警視庁失踪課・高城賢吾シリーズの書き下ろし長編第9弾。2013年3月に刊行された。
土曜日の早朝。高城は自宅で酒浸りになり酔い潰れ夢を見ている状態から、水をぶっかけられ強引に目覚めさせられる。明神愛美と醍醐塁が眼前に居た。高城は無断欠勤していた。馘(くび)になる覚悟の上だった。なぜそうなったのか。高城の娘・綾奈が行方不明となった公園の近くの家で火災が発生した結果、その現場検証中に白骨遺体が土中から発見された。それが綾奈の遺体だと確認されたのだ。前作末尾の二行の意味が、冒頭のシーンにリンクしてくる。
だが、愛美は「高城さん、ずっと出勤していることになっているんですよ」と冷たく言い放ち、高城に出番だと告げる。醍醐が「誘拐です。被害者は、七歳の女の子です」と言った。世田谷東署が管轄する桜新町に住む菊池真央、七歳、小学校二年生の失踪届が所轄に届け出られ、昨夜11時に第三方面分室に連絡が入ったという。
2月15日、ピアノ教室で午後4時半から1時間半、レッスンを受けた真央は普通なら教室から自宅まで歩いて10分ほどなので6時半前には帰宅予定だった。その真央が7時をすぎでも戻って来ないことから大騒ぎになった。10時過ぎに交番に届け出られた。高城・醍醐・明神の3人がまず捜査に加わる。さらに田口が応援に加わることに。だが捜索は空しい結果に終わる。田口が高城に真央の遺体が見つかったと連絡を入れてきた。最初に真央のトートバックが発見された場所のすぐ近くにあるマンションの非常階段で絞殺死体が発見された。下着が持ち去られ下半身露出の状態だった。事件の担当は、失踪課から捜査一課に移る。世田谷東署に、捜査員100人態勢の特捜本部が設置される。
分室長の阿比留真弓は撤退を宣言し、「余計なことをしないように」と釘をさす。だが、高城は彼女の命令を無視する行動に出る。高城には、真央と絢奈の死が重なっていく。高城が理不尽な形で娘をなくした菊池夫妻にどのような関わり方をすることになるのか。高城の内心の葛藤を含めて、それがまず最初の読ませどころとなる。
高城は、真央が水泳教室にも通っていたことから、そこへの聞き込み捜査を行う。水泳教室に通う二人の女の子から有力な情報を得ることに。そして、鑑識課員の協力を得て、2人へのヒアリングから似顔絵作成をする。一つの有力な手がかりを得たのだが、それをどのように扱うか。似顔絵の特徴は、テレビでレギュラー番組を持ち、あるスキャンダルを起こした有名人の寺井慎介に似ていた。捜査一課強行班の中澤係長と高城とは捜査の進め方で意見が対立することに・・・・。事件捜査の進展として、それが最初の山場になっていく。
そんな矢先に、明神愛美の両親が自動車事故に捲き込まれ、母親が死亡・父親が意識不明という事態が起こる。高城は明神を何とか説きつけて帰郷させることに。だが、それは捜査における愛美の存在の大きさを高城に再認識させることになる。高城は醍醐と独自に聞き込み捜査を継続していく。
再び事件が起こる。真弓から高城に指示が出た。世田谷南署の管轄で女の子の行方不明事件が発生したという。同じ田園都市線の用賀駅近くに住む、小学二年生の女児でピアノ教室に行ったきり帰って来ないという。共通点がある行方不明事件の発生。
捜索が続いていた。ところが、自宅から2キロくらい離れている南署の等々力不動前駐在所に行方不明の女の子が飛び込んできて、保護されたという連絡が入る。高城が現地に駆けつけると、救急車が出る直前だった。沙希と称する女の子は軽い外傷で、下着を穿いていなかったと救急隊員から高城は聞き取った。沙希とその両親への事情聴取をどのように進めることができるか。真央のケースと沙希のケースが同一犯人によるものなのかどうか・・・・。事情聴取が重要な要素となっていく。
似顔絵を見た田口が、高城に身近に居たある人物が似ていると電話連絡してきた。それが捜査方法の転換となる。第三の事件発生を想定した形での捜査に進展していく。
このストーリー、前作(第8弾)に組み込まれた伏線が浮上してくることに。
高城は、綾奈と同じ年頃の女児の行方不明事件を連続で捜査する状況に投げ込まれた。そこから再び高城は己にとっての使命を自覚することに回帰していく。
女児の両親たちにとって、この遭遇した事件は「闇夜(あんや)」そのものである。彼らがそこから立ち直れるかどうか・・・・・。高城はこれら事件を刑事として扱うだけでなく。被害者の精神的な側面にも関わっていくことになる。
一方、ここで取り扱われる事件の捜査の進展は、高城自身の精神状態の「闇夜」を突き抜ける道程にもなっていく。そこに、このストーリーの大きな特徴があると言える。
このストーリーの末尾に、初めて長野が高城の携帯電話に連絡をとってくるシーンが描かれる。
「ようやく見つけたぞ。目撃者が出たんだ」と。高城は即座に「分かった。俺も話を聴く」(p475)と反応した。
このやりとりを読めば、第10弾をすぐにでも読みたくなる。私は連続して読んでしまった。
最後に、印象深い箇所をいくつか引用しておこう。
*警察も人の集まりだから、合う合わないというのはある。ましてや私の場合、他人に迷惑をかけてばかりだから、疎ましく思われて当然だ。それでも、たった一つの目的がある時には、個人的な感情を乗り越えて協力できるものである--犯人を逮捕し、被害者を安心させること。 p336-337
*どんなに大変なことでも、自分で直接やる方がはるかに楽なのだ、と思った。 p343
*娘さんに、憎む相手を与えてあげなさい、と。あなたたちも、相手を殺すぐらいのことは考えていいんだ、と。
考えるだけならいいんです。そこから先、実際に手を出す人間は、まずいませんからね。もしも手を出したら、憎むべき犯罪者と同レベルになってしまう。人間は、どんなに最低の状態にあると思っていても、完全に落ち切ることはできないんですね。憎む相手と同じレベルになりたくないというか・・・・・。 p346
*恨みは、忘れられるんですよ。
恨みも人生の一部分に過ぎません。いつか、通り過ぎていきます。恨んでも悲しんでも、人生は進んでいくんですですよね。マイナスの感情だって、生きる推進力になるなら、評価すべきでしょう。 p347
ご一読ありがとうございます。
こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『牽制 警視庁失踪課・高城賢吾』 中公文庫
『遮断 警視庁失踪課・高城賢吾』 中公文庫
『波紋 警視庁失踪課・高城賢吾』 中公文庫
『裂壊 警視庁失踪課・高城賢吾』 中公文庫
「遊心逍遙記」に掲載した<堂場瞬一>作品の読後印象記一覧 最終版
2022年12月現在 26冊
土曜日の早朝。高城は自宅で酒浸りになり酔い潰れ夢を見ている状態から、水をぶっかけられ強引に目覚めさせられる。明神愛美と醍醐塁が眼前に居た。高城は無断欠勤していた。馘(くび)になる覚悟の上だった。なぜそうなったのか。高城の娘・綾奈が行方不明となった公園の近くの家で火災が発生した結果、その現場検証中に白骨遺体が土中から発見された。それが綾奈の遺体だと確認されたのだ。前作末尾の二行の意味が、冒頭のシーンにリンクしてくる。
だが、愛美は「高城さん、ずっと出勤していることになっているんですよ」と冷たく言い放ち、高城に出番だと告げる。醍醐が「誘拐です。被害者は、七歳の女の子です」と言った。世田谷東署が管轄する桜新町に住む菊池真央、七歳、小学校二年生の失踪届が所轄に届け出られ、昨夜11時に第三方面分室に連絡が入ったという。
2月15日、ピアノ教室で午後4時半から1時間半、レッスンを受けた真央は普通なら教室から自宅まで歩いて10分ほどなので6時半前には帰宅予定だった。その真央が7時をすぎでも戻って来ないことから大騒ぎになった。10時過ぎに交番に届け出られた。高城・醍醐・明神の3人がまず捜査に加わる。さらに田口が応援に加わることに。だが捜索は空しい結果に終わる。田口が高城に真央の遺体が見つかったと連絡を入れてきた。最初に真央のトートバックが発見された場所のすぐ近くにあるマンションの非常階段で絞殺死体が発見された。下着が持ち去られ下半身露出の状態だった。事件の担当は、失踪課から捜査一課に移る。世田谷東署に、捜査員100人態勢の特捜本部が設置される。
分室長の阿比留真弓は撤退を宣言し、「余計なことをしないように」と釘をさす。だが、高城は彼女の命令を無視する行動に出る。高城には、真央と絢奈の死が重なっていく。高城が理不尽な形で娘をなくした菊池夫妻にどのような関わり方をすることになるのか。高城の内心の葛藤を含めて、それがまず最初の読ませどころとなる。
高城は、真央が水泳教室にも通っていたことから、そこへの聞き込み捜査を行う。水泳教室に通う二人の女の子から有力な情報を得ることに。そして、鑑識課員の協力を得て、2人へのヒアリングから似顔絵作成をする。一つの有力な手がかりを得たのだが、それをどのように扱うか。似顔絵の特徴は、テレビでレギュラー番組を持ち、あるスキャンダルを起こした有名人の寺井慎介に似ていた。捜査一課強行班の中澤係長と高城とは捜査の進め方で意見が対立することに・・・・。事件捜査の進展として、それが最初の山場になっていく。
そんな矢先に、明神愛美の両親が自動車事故に捲き込まれ、母親が死亡・父親が意識不明という事態が起こる。高城は明神を何とか説きつけて帰郷させることに。だが、それは捜査における愛美の存在の大きさを高城に再認識させることになる。高城は醍醐と独自に聞き込み捜査を継続していく。
再び事件が起こる。真弓から高城に指示が出た。世田谷南署の管轄で女の子の行方不明事件が発生したという。同じ田園都市線の用賀駅近くに住む、小学二年生の女児でピアノ教室に行ったきり帰って来ないという。共通点がある行方不明事件の発生。
捜索が続いていた。ところが、自宅から2キロくらい離れている南署の等々力不動前駐在所に行方不明の女の子が飛び込んできて、保護されたという連絡が入る。高城が現地に駆けつけると、救急車が出る直前だった。沙希と称する女の子は軽い外傷で、下着を穿いていなかったと救急隊員から高城は聞き取った。沙希とその両親への事情聴取をどのように進めることができるか。真央のケースと沙希のケースが同一犯人によるものなのかどうか・・・・。事情聴取が重要な要素となっていく。
似顔絵を見た田口が、高城に身近に居たある人物が似ていると電話連絡してきた。それが捜査方法の転換となる。第三の事件発生を想定した形での捜査に進展していく。
このストーリー、前作(第8弾)に組み込まれた伏線が浮上してくることに。
高城は、綾奈と同じ年頃の女児の行方不明事件を連続で捜査する状況に投げ込まれた。そこから再び高城は己にとっての使命を自覚することに回帰していく。
女児の両親たちにとって、この遭遇した事件は「闇夜(あんや)」そのものである。彼らがそこから立ち直れるかどうか・・・・・。高城はこれら事件を刑事として扱うだけでなく。被害者の精神的な側面にも関わっていくことになる。
一方、ここで取り扱われる事件の捜査の進展は、高城自身の精神状態の「闇夜」を突き抜ける道程にもなっていく。そこに、このストーリーの大きな特徴があると言える。
このストーリーの末尾に、初めて長野が高城の携帯電話に連絡をとってくるシーンが描かれる。
「ようやく見つけたぞ。目撃者が出たんだ」と。高城は即座に「分かった。俺も話を聴く」(p475)と反応した。
このやりとりを読めば、第10弾をすぐにでも読みたくなる。私は連続して読んでしまった。
最後に、印象深い箇所をいくつか引用しておこう。
*警察も人の集まりだから、合う合わないというのはある。ましてや私の場合、他人に迷惑をかけてばかりだから、疎ましく思われて当然だ。それでも、たった一つの目的がある時には、個人的な感情を乗り越えて協力できるものである--犯人を逮捕し、被害者を安心させること。 p336-337
*どんなに大変なことでも、自分で直接やる方がはるかに楽なのだ、と思った。 p343
*娘さんに、憎む相手を与えてあげなさい、と。あなたたちも、相手を殺すぐらいのことは考えていいんだ、と。
考えるだけならいいんです。そこから先、実際に手を出す人間は、まずいませんからね。もしも手を出したら、憎むべき犯罪者と同レベルになってしまう。人間は、どんなに最低の状態にあると思っていても、完全に落ち切ることはできないんですね。憎む相手と同じレベルになりたくないというか・・・・・。 p346
*恨みは、忘れられるんですよ。
恨みも人生の一部分に過ぎません。いつか、通り過ぎていきます。恨んでも悲しんでも、人生は進んでいくんですですよね。マイナスの感情だって、生きる推進力になるなら、評価すべきでしょう。 p347
ご一読ありがとうございます。
こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『牽制 警視庁失踪課・高城賢吾』 中公文庫
『遮断 警視庁失踪課・高城賢吾』 中公文庫
『波紋 警視庁失踪課・高城賢吾』 中公文庫
『裂壊 警視庁失踪課・高城賢吾』 中公文庫
「遊心逍遙記」に掲載した<堂場瞬一>作品の読後印象記一覧 最終版
2022年12月現在 26冊