“女性”誕生
一年の月日がみごとに変身させていた。
三面鏡の中の美人が、昼間、小柄な体をこ まめに動かし、てきぱきと社長秘書としての 仕事を処理していく伸一とは、どうしても思いえなかった。
セミ・ロングのヘア・ピースをつけ、ルージュに紅筆を動かしている伸一の肌は、薄いネグリジェを透かして、並みの女性よりきめ がこまかかった。 大場の希望で、都内にある女装クラブに通い、化粧法から身のこなし方、着物の着付け までを、すべてマスターした伸一の夜の生活 は、完全に女性になっていた。
大場が、高価な薬品を海外から取り寄せ、 毎日欠かさず伸一に服用させているせいか、 もともと体毛の少ない体質も重なって、伸一の肌に触れると吸いつきそうなじだった。 酒もタバコも断ち、大場の期待にこたえる ように肌荒れに特に気を配っている伸一は、 化粧ののりもよかった。やや厚目にファンデ ーションを塗り、ルージュもくっきりと鼻筋 の通った組面は、女性にはない輪郭の整った 妖しい美貌を作り出していた。
しばらく自分の美貌に見ほれるように、う っとりとした目つきで三面鏡の中をながめて いた伸一は、そこを離れると、薄いネグリク を脱ぎ、肌色の生ゴム製のサポーターを省 けた。それは、男性の前の部分だけを包み、後 常に広く開放されたビキニ型のものだった。 伸一のそれは、わずかな盛り上がりを残して、サポーターの中で息づいていた。その上から ブルーのナイロン製のパンティーをはき、ス ボンロのパットが硬い込まれている同色のプ ラジャーを身に着けた伸一は、オーデコロンを軽く体によりかけた。
一連のそれらの動きには、女性以上に女性 的なしぐさが自然ににじみ出ていた。
大場の好みに合わせて、これもまたブルー のネグリジェに着替えると、それはもう完全 な女性だった。ふだん男性の目で見て、どの ような女性が男をひきつけるかを知っている 伸一は、大場のために、彼の愛玩用の女性に なりきろうとする努力が、最近、忘れかけて いる日本的な女性の魅力を作りだしていた。
五時を少し回ったころ、入り口のチャイム が鳴った。伸一が内側からそっとドアを開け るのを、大場は待ち切れない様子で、ドアを体 ごと押すようにして部屋の中に入って来た。
「お帰りなさい」
すっかり女性になりきっている仲一に、大 場は満足そうなまなざしを送った。
「先にお風呂になさいます?」
女性にしては、ややハスキーな感じはする が、声も言葉づかいも、それは自然ににじみ て来る女性のものだった。
ゴルフ・セットの入った重いバッグを部屋のすみにかたづけると、大橋の背後に回り、 上質を取って着替えの手伝いをした。
「ゴルフ場で入って来たから、風呂はいい。 それより・・・・・」
と言うなり、大場はすばやく振り向くと、 伸一の唇を吸った。
「ウウ」
唇を割って入って来る大場の舌先が、伸一 の口の中をはい回り、それだけで伸一の血は うずいた。
全身の力が一気に抜けて行くような気がした。
大場の厚い胸がそれを受けとめた。
太い両腕が、きゃしゃな伸一の体を詰め付 けた。息が詰まりそうだった。
「伸子」
大場が耳もとでささやいた。夜の生活では 大場は、いつも伸一をそう呼んでいた。
「きれいだよ」
「うれしいわ」
伸一は、いや伸子は、大場の胸に顔を伏せ た。
長いまつげがわずかに震えていた。これ から展開される情痴の世界への期待がにじん でいる。
続く
一年の月日がみごとに変身させていた。
三面鏡の中の美人が、昼間、小柄な体をこ まめに動かし、てきぱきと社長秘書としての 仕事を処理していく伸一とは、どうしても思いえなかった。
セミ・ロングのヘア・ピースをつけ、ルージュに紅筆を動かしている伸一の肌は、薄いネグリジェを透かして、並みの女性よりきめ がこまかかった。 大場の希望で、都内にある女装クラブに通い、化粧法から身のこなし方、着物の着付け までを、すべてマスターした伸一の夜の生活 は、完全に女性になっていた。
大場が、高価な薬品を海外から取り寄せ、 毎日欠かさず伸一に服用させているせいか、 もともと体毛の少ない体質も重なって、伸一の肌に触れると吸いつきそうなじだった。 酒もタバコも断ち、大場の期待にこたえる ように肌荒れに特に気を配っている伸一は、 化粧ののりもよかった。やや厚目にファンデ ーションを塗り、ルージュもくっきりと鼻筋 の通った組面は、女性にはない輪郭の整った 妖しい美貌を作り出していた。
しばらく自分の美貌に見ほれるように、う っとりとした目つきで三面鏡の中をながめて いた伸一は、そこを離れると、薄いネグリク を脱ぎ、肌色の生ゴム製のサポーターを省 けた。それは、男性の前の部分だけを包み、後 常に広く開放されたビキニ型のものだった。 伸一のそれは、わずかな盛り上がりを残して、サポーターの中で息づいていた。その上から ブルーのナイロン製のパンティーをはき、ス ボンロのパットが硬い込まれている同色のプ ラジャーを身に着けた伸一は、オーデコロンを軽く体によりかけた。
一連のそれらの動きには、女性以上に女性 的なしぐさが自然ににじみ出ていた。
大場の好みに合わせて、これもまたブルー のネグリジェに着替えると、それはもう完全 な女性だった。ふだん男性の目で見て、どの ような女性が男をひきつけるかを知っている 伸一は、大場のために、彼の愛玩用の女性に なりきろうとする努力が、最近、忘れかけて いる日本的な女性の魅力を作りだしていた。
五時を少し回ったころ、入り口のチャイム が鳴った。伸一が内側からそっとドアを開け るのを、大場は待ち切れない様子で、ドアを体 ごと押すようにして部屋の中に入って来た。
「お帰りなさい」
すっかり女性になりきっている仲一に、大 場は満足そうなまなざしを送った。
「先にお風呂になさいます?」
女性にしては、ややハスキーな感じはする が、声も言葉づかいも、それは自然ににじみ て来る女性のものだった。
ゴルフ・セットの入った重いバッグを部屋のすみにかたづけると、大橋の背後に回り、 上質を取って着替えの手伝いをした。
「ゴルフ場で入って来たから、風呂はいい。 それより・・・・・」
と言うなり、大場はすばやく振り向くと、 伸一の唇を吸った。
「ウウ」
唇を割って入って来る大場の舌先が、伸一 の口の中をはい回り、それだけで伸一の血は うずいた。
全身の力が一気に抜けて行くような気がした。
大場の厚い胸がそれを受けとめた。
太い両腕が、きゃしゃな伸一の体を詰め付 けた。息が詰まりそうだった。
「伸子」
大場が耳もとでささやいた。夜の生活では 大場は、いつも伸一をそう呼んでいた。
「きれいだよ」
「うれしいわ」
伸一は、いや伸子は、大場の胸に顔を伏せ た。
長いまつげがわずかに震えていた。これ から展開される情痴の世界への期待がにじん でいる。
続く
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