図書館で『朗読の時間 中原中也』を借りる。
篠田三郎の清潔感のある声で聴いていると、心が静まりゆくようだ。
好きな詩を引用させていただきます。
(1)生ひ立ちの歌
I
幼年時
私の上に降る雪は
真綿のやうでありました
少年時
私の上に降る雪は
霙(みぞれ)のやうでありました
十七ー十九
私の上に降る雪は
霰(あられ)のやうに散りました
二十ー二十二
私の上に降る雪は
雹(ひょう)であるかと思はれた
二十三
私の上に降る雪は
ひどい吹雪(ふぶき)とみえました
二十四
私の上に降る雪は
いとしめやかになりました……
Ⅱ
私の上に降る雪は
花びらのやうに降つてきます
薪(まき)の燃える音もして
凍るみ空の黝(くろず)む頃
私の上に降る雪は
いとなよびかになつかしく
手を差伸べて降りました
私の上に降る雪は
熱い額(ひたひ)に落ちもくる
涙のやうでありました
私の上に降る雪に
いとねんごろに感謝して、神様に
長生したいと祈りました
私の上に降る雪は
いと貞潔でありました
(2)盲目の秋
Ⅳ
せめて死の時には、
あの女が私の上に胸を披(ひら)いてくれるでせうか。
その時は白粧(おしろい)をつけてゐてはいや、
その時は白粧(おしろい)をつけてゐてはいや。
ただ静かにその胸を披いて、
私の眼に輻射(ふくしゃ)してゐて下さい。
何にも考へてくれてはいや、
たとへ私のために考へてくれるのでもいや。
ただはららかにはららかに涙を含み、
あたたかく息づいてゐて下さい。
ーーーもしも涙がながれてきたら、
いきなり私の上にうつ俯(ぶ)して、
それで私を殺してしまってもいい。
すれば私は心地よく、うねうねの暝土(よみぢ)の径(みち)を昇りゆく、
(3)骨
ホラホラ、これが僕の骨だ、
生きてゐた時の苦労にみちた
あのけがらはしい肉を破って、
しらじらと雨に洗はれ、
ヌックと出た、骨の尖(さき)。
それは光沢(つや)もない、
ただいたづらにしらじらと、
雨を吸収する、
風に吹かれる、
幾分空を反映する。
生きてゐた時に、
これが食堂の雑踏の中に、
坐ってゐたこともある、
みつばのおしたしを食ったこともある、
と思へばなんとも可笑(をか)しい。
ホラホラ、これが僕の骨ーーー
見てゐるのは僕? 可笑(をか)しなことだ。
霊魂はあとに残つて、
また骨の処にやつて来て、
見てゐるのかしら?
故郷(ふるさと)の小川のへりに、
半ばは枯れた草に立つて、
見てゐるのは、---僕?
恰度(ちゃうど)立札ほどの高さに、
骨はしらじらととんがつてゐる。
篠田三郎の清潔感のある声で聴いていると、心が静まりゆくようだ。
好きな詩を引用させていただきます。
(1)生ひ立ちの歌
I
幼年時
私の上に降る雪は
真綿のやうでありました
少年時
私の上に降る雪は
霙(みぞれ)のやうでありました
十七ー十九
私の上に降る雪は
霰(あられ)のやうに散りました
二十ー二十二
私の上に降る雪は
雹(ひょう)であるかと思はれた
二十三
私の上に降る雪は
ひどい吹雪(ふぶき)とみえました
二十四
私の上に降る雪は
いとしめやかになりました……
Ⅱ
私の上に降る雪は
花びらのやうに降つてきます
薪(まき)の燃える音もして
凍るみ空の黝(くろず)む頃
私の上に降る雪は
いとなよびかになつかしく
手を差伸べて降りました
私の上に降る雪は
熱い額(ひたひ)に落ちもくる
涙のやうでありました
私の上に降る雪に
いとねんごろに感謝して、神様に
長生したいと祈りました
私の上に降る雪は
いと貞潔でありました
(2)盲目の秋
Ⅳ
せめて死の時には、
あの女が私の上に胸を披(ひら)いてくれるでせうか。
その時は白粧(おしろい)をつけてゐてはいや、
その時は白粧(おしろい)をつけてゐてはいや。
ただ静かにその胸を披いて、
私の眼に輻射(ふくしゃ)してゐて下さい。
何にも考へてくれてはいや、
たとへ私のために考へてくれるのでもいや。
ただはららかにはららかに涙を含み、
あたたかく息づいてゐて下さい。
ーーーもしも涙がながれてきたら、
いきなり私の上にうつ俯(ぶ)して、
それで私を殺してしまってもいい。
すれば私は心地よく、うねうねの暝土(よみぢ)の径(みち)を昇りゆく、
(3)骨
ホラホラ、これが僕の骨だ、
生きてゐた時の苦労にみちた
あのけがらはしい肉を破って、
しらじらと雨に洗はれ、
ヌックと出た、骨の尖(さき)。
それは光沢(つや)もない、
ただいたづらにしらじらと、
雨を吸収する、
風に吹かれる、
幾分空を反映する。
生きてゐた時に、
これが食堂の雑踏の中に、
坐ってゐたこともある、
みつばのおしたしを食ったこともある、
と思へばなんとも可笑(をか)しい。
ホラホラ、これが僕の骨ーーー
見てゐるのは僕? 可笑(をか)しなことだ。
霊魂はあとに残つて、
また骨の処にやつて来て、
見てゐるのかしら?
故郷(ふるさと)の小川のへりに、
半ばは枯れた草に立つて、
見てゐるのは、---僕?
恰度(ちゃうど)立札ほどの高さに、
骨はしらじらととんがつてゐる。