侘助 第一次世界大戦はどのような終わり方をしたのか、ノミちゃん、知っているかい。
呑助 ドイツに革命が起こったんでしたっけ。
侘助 そうなんだ。敗戦国ドイツはワイマールで憲法制定議会を開き、そこで作られた憲法をワイマール憲法というんだ。
呑助 思い出しましたよ。その憲法には社会権などが規定されていたんでしたよね。
侘助 そうなんだ。当時、最も民主的な憲法だと言われた憲法をナチス・ヒトラーは一夜にして無効にすることに成功したんだ。大きな騒ぎにはなったがね。
呑助 ヒトラーは何をしたんですか。
侘助 国会議事堂に放火したんだ。放火犯は共産党だと言ってね。非常事態を宣言した。
呑助 このドイツの手口に学んだらどうかと麻生氏は言ったんですね。
侘助 ヒトラーは共産党議員を逮捕し、刑務所に収監した。
呑助 本当に共産党議員が国会議事堂に放火したんですか。
侘助 裁判の結果は共産党議員による放火ではないということが判明した。
呑助 これは謀略だったんですね。
侘助 そうだね。非常事態を宣言し、全権委任法という法律を可決し、首相であったヒトラーは独裁権を得て、実質的にワイマール憲法を無効にしてしまったんだ。確かに「わーわー騒ぐ、喧噪の中で」憲法改正のようなことを一切しないで、実質的な憲法改正を実現したんだ。
呑助 非常事態宣言とは、凄いことができるんですね。
侘助 恐ろしいね。大災害やテロが起きたら、非常事態宣言ができる。もっともらしいからね。これが自・公の狙いかもしれない。国家緊急権を発動し、実質的な現憲法を無視する。この手口を使おうとしている。片山さつき自民党議員は国家緊急権の必要性を参議院で自民党を代表して総理に質問していたからね。さらに石破議員はテレビで国家緊急権の必要性を説いていたよ。

醸楽庵だより  190号  聖海(白井一道)

2016-01-25 15:32:00 | 随筆・小説
 
  憲法とは何--たまには政治の話でも--(3)

侘輔 今日は国民主権ということについて話し合わないかい。
呑助 今日もまた、政治の話ですか。
侘助 今、安倍政権が成そうとしていることは国民主権を奪おうというようなことなんだ。
呑助 へぇー、そうなんですか。国民主権が奪われてしまうとどんなことがおきるんですか。
侘助 まぁー、大変なことになるみたいだよ。
呑助 どんなことになるんですか。
侘助 政府を批判するような発言をしたら、刑務所に入れられてしまうようなことになるらしい。
呑助 それは困りますね。消費税が十%になるのは困ると発言しただけで刑務所に入れられてしまうんですか。
侘助 消費税反対、安倍晋三は退陣しろ、とデモを組織したら、刑務所に入れられてしまう可能性は高そうだよ。
呑助 国民主権が奪われるということは大変なことになるんですね。
侘助 「主権」という言葉が実に分かりづらい言葉だよね。
呑助 もともと日本語に無かった言葉なんですよね。
侘助 明治になってからヨーロッパから入ってきた言葉だからね。
呑助 ヨーロッパではどうしてこのような言葉が生まれたんですかね。
侘助 ヨーロッパの中世社会が終わりそうになった頃、商工業者たちの力を利用して中世諸侯たちを支配下に置く、大諸侯が出現してくるんだ。
呑助 農民を支配下に置いていた諸侯たちが自分の支配地域を広げようとして戦っていた時代が中世ですよね。
侘助 そうなんだ。その中でひときわ強大になった大諸侯は何でもできる強大な権力を持つようになったんだ。この強大な権力のことを主権と言ったんだ。この絶対的な権力を絶対王権と言ったんだ。
呑助 権力とはなんですか。
侘助 自分の意志を他者に強制的に押し付けることができる力の事なんだ。
呑助 嫌だと絶対言えないんですか。
侘助 そうなんだ。消費税の支払いは嫌だとは絶対言えないんだ。支払わないなら、強制的に徴収されてしまう。
呑助 そうですね。差し押さえには文句を言えませんものね。税を支払わないというのは一種の犯罪ですものね。
侘助 絶対君主と言われた王様、例えば、フランスのルイ十四世とか、イギリスのエリザベス一世とかを主権者と言うんだ。
呑助 なんでもできる。すべて自分の想いのままだというのは良いですね。
侘助 ロシアのピョートル大帝という絶対君主は若い頃西ヨーロッパで抜歯の技術を身に着けたんだ。自国のロシアに帰り、臣下の歯を抜くことに興味を覚え、何人もの臣下の歯をすべて抜いてしまったなんていうことがあった。臣下は全くたまったもんじゃなかった。
呑助 抜く方は良いでしようけど、抜かれる方は痛かったでしようね。
侘助 この絶対君主から主権を奪い、国民が主権を勝ち取った出来事を市民革命というんだ。その代表的な市民革命がフランス革命なんだ。だから国民はなんでもできるんだ。国民は政府に命令した。その命令書が憲法なんだ。政府に命令する力が主権というものなんだ。

醸楽庵だより   189号   聖海(白井一道)

2016-01-24 14:38:18 | 随筆・小説

  憲法とは何なの--たまには政治の話でも--(2)

侘輔 昨日に続いて憲法の話はどうかな。
呑助 また憲法の話ですか。
侘助 今、憲法問題が政治の中心問題みたいだからね。
呑助 へぇー、そうなんですか。
侘助 安倍政権は自民党の憲法草案の一部を実現しようとするだろうと言われているんだ。
呑助 それはどんなことなんですか。
侘助 今の現日本国憲法にはないことなんだ。
呑助 新しく書き加えられたものなんですか。
侘助 そうなんだ。第九章として「緊急事態」という章が設けられている。「内閣総理大臣は緊急事態の宣言を発することができる」と第九八条にある。大きな災害やテロ、外国軍の侵略とかが起きた時に「緊急事態」を宣言し、国民の基本的人権を政府が政令として制限することができるというものなんだ。
呑助 大きな災害やテロのようなことが起きた時には場合によっちゃ、しょうがいないんじゃないかという気がするなぁー。
侘助 それが政府自民党のねらい目なんじゃないか なと、思っているんだ。
呑助 自民党の人が言っていましたよ。「憲法守って日本滅ぼす」と。
侘助 戦争放棄を規定した第九条を守って日本が滅んだらどうするだという脅しのような言葉だな。
呑助 緊急事態には憲法が規定する人権を制約して国を守る。国民を守ると、いうことなんじゃないですかね。
侘助 憲法というのは近代国家そのものなんだということは昨日話したことなんだ。
呑助 そうでしたね。でも国というのは領土、そこに住む住民と主権ににって成り立っていると高校生のころ、習ったような気がするな。
侘助 その通りなんだ。近代国家は主権者が国民だということなんだ。憲法という言葉にはフランス革命の精神が宿っているんだ。日本国憲法が制定されたということはフランス革命の精神を継承したということでもあるんだ。自由、平等、友愛を実現する国をつくると宣言したことが日本国憲法の制定ということなんだと思うんだけれどね。
呑助 国民が憲法を制定するということは近代国家をつくったという事なんですね。
侘助 だから国民の人権を守ることが国の目的であると同時に絶えず国民の幸福を実現していかなければならないんだ。
呑助 そうすると「憲法守って国滅ぶ」といのうは変ですね。
侘助 憲法に反する法律を作るということは国を傷つけることになるんだ。
呑助 確かに理屈では--。しかし中国の国力が大きくなり、強大な軍事力が隣国に出現するのは恐ろしくないですかね。
侘助 そうだね。元寇なんて出来事が一三世紀にあったからね。しかし、これは昔のことだ。今は侵略戦争は世界が許さないという約束ができているから、そのような蛮行を大国なった中国がすることはないと思うんだ。
呑助 そう思いたいですね。
侘助 だから中国が侵略的な行為をした場合には、厳しく抗議をする必要があるとは思うな。
呑助 そうですよね。
侘助 中国にとってアメリカの軍事基地が日本中にあることは脅威じゃないのかなと思うね。
呑助 中国にとっては、そうかもしれませんね。
侘助 日本人にとっても米軍基地があることは脅威だと思う。米軍基地に日本の警察は入れないということは治外法権ということだよね。こんな米軍基地が特に沖縄にたくさんあるからね。

醸楽庵だより  188号   聖海(白井一道)

2016-01-23 12:05:29 | 随筆・小説
 
  憲法とは何なの--たまには政治の話でも--(1)

侘輔 酒を飲んでたまには政治の話でもしないかい。
呑助 政治の話ですか。
侘助 政治の話だよ。そうつまらなそうな顔をするなよ。
呑助 若者は政治の話が大嫌いなんですよ。
侘助 どうしてなのかな。今度、消費税が十%になるらしいが、ノミちゃん、酒は間違いなく値上げになるよ。
呑助 そりゃ、こまりますよ。吟醸酒に親しむ者にとっちゃ、困ります。
侘助 そうだろう。消費税値上げを決めるのは政治家だからね。庶民の生活は政治に直結しているだけれどね。
呑助 生活に直結する物には消費税は据え置くという話あるから大丈夫じゃないですか。
侘助 お酒は税軽減の対象品目から除外されてしまったようだよ。
呑助 僕にとっちゃ、お酒は日常生活品ですよ。
侘助 お酒はぜいたく品のようだ。
呑助 でも、お酒は酒税を酒蔵が支払っているんでしょ。だったらいいじゃないですか。その上に消費税を支払う必要はないな。
侘助 もっともな意見だね。酒税にも消費税を課ける。税に税を課す。こりゃ、確かにおかしいよね。このおかしなことをまかり通すのが政治というものなんだ。だから政治に関心をもたないと正しいことが行われない。
呑助 お酒に消費税を課すけるのなら酒税は廃止してもらいたいものですね。
侘助 ほんとうにそうなってほしいものだな。
呑助 政治には感心をもたないとダメですね。
侘助 そうだよ。我々の生活に直結しているからね。
呑助 今、政治で問題になっていることなんですか。
侘助 うん。それは今の憲法を廃止し、新しい憲法を制定したいと現政府が言っていることかな。
呑助 そうですか。そもそも憲法って、何なんですか。国民の生活に関係があるんですか。
侘助 おおありだね。国民みんなが創ったものが憲法なんだ。国民みんなが力を合わせて創ったものが近代国家というものなんだ。憲法そのものが近代国家なんだ。
呑助 憲法とは国家のことをいうんですか。
侘助 英語で憲法のことをconstitutionというんだ。conとは「いっしょに」という意味だ。stitutionとは「立ち上げる」というような意味なんだ。だから国家という意味なんだ。
呑助 へぇー、そうなんですか。初めて聞く話だ。
侘助 今から二百数十年前フランス革命といわれる出来事があったんだ。この革命で国民が国家を創った。ということは憲法を創ったんだ。国民は何でもできる。国で一番偉い人になった。このことを国民が主権者になったということなんだ。
呑助 主権者とは、なんですか。
侘助 国で一番偉い人という意味かな。
呑助 私は国で一番偉い人なんですかね。へぇー、驚きましたね。私が偉い?
侘助 驚いたでしょ。お前は偉いんですよ。だってそうでしょ。主権者のことを英語でsovereignというんだ。Sovereignとは君主という意味だからね。国民主権とは国民が君主だということさ。君主とは国で一番偉い人のことを言うんでしょ。だから国民が一番偉いという事を国民主権というんだ。

醸楽庵だより  187号   聖海(白井一道)

2016-01-22 14:47:54 | 随筆・小説

  地元にこだわった酒・登龍

侘助 お正月には美味しいお酒を飲んだかい。
呑助 福島のお酒をいただきましたよ。
侘助 何という銘柄のお酒なんだい。
呑助 「登龍」(のぼりりゅう)という銘柄なんですよ。福島は白河のお酒なんですよ。
侘助 江戸時代にあっては、陸奥の入り口に位置する関所があった所だな。
呑助 そうですよ。常磐道の勿来の関、東北道の白河の関、日本海側山形県と新潟県境にある鼠(ねず)ケ関が日本三関と言われているところですよ。
侘助 ノミちゃん、詳しいね。
呑助 大学入試で日本史をとったんですよ。
侘助 受験勉強もたまには役に立つこともあるんだね。
呑助 日本史は得意科目でしたからね。
侘助 白河の関ではどんな歌が詠まれたのか、知っているかい。
呑助 もちろん知っていますよ。「都をば霞とともに立ちしかど秋風ぞ吹く白河の関」能因が詠んだ歌が有名なんじゃないですか。
侘助 すごいね。得意科目は日本史だけじゃなく、古典も得意だったようだね。
呑助 芭蕉は『おくのほそ道』白河の関を詠んでいるのか、どうか、ワビちゃん、知っている。
侘助 こりゃ、参ったな。芭蕉ではなく、随行の曾良の句が載っていたような気がしたな。
呑助 さすがワヒちゃんだね。曾良は「卯の花をかざしに関の晴れ着かな」詠んでいるんですよ。
侘助 「心許なき日かず重なるままに、白河の関にかかりて旅心定まりぬ」と書いている。現在にあっても白河は栃木県と福島県の県境になっている。勿来もまた茨城県と福島県の県境に位置している。昔、白河は陸奥への入り口に位置していたんだ。
呑助 昔居ずまいを正して白河の関を越えたと言いますが、白河のお酒、「登龍」は飲んでみると居ずまいを正してくれるような神聖な気持ちにしてくれるお正月にふさわしいお酒でしたよ。
侘助 何という酒蔵のお酒なのかな。
呑助 大谷忠吉本店という蔵のお酒ですね。
侘助 そりゃ、もしかして詩人の萩原朔太郎の奥さんの実家かもしれないよ。
呑助 萩原朔太郎という詩人はどんな詩を書いた人なんですか。
侘助 萩原朔太郎は群馬県前橋出身の人だからね。利根川が街の中を流れている。利根川を詠んだ詩があるんだ。

利根川のほとり   萩原朔太郎

きのふまた身を投げんと思ひて
利根川のほとりをさまよひしが
水の流れはやくして
わがなげきせきとむるすべもなければ
おめおめと生きながらへて
今日もまた河原に來り石投げてあそびくらしつ。
きのふけふ
ある甲斐もなきわが身をばかくばかりいとしと思ふうれしさ
たれかは殺すとするものぞ
抱きしめて抱きしめてこそ泣くべかりけれ。

呑助 詩人ですね。自分で自分が好きになれない苦しみを詠んでいるんですね。