2013年4月8日
4月7日(日)前夜の矢来の雨は止んだが、突風は未だ唸りを伴って
住宅街を嵐回り、マンションを吹きぬけ、街路樹の椰子の木は
羽のような葉が閉じられ強風に抗う。
娘は京葉線が動かぬため、京成線駅まで歩くとメールしてきた。
日曜も休まず出勤だ。
窓辺から陽だまりのベランダを見詰めて妻が呟いた。
4月1日 母親の様子を見に午前中介護ホームに出かけた。
母親の個室ベランダにカラスがやって来て
欄干に停まりずっと動かなかった。
カラスが来るなんて珍しいと思った。
「家に帰りたい」と母親が言った。
それが最後の言葉だった。
その夜、23時20分に召された。
妻は言った。
「カラスが呼びに来たのかしら」?
古くから言われている、死んだ人がいる家の屋根をカラスが飛び回る。
カラスが死臭を嗅ぎ付けて食べると言われるが
いつもだったら見過ごす事も、精神が張り詰めていれば
感じることなのか?
強風で桜は落花して煽られて何処ともなく流下する。
母親は自分の直ぐ下の弟の病死と孫が22歳で自死したことも知らず
三途の川を渡った先で待ち受けているのだ。
年々歳々桜は花びらを咲かせるが、肉親は転変の世で子孫に移り変わってゆく。
惜春の風が舞い、召された母親が冥土に旅立った。