086:片（梅田啓子）

片かげに身を寄せあるく夏の午後　男が握る反転ボタン

片陰に身を寄せあるく夏の午後　男が握る反転ボタン　（推敲）　　　　　　　　　　　

　　　　

085:甲（梅田啓子）

ふるさとの〈 甲子正宗 〉そなえたり禁酒を解かれし父の墓前に

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＊解＝と、甲子＝きのえね

084:西洋（梅田啓子）

天上の青と呼びたし西洋の朝顔ヘブンリーブルーの花は

天上の青と呼びたし西洋の朝顔ヘブンリーブルーの青は　（推敲）

083:邪（梅田啓子）

風邪という病気は無いという医者の待合室に 【東大】 の文字

082:苔（梅田啓子）

憎しみは舌苔のごとくはびこれり　きれいなうたはもう歌えない

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＊舌苔＝ぜったい

081:秋（梅田啓子）

蚊を殺し蚊をころしゆく秋の夜は死海の塩を湯船に入れる

080:たわむれ（梅田啓子）

たわむれに鼻に触れたき真昼かな寝てばかりいるウォンバットの鼻

079:帯（梅田啓子）

性感帯・せいかんたいと流れゆく夏の眠りのひとすじの汗

078:査（梅田啓子）

査定する鋭きまなこ持たぬゆえ流れながれてわたしは魚座

077:転（梅田啓子）

団塊の世代のしっぽに連なりて転校生のままに年経る

　　　　　　　　　　　　　　　　　＊年経＝としふ

　　　＊広辞苑によると、「団塊の世代は１９４７～１９４９年に生まれた世代」とある。
　　　　１９５０年３月までとする説や、１９５１年までとする説があるにはあるが、
　　　　自分を団塊の世代と呼ぶことに、かすかな違和感がある。

076:桃（梅田啓子）

熟れ桃の食みだしそうな胸をもつソフィー・マルソー「女優マルキーズ」

075:溶（梅田啓子）

確執を詠みたる歌は全てボツ。どうでもいい歌ばかり　脳が溶けるよ

074:無精（梅田啓子）

経験の有無精確に調べゆくオペを託する外科医を得むと

073:庫（梅田啓子）

冷蔵庫のモーター音が子守唄　『キッチン』の中に今日はねむろう

　　　　※『キッチン』は、吉本ばなな（現在、よしもとばなな）の小説です。

072:狭（梅田啓子）

狭庭とか愚妻、浅学、なんとまあ　使えることを見せびらかすよう

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＊狭庭＝さにわ

狭庭とか愚妻、浅学、なんとまあ　博学なるを見せびらかしおるよ（推敲）