はれ物に柳のさはるしなえかな 芭蕉 元禄七年
この句には異型の句が伝えられている。「はれ物にさはる柳のしなえかな」である。「はれ物にさはる柳」か、それとも「柳のさはる」か、である。
「さはる柳」か、それとも「柳のさはる」か、で芭蕉の弟子たちは論争している。この論争の経過が『去来抄』に載せてある。芭蕉の弟子、浪化(ふうこ)が編纂した『有磯海』には「はれ物にさはる柳のしなえかな」とある。浪化、支考、条件付の丈草、許六らは「さはる柳」を支持している。これに対して「是ハ予が誤り傳ふる也。重て史邦が小文庫に柳のさハると改め出す」と師、芭蕉は弟子の浪化が間違って伝えていると述べ、史邦は小文庫に「柳のさはる」と間違いを修正していると去来は『去来抄』に書いている。
「はれ物に柳のさはるしなえかな」と「はれ物にさはる柳のしなえかな」ではどのような違いがあるのだろう。「はれ物に柳のさはるしなえかな」とは、はれ物に柳が触るかのようなという比喩になるが、「はれ物にさはる柳のしなえかな」とすると直接柳の葉が腫れものに触っているということになる。この句は比喩を表現していると去来は主張している。師・芭蕉が表現した句は比喩の句だと去来は主張している。