ロシアの反骨詩人がパリで録音したレコード。1981年の発売だが、ヴィソツキー自身は80年に亡くなっているから70年代末ごろの録音だと思う。日本でもかつてオーマガトキ・レーベルから『大地の歌』のタイトルで発売された。
そのオーマガトキ盤をオレは持っていたのだが、CDバージョンを手に入れたからもういいやとLPは二束三文で叩き売ってしまった。CDはいまも手許にあるが、情けない音質で聴く気がしない。ヴィソツキーの声がまるで死んでしまっている。CDはレコードより音がいいと、当時くり広げられたレコード会社/オーディオ・メーカーの真っ赤な偽りのキャンペーンを真に受けたオレがバカだった。
で、LPを買い戻さなきゃとずっと思っていたのだが、これが思うように行かない。たまにオーマガトキ盤がヤフオクに出ると、終値はたいてい万単位。オリジナルのフランス盤も、eBayで万単位。ヘタすると、2〜3万になったりする。いくら欲しくてもマリア・カラスじゃないんだから、そんなに財布をはたく気がしない。
ところがDiscogsを丹念に調べたら、ありましたよ安いのが。NM盤を約5000円で売っていた。さっそくクリックして手に入れたのが、上の写真のシャン・デュ・モンド盤。マスターのオーナー・レーベルである。
仏盤には2種類あり、オレが手に入れたのはシルバー・レーベル盤。厳密にいうと、初版はもう一方のオレンジ・レーベル盤らしいが、そっちは希少らしくて価格がシルバーの2倍する。だいいちVGやせいぜいVG+ばかりで、コンディションのいいのがない。どっちも発売は1981年だから、音質に大差はあるまいと購入。
予想的中。すごいリアルな音質である。ヴィソツキーの荒々しいダミ声が、野獣のような迫力で襲いかかってくる。カッティング・レベルが高いのに、やかましい歪みがほとんどない。オリジナル・マスターの威力。日本盤より3曲、収録数が少なく、カッティングに余裕があるためかもしれない。
なお、レーベルにStereoの表記がないからモノラル専用カートリッジで聴いていたのだが、ジャケットをよく見るとステレオ/モノラル兼用の gravure universelle (ユニバーサル・カッティング) というフランス独特の仕様だった。音がよく聞こえたのは、モノラル・カートリッジのおかげでもある。
オレが使っているモノ・カートリッジはデノンとオーディオテクニカのエントリー・モデルだが、それでも声の再生に関してはオルトフォンの高価なステレオ・カートリッジよりもよく聞こえる。ステレオだと、ノイズも歪みも倍加する。
このレコードを売っていたフランスのレコード店の親父に、ヴィソツキーがいまも生きていたらプーチンの戦争をどんなふうに歌うだろうねと言ってやったら、グーラグに放り込まれるか暗殺されてるよ、と返してきた。だよね。