10月8日(火)体育の日 7時半、自宅を出る。小田急秦野駅に10時五分着。
万葉の湯を通り過ぎて小川の橋を渡ると弘法山公園入口道標が立っている。
以前は鶴巻温泉駅下車して登ったが、今回は逆コースを辿ることにした。
おじいちゃん、おばあちゃん、息子夫婦と小学生の男の子二人
又老夫婦、20代カップルが登り始めた。
その後に続くが私に「お先にどうぞ」と道を譲ってくれた。
急坂の樹林道を太く剥き出した木の根に躓くのを注意しながら杖を推進力として登る。
11時10分浅間山到着
視界は開け、眼下に秦野市街見え、相模湾が霞の下に遠望。
ここから分岐点で弘法山方向と高取山、大山方向に分かれる。
距離と高度がある高取山方向に向う。
9月にも登ったが、歩きがいもあり登山者も少ない。
13時40分、高取山頂で一休みしていると、じか足袋の中年おじさんがやって来た。
精悍な面構えで、タスキ掛けに猟銃らしき細長い布袋下げている。
「犬を見かけなかったか」?と尋ねられた。
「見てない。」と言った。
私は鹿が侵入しない金網の防護柵沿いの山道下った。
突然、木々が揺れ薮をかき分ける響きが金網越からした。
陽射しが射さない暗い樹林から真っ黒な大きな鹿が急斜面を下って
消えた。一瞬のことだ。
数分樹林帯を下っていると犬の激しく吼えるのが谷間から聞こえた。
漁師と犬が鹿を追っているのだろう。
14時10分 蓑毛に下る舗装林道に着いた。
9月17日に登った時はスコールに見舞われて
http://blog.goo.ne.jp/kikuchimasaji/e/ce76541c1540a076c805b7bf7da30c71
林道に着いた時はびしょ濡れだったが
今回は深まりゆく秋色の清冽な山々と澄み渡るに空に巻き雲が流れている。
林道には山栗が裂けた緑の棘の間から小さな栗色の実を覗かせて落ちている。
若者が一人登山姿で坂道を走りながら登ってきた。
にこやかに「こんにちは」!
私も「元気ですね」!
その後姿が力強く、私まで元気になり気持ちが湧き上がり楽しくなった。
のんびりと1時間程下ると蓑毛バス停近くまでやってきた。
15時半 蓑毛から秦野駅行バスに乗車。
16時半 秦野万葉の湯に着く。
桐で作った大きな桶のような露天風呂に浸かり
漆黒の空に下弦の月を見ながら想いに浸った。
今回の山行には目的があった。
6日の健康診断結果に悪玉コレステロールの数値が高かった。
ジョギングで減少させようと思った。
ハイキングではなく老キング、はスローキング?
朝飯抜き、昼飯無し、ポカリスエットの900mlのみ持参。
大汗掻いたが下山まで半分ほど飲んだだけだった。
下山口の沢で空にしたペットボトルに丹沢の名水を入れた。
自宅で水割り用に使う。
もう一つは2010年6月に食道癌で亡くなった
友人との山行だった。
昨年10月 友人が住んでいたマンションが1年余経て売れた。
彼の生前の持ち物を整理した時に、リュックと登山用ステッキが出てきた。
遺品として私が貰い受けた。
リュックには彼のネームプレートが付いていた。
2009年5月、食道癌症が分かり、6月に私と弘法山にハイキングに行くことを
断念したのだ。
友人は一度だけ登山をしたことがあると言っていた。
勤めていた会社の山好きに誘われて出かけた。
途中であんな高いところに登るのは怖いと言って引き返したと言う。
声帯を切除して声も出せない友人は、病床で
「お前と登りたかった」とメモ用紙に書いた。
位牌の横に置かれたあいつの写真は北アルプス乗鞍岳を背景に
今日の老キングはあいつが使ったリュックとステッキを使った。
使いかっての良いリュックだった。
自己満足ではあるが、あいつの霊魂を道連れにスローキングしたのだ。
風呂から出て畳敷きの食事処でスーパーに売っていうような刺身の盛り合わせと
生ビール、日本酒で心地酔い気分になった。
想い出を振り返る。
あいつの一周忌打ち合わせを事務所でした。
私は一周忌の件はタッチしなかったが
幹事と彼の妹さんが事務所で段取りに関して話をしたのだった。
その日、妹さんは「兄の形見です、生前大事に使っていました。受け取ってください」と
腕時計とボールペンを差し出した。
ボールペンは見覚えがあった。
私の仕事を手伝ってくれたお礼にプレゼントした
ブランドの革巻きボールペンなのだ。
私は感謝して気持ちよく受け取った。
幹事は「いらない」と断った。
その言葉が発せられた瞬間、頭が凍りついた。
幹事が理由を言ったようだが凍りついた脳には入らなかった。
妹さんの困惑と失意と悲しげな表情を鮮明に思い出す。
感謝の気持ちを現わそうとした形見の品をハンカチに包みしまった。
彼女の精一杯のお礼と思い出を捨てたと感じた。
彼女の心を傷つけてしまった。
一周忌を間近に迫った頃、幹事からお前に苦言を呈す、バカヤロウ」とメールで一周忌への
出席を拒まれてしまった。
これからも、あいつのリュックとステッキを使わしていただき
老キングしよう。
一人の古い友達の方が、十人の新しい友達より良い。 |