遊心逍遙記その2

ブログ「遊心逍遙記」から心機一転して、「遊心逍遙記その2」を開設します。主に読後印象記をまとめていきます。

『凍結捜査』   堂場瞬一   集英社文庫

2023-07-27 21:42:54 | 堂場瞬一
 『検証捜査』でタスク・フォースとして全国から集められ捜査に従事したメンバーは、事件解決後、解散し原職に復帰した。だがそのネットワークを活用して事件捜査に役立てるというつながりが色濃く出てくる設定でおもしろい作品群が続く。それに加わった一冊である。文庫書き下ろしとして、2019年7月に刊行された。

 函館近郊にある大沼国定公園の雪中から後頭部を撃たれた遺体が発見された。発見者は国定公園内で土産物店を経営する浦田政次。彼は日課の早朝散歩の時、嫌な予感のする雪の膨らみを見て、雪を取り除いて、射殺遺体を発見した。
 保井凜(やすいりん)は、後輩の淺井真由から携帯に「大沼で殺しです」と連絡を受けた。凜は昨年10月から函館中央署の刑事一課に異動していた。連絡を受けた時には、3日の休暇をとり、神谷悟郎(かみやごろう)が訪ねてきていた。凜と神谷は『検証捜査』で捜査チームのメンバーだった。今は、遠距離交際の関係を続けている。神谷は警視庁刑事一課の刑事。
 凜が現場に着いた時、被害者は所持していた免許証から平田和己、33歳とみなされた。後頭部から二発撃たれて、二発とも顔面を貫通。通路脇の雪溜まりにうつ伏せ状態だった。アメリカのマフィアのやり口に似た射殺である。凜は、婦女暴行事件の被害者届が出されていたことから平田和己を記憶していた。彼の出身は東京で、札幌に住んでいた時、ロシアとの水産物輸出入を行う小さな商社に勤めていた。被害届が出されたことで本人の指紋が採取されている。この時の被害者は函館に実家がある水野珠希であり、被害届は一旦出されたが、その後すぐに取り下げられのだった。だが、凜は水野珠希の心のケアを兼ねて、彼女との接触を続けていた。凜は珠希の携帯に連絡をするが音信不通。珠希の実家に電話を入れると、母親が珠希が家出したようだと返答してきた。
 凜は、事件が望まない方に急に動き始めたと感じる。

 凜はまず、函館市内の珠希の実家を訪ねることから、捜査に入る。一方、神谷は函館の観光などをして時間を費やし、凜と過ごせる時間を有効に活用した後は東京に戻ることにした。神谷はこの事件に関心を寄せ、出来る範囲で情報を収集し分析する。東京に戻った後、間接的に東京から凜の捜査活動を支援する立場をとろうとする。
 函館の事件を知った埼玉県警の桜内省吾が神谷に連絡を入れてくる。神谷は桜内と会い意見交換をする。一方、神谷は警察庁刑事局広域捜査課長の永井とコンタクトをとる。永井はかつてのタスク・フォースのリーダーだったキャリア官僚。『検証捜査』で培われたネットワークがなにがしか有効なソースとなっていく。

 射殺事件の捜査本部が立つ。被害者について詳細に調べるために、凜は東京における平田の足取り捜査班4人の内に組み込まれる。東京での平田の足取り捜査の成果がでない内に、本部の2刑事は、札幌での殺人事件発生を理由に撤収し、かつ捜査本部も規模縮小となる。さらに凜たちも刑事一課長古澤からの連絡で函館に戻る羽目に・・・・。
 函館に戻った凜は捜査を続けるが、1週間ほど後に、凜は帰宅の途中、コンビニに立ち寄ったとき、見知らぬ女性に声を掛けられる。彼女は凜の素性を知った上で、接触をはかってきた。これを契機に、平田射殺事件には想像もできない裏がありそうだと凜は直観する。
 
 東京のあるホテルで殺しが発生する。待機中の神谷らは現場に臨場することに。被害者は若い女性。後頭部に二発撃たれ、処刑スタイルだという連絡を神谷は受けた。神谷は、函館の平田射殺事件を思い出す。手口が共通している・・・・と。浅川みどりという名での宿泊だったが、偽名と判明した。鑑識作業が終了時点で、遺留のバッグに残っていた運転免許証から、被害者が水野珠希と判明した。
 この事件について、神谷は函館の凜に連絡を入れる。非公式段階だが、凜は古澤課長にこの事件を報告し、遺体確認を兼ねて凜が東京に飛ぶことになる。これが第二部のはじまりとなっていく。
 函館中央署と警視庁は捜査で連携することになる。凜は函館中央署と警視庁との連絡役となる。警視庁側は、神谷が進藤を相棒として、珠希の交友関係を調べるために札幌に出張することから始まる。

 連携捜査は始まるが、捜査を進展させる事実が出て来ない。そんな最中に、凜の宿泊するホテルのロビーに、コンビニ前で接触してきたあの女性が、居ることに凜は気づく。神谷に連絡したことで、神谷が尾行し須藤朝美だと判明する。勤務先も大凡判明した。だが、それが逆に疑問を膨らませる。
 また、連絡役としての凜が函館に戻ることになった前夜、神谷と食事をして、宿泊ホテルの近くで別れた直後に、凜はプリウスにぶつけられ、スタンガンを使われて拉致されかけた。何とか車から自力で脱出。神谷が気づき車を止めさせようとするが、道路に放り出される。大通りに飛び出した車は、トラックと衝突事故を起こす結果に。凜は鎖骨にひびが入り全治三週間の怪我を負う。神谷と凜は、須藤朝美を糸口をつかむため、捜査のターゲットにする。須藤は凜を拉致しようとした運転手の名前だけは知っていた。
 須藤を問い詰めて得たひとかけらの情報と凜を拉致しようとした男が、捜査の糸口になっていく。そこから平田和己と水野珠希の射殺事件の真相は思わぬ方向へ進展していく。

 このストーリー、凜と神谷の連携捜査が軸となりこのあと進展していく。だが、捜査で判明することから意外な結末が導き出されていく。
 2つの射殺事件は、個別的には一応解明できる。だが、そこで留まらざるを得なくなる。真の問題は、現実の捜査という視点では「凍結」されてしまうことに・・・・・・・。
 興味深い構想のストーリーとなっている。捜査とは何か。それについて問いかける一つの視点が背景に置いて問題提起されているとも読める。

 最後に、上記のキャリア官僚、永井が神谷と凜に対して語ったことを、一つご紹介しておこう。
「神谷さん、変な風に聞こえるかもしれませんが、私は上から事態を見なければいけないんです。
 一方、あなたたちは、現場で人の苦しみや悲しみを見る---私たちがそういうことを経験していちいち気持ちを動かされていては、何もできなくなります」 p489

 読者として、仕方がないなぁ・・・・とは思う一方で、それ故フラストレーションが残る部分があるのも感想。とはいえ、こういう終わり方もありえるか。

 ご一読ありがとうございます。


こちらもお読みいただけるとうれしいです。
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「遊心逍遙記」に掲載した<堂場瞬一>作品の読後印象記一覧 最終版
 2022年12月現在 26冊

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