僕は自転車(3)

2017-08-21 08:21:21 | 童話
僕が他の家に貰われて行く日、今度の家のおじさんが自動車でやって来た。
おじさんが僕を自動車に積む時に、僕を大事にしてくれた男の子が、サドルをボンポンと叩いて
『今迄ありがとう。』
と言った。
僕はみんなに見つからないようにして涙を流した。
『バイバイ。』
男の子と男の子のお父さんに見送られて、走り出した自動車の中から手を振った。
いや、手ではなくハンドルを振った。

ほどなく、自動車は今度僕に乗ってくれる子供の家に着いた。
『わ~い自転車だ、ピカピカの自転車だ。』
『大事に乗るんだよ。』
と言っておじさんが僕を自動車から降ろした。
『うん、大事にするよ。』
『明日の日曜日に、公園で乗る練習をさせてやるよ。』
『うん。』
と言って僕をずっと眺めていた。

次の日から、自転車の練習が始まった。
『ほらほらっ、下を見ないで前を見て。』
僕は、練習する時に大人はみんな同じ事を言うのだなぁと思った。
『お父さん、手を離さないでね、離したらダメだよ。』
前の男の子の時と同じようにグラグラ、グラグラとしている。
僕は必死になってこらえて転ばないようにしていた。
しかし、おじさんが手を離した時に僕は転んでしまった。
そして、この子も膝を擦りむいてしまった。
『うわ~ん、痛いよ~。』
おじさんは
『少し怪我するくらいでないと自転車に乗れないよ。』
また僕は前の男の子のお父さんと同じ事を言っていると思った。

毎週、練習をして、グラグラするが、やっと転ばないようになった。
この子も僕を大事にしてくれる。
転んだ時は家に帰ってから、僕を綺麗に洗ってくれる。
この子も大きくなって、大きな自転車を買っても、僕を大事にしてくれると思う。
そして、外から帰って来た時に、何も言わないでサドルをボンポンと叩いてくれると嬉しいなぁ。
そう思いながら、この子と練習を続けている。

おしまい