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現代の「稲作御法度令」廃止の波紋

2013年12月15日 | 農業
昭和45年から始まった減反政策を今度は廃止する案が出ている。平成13年に私はハガキの「河鹿沢通信」59号を発行した。
河鹿沢通信59号の「稲作御法度令」は藩政時代のオフレ(御触れ)をまねて作ったものだ。当時町から各農家に配布された通知書の内容を皮肉ったのが初めのオフレで、町を「稲川米取締方」としてこの通知を解釈した。一度は割りあてた減反33.16%を作況指数調査時点で100を超えた場合にはさらに、各農家は稲の青刈り等で対処せよとのことだった。豊作になれば33.16%以上の減反を申し渡すとのバカげた通知書で、当然集落で混乱がおきた。町は通知を出すだけで子細は集落で対処せよというのだから傲慢な通達だった。そのことをハガキ通信で藩政時代の「御法度令」並みとして発信した。結果的にはこの年の作況は100に至らなかったので、収穫前の稲の青刈りはせずに終わった。しかし、この通達は多くの農家の尊厳を傷つけたことを行政関係者は理解していない。


ハガキ「河鹿沢通信」59号2001.4.20 コピー

このたび発表された5年後に「減反廃止」の報道に展望が見いだせない。13年前の前記の「河鹿沢通信」59号の内容とほとんど情勢が変わってきたとも思えない。今回の政策転換に各新聞は以下のように報道した。

コメ政策転換/5年後の農の姿が見えない
政策転換というからには、現状否定にとどまらず、新たな政策で目指す目標を明示し、それに至る手だてを体系立てて整えてしかるべきだ。それでこそ、国民の理解と納得が得られるというものだろう。政府が決めた新しいコメ政策はどうか。40年にも及ぶ生産調整(減反)を、5年後をメドに廃止することを掲げた。現行の補助金を大きく見直すという。
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減反廃止までの新政策の目標は、大規模化の推進と主食用米偏重からの脱却にあるらしい。
減反参加を条件に水田10アール当たり1万5千円を支給する定額補助金を来年度から半分にする。メリットを半減させ高齢・兼業農家らの離農を促し、担い手に農地集積を図る狙いだ。
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政府は6月決定の成長戦略で10年後に主に大規模経営体が全農地の8割を担うとの目標を掲げたが、5年後の目標はないからだ。
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稲作は他の農業と違い、大規模農家独りでは立ち行かない。水田農業を維持するのに不可欠な水路やあぜの管理は兼業・零細農家らの協力が要る。
(河北新報 2013年11月28日)

「減反と高い関税で米価を下支えしてきたことが、消費者のコメ離れに拍車をかけた。じり貧に歯止めをかけるには、減反廃止、関税引き下げへとかじを切り、中核的な農家に絞って所得補償をする仕組みに改めていくしかない。(社説)減反「廃止」 これで改革が進むのか (朝日新聞 13.11.29)

「日本農業の基本政策として40年以上も続いてきた減反だが、兼業・小規模農家の保護が、結果的に農村の疲弊を早め、耕作放棄地を増やしてきたのも事実だ。廃止は時代の要請でもあり、実施に移す中で再び農家の横並び保護策になるようでは本末転倒だ」(減反廃止と補助金新たなバラマキとするな MSN産経ニュース 13.12.1)

「農地の大きさがコストを左右するコメ」だ。「競争を避けて、小規模の兼業農家まで守る・・・護送船団方式を見直せば、競争で行き詰まるコメ生産者が出てくるはずだ」。「農地の規模拡大や集約を後押しするために、農地法は、企業による農地所有の解禁を含めて抜本的に見直す必要がある」という。(日本経済新聞) 13年3月4日

地方紙の河北新報がより農業、農村を分析しているように見える。それにしても中央紙大手紙報道は相変わらずだ。農村、地方の衰退はこれらの報道姿勢が作り出した側面が大きい。不遜な姿勢はむしろ激しく大げさになってきた。「減反廃止」によって自由競走が促され、小規模農家が駆逐されて農地が「やる気」のある農家(企業)に集積され、稲作の競争力強化が進むというのだ。面積の小さな農家を「やる気のない農家」と言い、農地を手ばさないから規模拡大ができない。小規模農家の存在が日本農業の展望をなくしているというのだ。中央大手紙の「バラマキ農政」批判はいつもと変わらない。

この指摘は50数年前制定された「農業基本法」以降ほとんど同じ路線だ。
2010年農業センサスによれば、日本の総農家戸数は252万8000戸、89万6700戸が耕地面積30アール以下。農業所得より農外所得が多い農家は95万5000戸と云われている。計1,852,000戸総農家数の73%にあたる。地方の社会、経済はこれらの農家なしに成立しない。大店法以来、郊外型のショッピングセンターで今まであった市街地中心はさびれ、どこもかしこもシャッター通りに変わってしまった。活力の低下した各地での雇用先は、最低賃金以下の勤め先もなかなか見つからない。

索漠とした社会環境の中で多くの兼業農家は作物を作ることが一つのいきがいにもなっている。ここからの生産物は販売目的ではなく、ほとんど自家用で一部親戚縁者への縁故米となる。かつてからあった「八百屋」さんには打撃だったが、「農産物の直売所」が各地に生まれ活性化している。直売所に出す人も出てきた。地産地消で新たな交流も生まれてきている。だから日本の総農家の73%の多くは、極端な米価格にならない限り米つくりからは離れない。現実を直視しない中央のマスコミの報道はまさに「マスゴミ」に値する。

規模拡大を阻んでいるのは「やる気」のない零細農家のせいではない。諸外国と比べて高いという米の値段は規模が小さいからではなくて、生産資材、燃料、農機がそれらの国と比べて倍から3倍もする価格だ。現在の「米の価格」は今から39年前(オイルショック前)と同価格だ。そのことを多くの人は考えたことがあるでしょうか。今日の資材等の価格で39年前の価格(農家手取り価格)で販売しているのだ。当時の大卒初任給が70,000円だったことは以前のブログでも指摘している。この米の値段が、国際価格より高すぎるから規模拡大してもっと安くせよ等と言われても、挑戦する新規就農が増えないのはむしろ健全なことだかもしれない。

平成25年12月12日公表の農水省の平成24年度米生産費を見ると米60キロ当たり物財費9672円、労働費4108円で計13,780円。その他資本利子、地代等参入で合計15,957円と公表している。多くの農家は農水省公表の生産費調査よりはるか安い価格で販売していることになる。(平成25年産あきたこまちは11,737円)現在の価格では正当な労働費は得られていない。農家は労賃を犠牲にして成り立っているともいえる。

私の手元にある資料でもう少し詳しく検証して見ると次のようになっている。平成25年産の米値段は秋田県では昨年産より玄米60キロ当たり2000円安11,500円(私の場合JAカントリ搬入なので11,737円、一キロ当たり195.63円が仮価格として支払われた、以下はこの価格での試算)。この価格の後、平成26年産が出回る来年の秋までに市場価格の動向によって最終価格が決まる。ちなみに平成23年の仮渡価格は一キロ195.63円で最終価格は217.30円だった。60キロ13,038円。

現在米の小売価格は店頭で10㌔4000円前後が主流だ。仮に4000円で試算にみると次のようになる。白米10キロは約11キロの玄米(精米歩合90%)平成25年産の玄米価格キロ195.63円だから
白米10㌔は玄米で11キロの価格は約2152円となる。この価格にJA、全農の手数料、運送料、卸業者手数料、精米代、包装等小売店の諸経費に手数料などが加わって小売価格10㌔4000円となって一般の店頭にでる。消費者の皆さんが店頭で払う4,000円の中から農家にわたるのは約2,152円。小売価格の50.4%が生産者へ残りの49.6が業者等へ渡る仕組みになっている。10キロの白米換算で農家はこの価格の中から肥料、農薬等購入費用1,454円、農機等償却909円等となっている。農水省の生産費調査と比較しても赤字。1~2haの経営でも物財費はほとんど変わらない。10haの規模の経営になれば、生産費がいくらか安くなるのは労働費や償却費等で、この経営も60キロ当たり10,000円の値段に耐えられる経営はほとんどいないだろう。

10㌔4,000円の白米の農家に入る米代金は平成25年秋で2,152円。毎日食べるごはん一杯は約70グラムと云われているから、米の値段は28円、生産者にわたる価格は15円にしかならない。「鮨」のシャリ一個平均22グラムと言われてる。「米が高いので」いずれ18グラムまで落とさなければ等と業界関係者がささやかれ、農家は規模拡大してもっと米の値段を下げてほしいとの要望が強い。と先日の講習会で話す講師がいた。先ほどのごはん一杯の計算をそのままあてははめれば「鮨」のシャリ平均20グラムとして8.5円。農家の手取りはは4.6円、仮に「鮨」の米が一般米より高級で倍したとても農家に入る価格は、「鮨」一握りあたり米代9.2円。この価格が国際価格よりベラボウに高いから規模拡大して価格を下げよ、などといわれて米を作る人は極限られた人しかいないだろう。一人前の「鮨」の価格は地域のよってまちまちだとしても、現在「鮨」一握の米代が10円にも満たない価格だ。一人前分(10握り)でも100円以下だ。「丼」の米代は茶碗2杯としてもせいぜい56円生産者手取りが約30円、仮に高級品質の米だとしても1.5倍としても85円で、農家手取り価格が50円にもいかないことを意識して「寿司屋」、「レストラン」等で食事はしないだろう。

自動販売機の缶コーヒーが120円もしている時に一握りの鮨の米代8.5円、生産者手取り分米代金が4.6円という現実の中で、まだ国際価格と比較して高すぎる米の値段だから、規模拡大して米価を下げろ等と言うのは生産者に対しては暴論でしかない。新規就農に青年がいないのはある意味では当然な感覚だ。「うまくて、安全で、さらに安い」食べ物の神話はなかなか誰でも手の届くところにはないはずだ。少なくても生産者の地位が現状よりも評価されない限り、神話に近い農産物は生まれない。そのうちに多くの食卓は安全で(?)安い遠い国からの食糧で溢れることかもしれない。もし仮にそうなったとしてもほとんどの農家は困らない。なぜなら自分と親族と、もし余裕があれば欲しい人のための食べ物は最低確保できる。

肥料、農薬、農機具等の価格は国際価格の数倍。官僚を始め公務員の給料は国際標準の何倍だろう。都市と地方の労賃単価もへたすれば半分の地方から見ればあきれてしまう。別の言い方をすれば世界一の給料のこの国で国際価格並みの「米」を平気でいう輩に国産の米は遠慮してもらいたい気分さえある。1%の幸福のために99%が犠牲、奉仕される市場原理とやらはいつまで続くことか。99%中でも序列争いと優越感の地位確保に躍起となってしまった社会はいびつだ。2001年4月20日発行の「稲作御法度令」ではないがこんなバカげた政策の中で家族と親族と、そして欲しい人のためしか作らない米つくりはこれからも続く。

不遜な政権は先の選挙でも一言もなかった原発推進、TPP加盟も大手を振って叫んでいる。
今の減反廃止は、TPP加盟による関税廃止を農業関係者に飲んでもらうための交換条件作りがネライが明白。減反廃止をエサに新たな補助金制度を作ると言って、農家を分断する。5年後の減反廃止は、関税廃止に10年までの時間を条件整備の期間となる。農業従事者の高齢化が叫ばれ新規参入のアドバルーンのどれほど効果があったのだろう。これからも農業従事者の高齢化は変わらない。毎年退職者が新規就労をされているからだ。学卒の新規就農でも奇跡に近い条件でしか展望など見つけることは不可能に近い。6次化等と叫ぶが実態は自立にはほど遠い。まさに市場原理に基づけば倒産の危機は常態化する。農業基本法農政以来50数年、規模拡大農家の犠牲者は数限りない。各地を回ってみるとアカサビの牛舎に豚舎、倒れかかった農舎、不釣合いなサイロ、雑草に覆われた農機具、廃園の果樹畑には思わず目を背けたくなる位の無残な姿が、各地に広がっている。近代化の甘い政策誘導で自立を追い続け、その先に破産、倒産のはてにこの世からリターンした挑戦者は各地に数えられる。廃墟となった施設は振り返ればひとつ、一つに朝な夕なにそれぞれの営みがあったのだ。

国際価格より高いといわれる中で、先の事例の農水省の生産費調査価格以下で挑戦するものが多くなることは考えられない。海外との競争に耐えられるような強い農業にするなら肥料、農薬、ガソリン等物財費も海外並みならもっと別な方向が探れるかもしれない。現在の状況の中で米価が下がり続け、今のわずかな補助金が減れば、競争力強化どころか規模拡大の農家がいち早くリタイヤする。稲作農村の疲弊と耕作放棄地の増加に拍車がかかるだけである。中山間地の多い土地条件の中で、現在よりも生産費を大きく引き下げられるような規模拡大はかつての地主、小作の関係が生まれれば例外的に可能かもしれないが、現実的とは思えない。

朝令暮改の政策は耕作放棄地を山間部から平坦部へと拡大し、加速させようとしている。

農業補助金は日本に限ったことでもない。EUは主要作物の関税や価格支持政策を維持した上に、時に農家所得の100%にも達すると直接支払補助も続けている。アメリカも穀物農家を主な対象に、毎年100億ドル(1兆円)を超える連邦直接支払を行っている。EUでも、アメリカでも、いまどき「補助金に頼らず、自立できる」農家などほとんどない。このような意味でも、我が国の中央各紙の主張は、実態を歪曲した報道になっている。(一部引用)

フランスでは規模拡大路線を見直し別の道を歩みだしたことは先のブログで紹介した。フランス「農業未来法」(2013.5.23)フランスのフォール農相が11月13日、かねて予告していた「農業・食料・森林未来法案」を閣議に提出した。この法案は2014年1月に国民議会(下院)に上程されるという。







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