山田風太郎著『あと千回の晩飯』を図書館で借りる。
1997年出版ということでかなり読まれたのか、
染みや傷みが目立つ。
著書に「忍法帖」シリーズなどがあるが、どれも読んだことはなかった。
作者はパーキンソン病や糖尿病、それに伴う眼の病などがおありだ。
それとこれは作者の造語だが、「アル中ハイマー」だそうだ。
病気を達観し、日々の生活を楽しんでいる。
好きなお酒を飲み、煙草を嗜み、奥様の美味しいお料理を味わう。
また好奇心が旺盛で、奇想天外なふるまいに何度も笑ってしまった。
夢に出てくるという空中歩行も、作者だったら信じられる。
こんな素直で正直な作者は、どんな小説を書いたのだろう。
大切な言葉を引用させて頂き、生きていく上の指針にします。
①実は私も、意識の底にいつも死が沈澱しているのを感じている
人間である。
②それはそれとして、七十を超えて意外だったのは、寂寥とか
憂鬱とかを感ぜず、むしろ心身ともに軽やかな風に吹かれて
いるような感じになったことだ。
③七十歳を超えれば責任ある言動をすることはかえって有害無益だ。
かくて身辺、軽い風が吹く。
④私は座右の銘など持たないのだが、強いていえば、
「したくないことはしない」
という心構えだ。
⑤会葬者なども家族をふくめて十人内外がよろしいと思う。
その人数のお葬式が野辺送りという名にふさわしく、
詩情にみちているからだ。
⑥私には風のなかに尾形乾山の唄声がきこえる。
「うきこともうれしき折も過ぎぬれば
ただあけくれの夢ばかりなる」
しかし、そんな唄声をききながらあと千回の晩飯を食って
終わるのは、あまりに寂しい気がする。
⑦私は、日本は昭和四十年代のころが一番「良き時代」では
なかったかと考えている。・・・
ものの本によると、一国の異常な繁栄期は意外に短いそうだ。
人間の肉体も国家と同じく、外見異常はなくても内部で黙々と
毒素をふやし、あるときから牙をむいて主人に襲いかかる。
⑧また大臣が議会で、何とも答えづらいことを聞かれて、
言語明瞭意味不明の答弁でとぼけ通す技術にも感心する。
⑨若いころは、六十代だろうが七十代だろうが、身体に病気の
ないかぎり同じようなものだろうと考えていたが、これが
大ちがいなんですな。六十代はゆるやかなカーブで下ってゆく
感じだが、七十代にはいると階段状になる、それも一年ごとに
ではなく、一ト月ごと、いや一日ごとに老化してゆく感じである。
⑩陰蔽ないし空とぼけの言動は、日本人の間では特に多いような
気がしてならない。日本人はこの種の「習性」に外国人より
鈍感なように思う。
戦後だけではない。戦争中もやっている。なかには、戦争を
するのに、逆にこちらに致命的な罰をもたらした
嘘(うそ)もあった。
戦争の場合と平時の場合はちがうというかも知れないが、
戦争の場合は陰蔽と空とぼけがいっそう大規模なものになる
おそれのあることは右の例から見ても明らかだ。
⑪いったい日本人の独創性のなさは、先天的なものか、
後天的なものか。
それは先天的なものじゃないか知らんと私は思うことがあるが、
それなら将来二流国の烙印からのがれる見込みはない。
⑫異思想、異趣味、異性格の人間が混じると、上からは排除、
仲間からはハチブにされる危険が古来十分にあった。
大航海時代以来、欧米諸国は争ってアジアを植民地化し、
その末期に日本もその物真似をしたが、その評判が最も
悪いのは、その重大な理由として、日本人が占領地を強引に
日本化しようとしたことがあげられる。
そしてそれは傲慢のせいではなく、日本人化しなければ、
日本人は不安でたまらないという一種の弱気が裏目に出たのだ。
⑬それまでの軍国日本の洗脳ぶりを思い出すと、それも無理はない。
特に満州事変以後の日本人を思うと、いまの北朝鮮が笑えない。
(引用ここまで)
一番印象に残るエピソードは、夜中に作者が夢の中で
大笑いするくだりだ。
突然起こされた奥様は、当然怒る。
このエピソードから、高校時代に母に言われた言葉を思い出した。
「おまえは普段あまり笑わないのに、
夢の中だと大声を出して笑っている」
暗くて覇気のない高校生だった私は、どんな夢を見ていたのだろう。
追記
以前に観た映画『魔界転生(沢田研二主演)』の原作は、
山田風太郎の小説でした。なかなか面白い映画でした。
1997年出版ということでかなり読まれたのか、
染みや傷みが目立つ。
著書に「忍法帖」シリーズなどがあるが、どれも読んだことはなかった。
作者はパーキンソン病や糖尿病、それに伴う眼の病などがおありだ。
それとこれは作者の造語だが、「アル中ハイマー」だそうだ。
病気を達観し、日々の生活を楽しんでいる。
好きなお酒を飲み、煙草を嗜み、奥様の美味しいお料理を味わう。
また好奇心が旺盛で、奇想天外なふるまいに何度も笑ってしまった。
夢に出てくるという空中歩行も、作者だったら信じられる。
こんな素直で正直な作者は、どんな小説を書いたのだろう。
大切な言葉を引用させて頂き、生きていく上の指針にします。
①実は私も、意識の底にいつも死が沈澱しているのを感じている
人間である。
②それはそれとして、七十を超えて意外だったのは、寂寥とか
憂鬱とかを感ぜず、むしろ心身ともに軽やかな風に吹かれて
いるような感じになったことだ。
③七十歳を超えれば責任ある言動をすることはかえって有害無益だ。
かくて身辺、軽い風が吹く。
④私は座右の銘など持たないのだが、強いていえば、
「したくないことはしない」
という心構えだ。
⑤会葬者なども家族をふくめて十人内外がよろしいと思う。
その人数のお葬式が野辺送りという名にふさわしく、
詩情にみちているからだ。
⑥私には風のなかに尾形乾山の唄声がきこえる。
「うきこともうれしき折も過ぎぬれば
ただあけくれの夢ばかりなる」
しかし、そんな唄声をききながらあと千回の晩飯を食って
終わるのは、あまりに寂しい気がする。
⑦私は、日本は昭和四十年代のころが一番「良き時代」では
なかったかと考えている。・・・
ものの本によると、一国の異常な繁栄期は意外に短いそうだ。
人間の肉体も国家と同じく、外見異常はなくても内部で黙々と
毒素をふやし、あるときから牙をむいて主人に襲いかかる。
⑧また大臣が議会で、何とも答えづらいことを聞かれて、
言語明瞭意味不明の答弁でとぼけ通す技術にも感心する。
⑨若いころは、六十代だろうが七十代だろうが、身体に病気の
ないかぎり同じようなものだろうと考えていたが、これが
大ちがいなんですな。六十代はゆるやかなカーブで下ってゆく
感じだが、七十代にはいると階段状になる、それも一年ごとに
ではなく、一ト月ごと、いや一日ごとに老化してゆく感じである。
⑩陰蔽ないし空とぼけの言動は、日本人の間では特に多いような
気がしてならない。日本人はこの種の「習性」に外国人より
鈍感なように思う。
戦後だけではない。戦争中もやっている。なかには、戦争を
するのに、逆にこちらに致命的な罰をもたらした
嘘(うそ)もあった。
戦争の場合と平時の場合はちがうというかも知れないが、
戦争の場合は陰蔽と空とぼけがいっそう大規模なものになる
おそれのあることは右の例から見ても明らかだ。
⑪いったい日本人の独創性のなさは、先天的なものか、
後天的なものか。
それは先天的なものじゃないか知らんと私は思うことがあるが、
それなら将来二流国の烙印からのがれる見込みはない。
⑫異思想、異趣味、異性格の人間が混じると、上からは排除、
仲間からはハチブにされる危険が古来十分にあった。
大航海時代以来、欧米諸国は争ってアジアを植民地化し、
その末期に日本もその物真似をしたが、その評判が最も
悪いのは、その重大な理由として、日本人が占領地を強引に
日本化しようとしたことがあげられる。
そしてそれは傲慢のせいではなく、日本人化しなければ、
日本人は不安でたまらないという一種の弱気が裏目に出たのだ。
⑬それまでの軍国日本の洗脳ぶりを思い出すと、それも無理はない。
特に満州事変以後の日本人を思うと、いまの北朝鮮が笑えない。
(引用ここまで)
一番印象に残るエピソードは、夜中に作者が夢の中で
大笑いするくだりだ。
突然起こされた奥様は、当然怒る。
このエピソードから、高校時代に母に言われた言葉を思い出した。
「おまえは普段あまり笑わないのに、
夢の中だと大声を出して笑っている」
暗くて覇気のない高校生だった私は、どんな夢を見ていたのだろう。
追記
以前に観た映画『魔界転生(沢田研二主演)』の原作は、
山田風太郎の小説でした。なかなか面白い映画でした。