http://www.youtube.com/watch?v=PHcO6GPZhmI&feature=player_embedded
美智子皇后はそういって彼の首に銅メダルを下げた。彼は朝鮮人だ。僕は、日本にいては語学の勉強の機会がないので「つて」を頼って彼と友人になった。
彼は努力して国体の水泳の選手になる。代々木の水は冷たい。試合の後も彼は震えていた。表彰式のとき彼は興奮したのだろうか。体がほてるのを感じた。皇后の言葉に「ハイ」という返事が精いっぱいだ。
数十年の間に、日清製粉の粉ひき屋の娘は十分にカリスマ性を植え付けていた。彼の感想は、美智子さんの手は冷たい、そして心はやさしい、だった。
北風がどんなに強く吹こうと旅人の外套を脱がすことはできない。だが、本当に自分のことを心配してくれる人がいるなら、人はその人のため何でもするのではないか。
彼は狂ったように泳ぎつづけた。だが残念なことに年齢の悪魔は彼の手を止めた。彼の障害も悪化した。銅メダルは障害者部門の銅メダルだったのだ。
しかし、今度は彼は仕事にまい進した。日本人に負けるもんか。ケンカもした。彼はユンボのオペレーターだ。これがいかに頭を使うか。いかに繊細な神経が必要か。
彼には今その大型ユンボのバケットで地面を3センチづつこさぐ技術がある。アームを伸ばすと地面へのアームの圧力は下がり地面からはね上げられる。ところがそのままアームで無理にこさぐとアームは地面の上をから滑りする。アームを縮めすぎると深く掘り過ぎてしまう。
人間の手で実験すべきだ。砂場で、移植ゴテで手を伸ばした状態から手元まで同じ3ミリの深さでこさぐことがいかに難しいか。ユンボのアームは10メートルある。ユンボの3センチは人の腕の3ミリだ。
他にも多くの技術を持っている。僕はびっくりして一週間ぐらい感動しっぱなしだった。
ここが一番重要なところだ。彼は子供のころ小児麻痺にかかった。ユンボは両手両足を使う機械が多い(最近のオートマチックは除く)。彼は手足のうち一本が動かない。そこも彼は工夫した。レバーを少し曲げひじを引っ掛け手のひらとひじで2本のアームを動かした。無理解な会社は苦情をいい彼は職を代わった。
ところが彼の仕事ぶりが彼を救った。ケンカもしなくなった。外見を気にする会社以外、みんな認めている。お前はユンボの神様だ。
ここまできても何国人かたださなければならないか。間抜けづら下げた会社の邪魔が日本人のとき、完璧な仕事をこなす朝鮮人はスパイだから日本にいたらいけないか。
口数も少なくなった。頭には白髪が増えた。美智子さんと握手をした時に聞いた言葉は、いまだに彼の中を舞っている。
「からだを壊してはいけませんよ。」
人にはときどき思いだしてよりどころにしている言葉がある。