あ、あのお婆さんがちえ子さんだ!
と、私と息子は急いで車を降りてちえ子さんの側に行った。
そして、私はカヅさんの長男の嫁で、こっちは私の息子でカヅさんの孫にあたることや、カヅさんのお悔やみをいただいていながらなかなか連絡もせず、今日失礼ながら住所を見て訪ねてきたことなど説明した。
ちえ子さんは驚いていた。
そして、
「中に入って中に入って」
と私達に促した。
「急に来てしまって申し訳ないので玄関先でと思ってたんです」
と言うとちえ子さんは、
「私もカヅちゃんの話を聞きたいから入って入って」
と言いながら先にちえ子さんは家の中に入ってしまった。
私と息子も「それじゃあ」と中に入った。
そのあと、カヅさんの話をたくさんしたし、
ちえ子さんも昔のカヅさんの話をいろいろ教えてくれた。
ちえ子さんはカヅさんの級友であり、実は親戚にもあたるらしい。
通っていた女学校が遠かったので、ちえ子さんはカヅさんの家に5年間下宿をしていたそうだ。
カヅさんは当時も大人しかったそうだが、ちえ子さんは活発だったようだ。
「カヅちゃんは自分の家でも物静かにしていて、まるで私の方が自分の家のようにしていたよ笑」
「カヅちゃんは真面目で、勉強熱心でいつも何か書いていたなあ」
「特に英語が好きで、毎朝熱心にラジオの英会話を聴いていた。この本はそのラジオの教本で、ああ、この字は確かに私の字だ。じゃあ私があげたんだね」
私が持って行った、カヅさんの昔の英会話の本に書かれていた、
『親愛なるカヅさんへ 昭和二十二年十二月二十五日 〇〇ちえ子』
と書かれた文字を見て、ちえ子さんは懐かしそうにした。
私が、
「この本、置いて行きましょうか?」
と言うと、
「じゃあ、カヅちゃんの形見にもらおうかな」
と、笑った。
それにしても、ちえ子さんのお話しのしっかりしてること!
カヅさんと同じ年で、今年89歳になるなんてビックリだ。
しかし、もっとビックリしたことがあった。
こんな大きな家に、何人で住んでいるのかと思ったら、
なんと、ちえ子さんは一人暮らしだそうだ!
14年前にご主人が亡くなり、それからずっと一人で暮らしているらしい。
娘さんは嫁いで居るし、息子さんは転勤族。
だけど息子さんは今年65歳で、今年いっぱいで退職して実家に帰って来る予定とのこと。
それを聞いてホッとした。
でも、スゴいなちえ子さん。
庭に軽自動車が停まっていたけど、ちえ子さんの車で、89歳の今も自分で運転しているらしい。
ちえ子さんは、自分の話もいろいろして楽しそうにしていた。
私達がそろそろ帰ろうとすると、「まあ座って」と、まだ帰したくない雰囲気で話を続けていた。笑
でもさすがに夕方になってきたので、
「すみません、そろそろ失礼しますね」
と立ち上がった。
ちえ子さんも、「ああ、じゃあまた来てね」と立ち上がった時、私は「あれ?」と気がついた。
「ちえ子さん、身長高いですね」。
なんか、私より大きい。
「うん。少し縮んだけど、162㎝だった」
えー!笑
ちえ子さん、いろいろビックリだ。
そして車に乗って走り出すと、私達の車が見えなくなるまで手を振っていた。
なんか泣けた…
ちえ子さん…
家に帰って、仏壇に向かい、
「ちえ子さんに会って来ました」
と、カヅさんに報告した。
きっとカヅさんは喜んでくれたと思う。