警察学校の教場教官である風間公親の短編連作集である教場シリーズが、この『教場0』により、風間公親の刑事としての過去に遡る。本書もまた、短編連作集で6話が収録されている。「STORY BOX」(2014年6月号~2017年6月号)に各短編が掲載された。大幅に加筆改稿が行われ、2017年10月に単行本が刊行された。2019年11月に文庫化されている。 文庫本の表紙
単行本の奥書を読むと、目次構成と収録された短編の初出発表の順が異なることがわかる。目次の構成順と初出との関係を対比しておこう。
第一話 仮面の軌跡 2014年6月号
第二話 三枚の画廊の絵 2017年3月号
第三話 ブロンズの墓穴 2016年9月号 初出「百度を踏む男」
第四話 第四の終章 2016年6月号 初出「二重舞台」
第五話 指輪のレクイエム 2016年12月号 初出「償い」
第六話 毒のある骸 2017年6月号
順序が改編されているので、初出と単行本での加筆改稿を対比的に読むとどのように整合性が取られているかと言う点で面白いかもしれない。
さて、冒頭に記したが、本書は風間の刑事としての過去に遡る。風間はT県県警本部捜査一課強行犯に所属していた。本書のタイトルに「刑事指導官」と冠してある。それはなぜか。県下の各署に所属し、経験3か月の刑事が1名、定期的に本部に派遣され、現職刑事風間公親から3か月間、実際に発生した事件の捜査を行う中でみちりと教えを受けることになる。つまり、風間道場と呼ばれる刑事育成システムが確立されていて、風間は刑事指導官を担当していたのだ。1対1の実践教育である。風間は生徒となった新米刑事に、「転属願」を書くかと突きつける。刑事の素質がないと判断すれば、地域の交番で貢献しろというのだ。
そして、どういう経緯で、風間が義眼を装着することになったかが第六話で明らかになる。この点が教場教官風間公親という立場にリンクしていく。
本書の興味深い所は、事件の発生自体は、まず犯人の視点から書き込まれる。読者は最初に事件内容を知る。次に事件の現場に駆けつけた風間と新米刑事(生徒)が現場を検分して、そこで何に気づくかを読む立場になる。風間は新米刑事に気づかせる工夫をさりげなく行うが、直接には教えない。新米刑事に己の目で確認させ、究極まで考えを突き詰めさせる方向に追い込んで行く。事件解決への糸口を発見させる方向に指導していく。答えを出す期限を切る。出来ないなら「転属願」を提出し、刑事の畑から去れと告げ、行動で示す。
この短編連作の醍醐味は新米刑事の立ち位置に読者が身を置きながら読み進めることになる。新米刑事のイライラ感、焦り、落胆、恐怖感、失望感、必死感、閃き、希望、達成感・・・・・に触れるところだろうか。当然ながら、事件の捜査は風間の指摘を受ける新米刑事(生徒)の視点を軸に描き出されて行く。
以下、各短編について、少しご紹介していく。
<第一話 仮面の軌跡>
1.新米刑事 県北部にあるM書の刑事・瓜原潤史
2.事件
「ワンルームの学生向けアパートでの女子大生遺体発見事件」
「第一協同交通タクシー内での殺人事件」
ホストクラブ経営者芦沢憲太郎はタクシーで日中弓をX町のXビルまで送る。
日中は仮装パーティの後、芦沢と賭けをしタクシー内では仮装用マスクを装着。 芦沢に別れ話をするが、こじれてしまい、日中は車内で芦沢を刺す。
下車後、日中は芦沢の住所を運転手に教え着くまで起こさないようにと指示。
W町でタクシーの現場を検分し、運転手に事情聴取する事から捜査が始まる。
3.風間の教え:人と会ったら、相手のにおいをを嗅いでみろ。
4.読後印象 :運転手に事情聴取した折の運転手の発言・言葉遣いに風間が着目。
ナルホドである。結果的に芦沢がいわばダイイング・メッセージを残した事に
なる伏線の織り込みがおもしろい。
<第二話 三枚の画廊の絵>
1.新米刑事 県北西部のK署の刑事・折本直哉
2.事件 「熊之背山の五合目登山口付近での遺体発見、殺人死体遺棄事件」
『画廊コーサカ』の経営者で画家の向坂善紀が歯科医苅部達郎を過って殺す。
手首と頭部を切断し、胴体は熊之背山に、他は別の場所に埋設遺棄した。
向坂は朝子と離婚し息子匠吾の親権も喪失。4年前に朝子は子連れで苅部と再婚。
向坂と苅部は親交があった。高坂は匠吾に画家の才能を見出していた。
匠吾は、進学先について悩んでいた。苅部は歯科医への道を勧めていた。
「熊之背山に頭部のない遺体 祠の移設先調査で発見」の報道がなされた。
風間と折本は発見現場の検分から始めるが、どのようにこの捜査を進めるのか。
3.風間の教え:分からないなら絵を描け。できるだけ正確に模写すること。
4.読後印象 :偶発的殺人の隠蔽工作が生み出す結末。折本は、瓜原潤史から「女は
男で変わる。男は女で変わる」ことを風間道場で学んだと聞いていた。なるほど。
折本は向坂に熊之背山の風景を描き、画廊前のショーケースに置くことを依頼する
この依頼が興味深い伏線として動き出すところがいい。人間心理の奥深さを描く。
<第三話 ブロンズの墓穴>
1.新米刑事 県中央部のS署の刑事・荒城達真
2.事件 「翠川小学校ロータリー前殺人事件」
佐柄美幸の息子研人は急に不登校となる。研人はいじめにあい、そのいじめには
担任の諸田伸枝先生も加担していたと言う。息子の発言を信じる美幸は諸田に面
会を求めるが拒否される。それが重なり強引に美幸は学校に押しかけた。諸田は
美幸を無視する。美幸は諸田を殺す計画を周到に立て、実行する。
偽装された殺人現場。現場に臨場した風間と荒城。風間は現場の状況を荒城に説
明させることから始めて行く。また、現場を離れた場所で荒城に掴みかかれと指
示し、疑似格闘の後の現場写真を荒城に記録させる。
3.風間の教え:視界にあるものを言葉にする。とにかく証拠を見つける。現場百遍。
4.読後印象 :周到な計画にも想定外のもれがある。殺人現場で説明出来ない事実の
存在。それに気づけるかどうか。その証拠発見への論理的推理力があるかどうか。
思わぬ誤算を扱っているところが巧みである。
<第四話 第四の終章>
1.新米刑事 県北東部にあるF署の刑事・早坂すみれ
2.事件 「マンション<カーサ靑野>306号室で舞台俳優・元木伊知朗の縊死事件」
305号室佐久田肇の隣り、306号室には劇団<サード・エピローグ>に所属し看板女
優になった筧麻由佳が住んでいる。その部屋には、同じ劇団の俳優・元木伊知朗
が入り浸っていた。その筧が佐久田の部屋のドアを叩き、必死の形相で助けを求
めてきた。行くと、リビングに元木がいて首にロープを巻いていて自殺を図った。
佐久田は自室に戻り119番に通報し、警察にも連絡を取った。
風間の指示を受け、早坂は風間とマンションの現場に向かう。早坂は佐久田の部
屋で筧麻由佳への事情聴取から捜査を始める。元木は次の公演では有島武郎の役
をする予定だったという。佐久田は消防と警察に連絡をとるのに約5分くらいかか
ったと言う。元木の縊死事件には事件性があるのか?
3.風間の教え:ロカールの法則。人の顔を覚える有効な方法。
4.読後印象 :元木の住まいであるアパートの部屋に貼られた写真の一枚に、元木と
長身の看板女優とが一緒の写真があった。その女優に当たれと風間は早坂に示唆
した。その女優・椿あさみは半年前に駅の階段から転落し大怪我を負っていた。
この椿あさみへの早坂の聞き込み捜査が捜査の決め手になったものと推測する。
<第五話 指輪のレクイエム>
1.新米刑事 県の南端にあるF署の刑事・大里翔子
2.事件 「自宅でのフッ化水素ガス吸引による主婦・仁谷清香の中毒死事件」
仁谷継秀は50歳。小さなデザイン会社に勤めて居たときに20歳年上の清香と結婚。
今は会社を辞め、在宅で印刷物のデザイン仕事を請け負っている。妻の清香は70
歳で半年前から「まだら認知症」の症状を見せ始めていた。仁谷は妻の介護に疲
れで限界を感じ始める。一方で「赤芝印刷」に在籍する田瀬葵と恋人関係にあっ
た。仁谷は己のアリバイを作りつつ清香の殺害を図る。
帰宅した仁谷は妻清香の死を確認し、窓を開け十分な換気後に警察に通報した。
風間と早坂が現場に入った時には、清香は電話機の前で穏やかな死に顔で倒れて
いた。窓の全開から風間はガス中毒死と判断。大里は仁谷にまず事情聴取した。
3.風間の教え:供述を引き出すコツ。一拍置くことと相手の動きをトレースすること。
4.読後印象 :さりげなく記述されている死に顔のおだやかさと、清香の指先について
いた塩がキーワードになるとは・・・・気づかなかった!
<第六話 毒のある骸>
1.新米刑事 D署の刑事・平優羽子
2.事件 「T大学・法医学教室助教・宇部祥宏 青酸塩服毒死事件」
法医学教室の教授椎垣久仁臣は、予定より遅れて自分のデスクに戻った。
デスクには、宇部による[先にテンゴクへ行ってます]のメモが置いてあった。
「青酸塩による服毒自殺」の65歳男性遺体を司法解剖する予定があったのだ。
椎垣はこの解剖で、切開を宇部に任す。だが、大きな失敗をした。胃袋を切開す
る時に青酸ガス噴出の可能性を考え防毒マスクを着用することを指示していなか
たことだ。宇部はガスを吸い倒れる。椎垣は己の落ち度をその場で隠蔽する。
1週間後、椎垣は休養中の宇部の自宅を訪れ、宇部を毒殺した。宇部は、家を出て
坂道を登る側に進み、途中で息絶えた。
発見者の通報で、風間と平は現場に向かう。[先にテンゴクへ行ってます」という
メモ用紙と坂道を登る道の途中での遺体に彼らは違和感を抱く。
3.風間の教え:不自然な点を徹底的に考えよ。
4.読後印象 :椎垣のちょっとした浮かれ心が、ミスを誘発し、欲望からの隠蔽意識
が殺人へと負のサイクルを拡大する。ありそうな話。宇部が死の間際にとった行
動が示すダイイング・メッセージを平が読み解いた。う~ん、私は解読できずに
読了しなるほどと気づく。無念。
さて、この事件が解決し、平優羽子が風間を居酒屋に誘う。居酒屋を出て来た時に、風間の人生を変える事態が発生した。本書でその顛末をお読みいただきたい。それが、『教場』に繋がる遠因となる。だから『教場0』である。
まさに、刑事事件をそのまま on the job training の場にしたストーリーである。
犯罪者側の手口をまず明らかにした上で、捜査側の立場に切り替えたアプローチをするという展開がおもしろい。
ご一読ありがとうございます。
補遺
Locard's exchange principle From Wikipedia, the free encyclopedia
ロカールの交換原理 :ウィキペディア
ロカールの交換原理とは【用語集詳細】:「SOMPO CYBER SECURITY
好かれる人は無意識にやっている「ミラーリング効果」:「W.マイナビウーマン」
コミュニケーション力を上げる「ミラーリング」とは?|ビジネスに使える心理学①
:「オンスク.JP」
遺族を悩ませる「待機遺体」問題と遺体安置サービス「遺体ホテル」とは?:「SOBANI」
「死者のホテル」が繁盛する時代 :「日経ビジネス」
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
此方もお読みいただけるとうれしいです。
『教場 2』 長岡弘樹 小学館
『教場』 長岡弘樹 小学館
単行本の奥書を読むと、目次構成と収録された短編の初出発表の順が異なることがわかる。目次の構成順と初出との関係を対比しておこう。
第一話 仮面の軌跡 2014年6月号
第二話 三枚の画廊の絵 2017年3月号
第三話 ブロンズの墓穴 2016年9月号 初出「百度を踏む男」
第四話 第四の終章 2016年6月号 初出「二重舞台」
第五話 指輪のレクイエム 2016年12月号 初出「償い」
第六話 毒のある骸 2017年6月号
順序が改編されているので、初出と単行本での加筆改稿を対比的に読むとどのように整合性が取られているかと言う点で面白いかもしれない。
さて、冒頭に記したが、本書は風間の刑事としての過去に遡る。風間はT県県警本部捜査一課強行犯に所属していた。本書のタイトルに「刑事指導官」と冠してある。それはなぜか。県下の各署に所属し、経験3か月の刑事が1名、定期的に本部に派遣され、現職刑事風間公親から3か月間、実際に発生した事件の捜査を行う中でみちりと教えを受けることになる。つまり、風間道場と呼ばれる刑事育成システムが確立されていて、風間は刑事指導官を担当していたのだ。1対1の実践教育である。風間は生徒となった新米刑事に、「転属願」を書くかと突きつける。刑事の素質がないと判断すれば、地域の交番で貢献しろというのだ。
そして、どういう経緯で、風間が義眼を装着することになったかが第六話で明らかになる。この点が教場教官風間公親という立場にリンクしていく。
本書の興味深い所は、事件の発生自体は、まず犯人の視点から書き込まれる。読者は最初に事件内容を知る。次に事件の現場に駆けつけた風間と新米刑事(生徒)が現場を検分して、そこで何に気づくかを読む立場になる。風間は新米刑事に気づかせる工夫をさりげなく行うが、直接には教えない。新米刑事に己の目で確認させ、究極まで考えを突き詰めさせる方向に追い込んで行く。事件解決への糸口を発見させる方向に指導していく。答えを出す期限を切る。出来ないなら「転属願」を提出し、刑事の畑から去れと告げ、行動で示す。
この短編連作の醍醐味は新米刑事の立ち位置に読者が身を置きながら読み進めることになる。新米刑事のイライラ感、焦り、落胆、恐怖感、失望感、必死感、閃き、希望、達成感・・・・・に触れるところだろうか。当然ながら、事件の捜査は風間の指摘を受ける新米刑事(生徒)の視点を軸に描き出されて行く。
以下、各短編について、少しご紹介していく。
<第一話 仮面の軌跡>
1.新米刑事 県北部にあるM書の刑事・瓜原潤史
2.事件
「ワンルームの学生向けアパートでの女子大生遺体発見事件」
「第一協同交通タクシー内での殺人事件」
ホストクラブ経営者芦沢憲太郎はタクシーで日中弓をX町のXビルまで送る。
日中は仮装パーティの後、芦沢と賭けをしタクシー内では仮装用マスクを装着。 芦沢に別れ話をするが、こじれてしまい、日中は車内で芦沢を刺す。
下車後、日中は芦沢の住所を運転手に教え着くまで起こさないようにと指示。
W町でタクシーの現場を検分し、運転手に事情聴取する事から捜査が始まる。
3.風間の教え:人と会ったら、相手のにおいをを嗅いでみろ。
4.読後印象 :運転手に事情聴取した折の運転手の発言・言葉遣いに風間が着目。
ナルホドである。結果的に芦沢がいわばダイイング・メッセージを残した事に
なる伏線の織り込みがおもしろい。
<第二話 三枚の画廊の絵>
1.新米刑事 県北西部のK署の刑事・折本直哉
2.事件 「熊之背山の五合目登山口付近での遺体発見、殺人死体遺棄事件」
『画廊コーサカ』の経営者で画家の向坂善紀が歯科医苅部達郎を過って殺す。
手首と頭部を切断し、胴体は熊之背山に、他は別の場所に埋設遺棄した。
向坂は朝子と離婚し息子匠吾の親権も喪失。4年前に朝子は子連れで苅部と再婚。
向坂と苅部は親交があった。高坂は匠吾に画家の才能を見出していた。
匠吾は、進学先について悩んでいた。苅部は歯科医への道を勧めていた。
「熊之背山に頭部のない遺体 祠の移設先調査で発見」の報道がなされた。
風間と折本は発見現場の検分から始めるが、どのようにこの捜査を進めるのか。
3.風間の教え:分からないなら絵を描け。できるだけ正確に模写すること。
4.読後印象 :偶発的殺人の隠蔽工作が生み出す結末。折本は、瓜原潤史から「女は
男で変わる。男は女で変わる」ことを風間道場で学んだと聞いていた。なるほど。
折本は向坂に熊之背山の風景を描き、画廊前のショーケースに置くことを依頼する
この依頼が興味深い伏線として動き出すところがいい。人間心理の奥深さを描く。
<第三話 ブロンズの墓穴>
1.新米刑事 県中央部のS署の刑事・荒城達真
2.事件 「翠川小学校ロータリー前殺人事件」
佐柄美幸の息子研人は急に不登校となる。研人はいじめにあい、そのいじめには
担任の諸田伸枝先生も加担していたと言う。息子の発言を信じる美幸は諸田に面
会を求めるが拒否される。それが重なり強引に美幸は学校に押しかけた。諸田は
美幸を無視する。美幸は諸田を殺す計画を周到に立て、実行する。
偽装された殺人現場。現場に臨場した風間と荒城。風間は現場の状況を荒城に説
明させることから始めて行く。また、現場を離れた場所で荒城に掴みかかれと指
示し、疑似格闘の後の現場写真を荒城に記録させる。
3.風間の教え:視界にあるものを言葉にする。とにかく証拠を見つける。現場百遍。
4.読後印象 :周到な計画にも想定外のもれがある。殺人現場で説明出来ない事実の
存在。それに気づけるかどうか。その証拠発見への論理的推理力があるかどうか。
思わぬ誤算を扱っているところが巧みである。
<第四話 第四の終章>
1.新米刑事 県北東部にあるF署の刑事・早坂すみれ
2.事件 「マンション<カーサ靑野>306号室で舞台俳優・元木伊知朗の縊死事件」
305号室佐久田肇の隣り、306号室には劇団<サード・エピローグ>に所属し看板女
優になった筧麻由佳が住んでいる。その部屋には、同じ劇団の俳優・元木伊知朗
が入り浸っていた。その筧が佐久田の部屋のドアを叩き、必死の形相で助けを求
めてきた。行くと、リビングに元木がいて首にロープを巻いていて自殺を図った。
佐久田は自室に戻り119番に通報し、警察にも連絡を取った。
風間の指示を受け、早坂は風間とマンションの現場に向かう。早坂は佐久田の部
屋で筧麻由佳への事情聴取から捜査を始める。元木は次の公演では有島武郎の役
をする予定だったという。佐久田は消防と警察に連絡をとるのに約5分くらいかか
ったと言う。元木の縊死事件には事件性があるのか?
3.風間の教え:ロカールの法則。人の顔を覚える有効な方法。
4.読後印象 :元木の住まいであるアパートの部屋に貼られた写真の一枚に、元木と
長身の看板女優とが一緒の写真があった。その女優に当たれと風間は早坂に示唆
した。その女優・椿あさみは半年前に駅の階段から転落し大怪我を負っていた。
この椿あさみへの早坂の聞き込み捜査が捜査の決め手になったものと推測する。
<第五話 指輪のレクイエム>
1.新米刑事 県の南端にあるF署の刑事・大里翔子
2.事件 「自宅でのフッ化水素ガス吸引による主婦・仁谷清香の中毒死事件」
仁谷継秀は50歳。小さなデザイン会社に勤めて居たときに20歳年上の清香と結婚。
今は会社を辞め、在宅で印刷物のデザイン仕事を請け負っている。妻の清香は70
歳で半年前から「まだら認知症」の症状を見せ始めていた。仁谷は妻の介護に疲
れで限界を感じ始める。一方で「赤芝印刷」に在籍する田瀬葵と恋人関係にあっ
た。仁谷は己のアリバイを作りつつ清香の殺害を図る。
帰宅した仁谷は妻清香の死を確認し、窓を開け十分な換気後に警察に通報した。
風間と早坂が現場に入った時には、清香は電話機の前で穏やかな死に顔で倒れて
いた。窓の全開から風間はガス中毒死と判断。大里は仁谷にまず事情聴取した。
3.風間の教え:供述を引き出すコツ。一拍置くことと相手の動きをトレースすること。
4.読後印象 :さりげなく記述されている死に顔のおだやかさと、清香の指先について
いた塩がキーワードになるとは・・・・気づかなかった!
<第六話 毒のある骸>
1.新米刑事 D署の刑事・平優羽子
2.事件 「T大学・法医学教室助教・宇部祥宏 青酸塩服毒死事件」
法医学教室の教授椎垣久仁臣は、予定より遅れて自分のデスクに戻った。
デスクには、宇部による[先にテンゴクへ行ってます]のメモが置いてあった。
「青酸塩による服毒自殺」の65歳男性遺体を司法解剖する予定があったのだ。
椎垣はこの解剖で、切開を宇部に任す。だが、大きな失敗をした。胃袋を切開す
る時に青酸ガス噴出の可能性を考え防毒マスクを着用することを指示していなか
たことだ。宇部はガスを吸い倒れる。椎垣は己の落ち度をその場で隠蔽する。
1週間後、椎垣は休養中の宇部の自宅を訪れ、宇部を毒殺した。宇部は、家を出て
坂道を登る側に進み、途中で息絶えた。
発見者の通報で、風間と平は現場に向かう。[先にテンゴクへ行ってます」という
メモ用紙と坂道を登る道の途中での遺体に彼らは違和感を抱く。
3.風間の教え:不自然な点を徹底的に考えよ。
4.読後印象 :椎垣のちょっとした浮かれ心が、ミスを誘発し、欲望からの隠蔽意識
が殺人へと負のサイクルを拡大する。ありそうな話。宇部が死の間際にとった行
動が示すダイイング・メッセージを平が読み解いた。う~ん、私は解読できずに
読了しなるほどと気づく。無念。
さて、この事件が解決し、平優羽子が風間を居酒屋に誘う。居酒屋を出て来た時に、風間の人生を変える事態が発生した。本書でその顛末をお読みいただきたい。それが、『教場』に繋がる遠因となる。だから『教場0』である。
まさに、刑事事件をそのまま on the job training の場にしたストーリーである。
犯罪者側の手口をまず明らかにした上で、捜査側の立場に切り替えたアプローチをするという展開がおもしろい。
ご一読ありがとうございます。
補遺
Locard's exchange principle From Wikipedia, the free encyclopedia
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ロカールの交換原理とは【用語集詳細】:「SOMPO CYBER SECURITY
好かれる人は無意識にやっている「ミラーリング効果」:「W.マイナビウーマン」
コミュニケーション力を上げる「ミラーリング」とは?|ビジネスに使える心理学①
:「オンスク.JP」
遺族を悩ませる「待機遺体」問題と遺体安置サービス「遺体ホテル」とは?:「SOBANI」
「死者のホテル」が繁盛する時代 :「日経ビジネス」
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
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その点、ご寛恕ください。)
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『教場 2』 長岡弘樹 小学館
『教場』 長岡弘樹 小学館