ふと書店で手に取って何も考えずに購入したのが、松本清張の日本の黒い霧とこの本の2冊。前者のほうは、50年以上も前に上梓された未解決事件の足跡を追う話なので、時代小説として読めば気も休まるというか、今のような情報化社会になってよかったのかなどうなのかをふと考えてしまいましたぞ想像力という面で。いや、イマジネイションが増幅されると変な電車が走り出す現代がいいのかは置いといて(注.トッキュージャーの事を指しており決して都内随所に出没するセルフ車掌を揶揄しているものではありませんねんのため)。
なので、書評なり身の回りに生かすとかいうのはあまりないのが感想。読み物として転がって読むのには非常にいいんですが、ある意味それだとDSでテトリスやるのとたいして変わらんのですよ。脳内のリフレッシュにはなるけどさ。
というわけで、表題の本。ムネオ疑獄に連座して逮捕、外務省を去ることになった氏の著書。巻末の文庫紹介には、外交官にて身につけた交渉術!スパイの話やカネとオンナもあるよ!などと威勢良くありますが、この類の派手な話はデューク東郷さんとその周りの方々に任せておけばいいんですそんなの。官僚仕事なんて本質的には地味で地道なもんなんで、下手に派手にしてしまうとプサンからゴムボートで日本にきてまうでほんままじでって、またいらんこというてもうた。
今回の作品は、主に佐藤氏がロシアより帰朝して以降の外務省・官邸・外国(主にロシア)との、「交渉」をキーワードとしたメモワールというもの。メモワールといっても、人さまの交渉ごとなので時代背景や人物描写を行なってから筆者が携わった交渉ごとからが記述されており、その折々から日常生活に地味に役立つ記載がほんとうに多い。
・交渉ごとでは真実を全て言わなくてもいいが、積極的な嘘はついてはいけない
・ロシア人に言わせると、騙すほうが悪いのではなく、騙されるものが愚かなだけ
・重要な約束やカネ絡みのときは、「立会い」をつけろ
・上司がキ○○イでも、その対処法の2割くらいは外交で困ったときのヒントになる
いくつか心に刻めそうなことをこう箇条書きにされても、ああそうだよねで終わる話なんでしょうけど、そこに至るプロセスが脳内で追体験できそうなくらいこと細やかに記載があるのが効果大。その辺の描写感は、デビュー作「国家の罠」を読むとなるほど感が増してきます。官僚とか外交官とかは極端にしても、もう少し広げて勤め人というフィルターで見ることができれば、そのへんの自己啓発とかハウツーものや見出し倒れのベストセラーとくらべて、腹に落ち具合がとても大きい実感。
偶然手に取ったこの本から、氏のほかの著作 ⇒ マルクス経済学 ⇒ 哲学 ⇒ ヘーゲル と読んでいくものがエクステンションするわけですが、その辺はとてもアウトプットできようがないので、この流れでの書評は一旦はここまで。そうはいっても、この本を手にとって以来、アイディアを何かに変換できないかという観点に重きを置いて本を読むようになったという点では、かなりエポックな本となりました。なお、氏はいろんな本を上梓されてその後いろいろ読んでみましたが、「国家の罠」「帝国の崩壊」あたりの若干フィクションの化粧をかまして見えるノンフィクション系の書物は、前段落同様自身の立ち居地判断をもとに書かれていることから、「交渉術」に近いニュアンスで読めるのでいいけどそれ以外については以下略なかんじで。
***以下森善朗さんの名誉挽回を書ききろうとして書けなかった点
人でいうと、ポマードさん・平成の人・シンキロウさんにエリツィン・プーチンにムネオさんといった政治家の描写が多く、それぞれ非常に魅力的に書かれています。あえて誰とはいいませんが失言癖がある某氏について、政治家として実務に臨む姿勢や対人配慮の優れた点、勉強家である一面あたりの記載に関しては、世間に知られたうっかりさんとは違う人物像となっているところは非常に興味深い描写に。まあ、馳浩の引退試合の様子からも、(とてもえらいひとなのに)ああやって即興でプロレスに乗っかれる時点で人間的には評価したいのと、トライアスリート視点からはトライアスロン連合設立者だったりするので、個人的にはそんなには悪く見れないんだけどさ。なんつぅか、お口に潤滑油さしすぎな嫌いがあるのはどうにかならんのかね。