2年くらい前か・・・長く癌の治療を続けていたお父さんを亡くした独りっ子の悪ガキが、その通夜の日の小学校帰りに、銀座のはずれの俺の店にやって来てた。
黙って、ランドセル背負ったまんま、帽子を目深にかぶって、店の外で俯いていた。
事情は聞いていたから・・・おい! メソメソしてたらお父さんは喜ばんぞ!! またいろいろと遊びに連れていってやるし、お前は独りじゃない、人間は早いか遅いかだけのことで、みないつかは死ぬもんなんだぞ・・・
トボトボと近づいてきた彼をランドセルごと抱きしめてやると、それまで学校でも家でも我慢してたんだろう涙が一気に出て、ひたすらすすり泣いておった。
・・・さ~、お父さんを笑って送ってやんだぞ! メソメソしてたらぶっ飛ばすぞ!!
・・・うん・・・
その子はいま銀座の中学生になってるが、このごろは授業ができなくなるほど学校で暴れ騒いでいると聞いた。
どれ、俺が張り倒しに行ってやるか・・・どういう反応するのかまで、目に見えるようだわさ。
まわりの友達連中にそれを言っておけば・・・あのオジサンは本当に来る!!・・・と、すぐにカタはつく話。
それは小さいころから一緒に可愛がって遊んでやってた大人の責任でもある。
俺にはそんな責任が、あっちゃこっちゃに仰山ある。
・・・そんな話を、後輩の山馬鹿オヤジに話してやった。
彼は、生まれてすぐに父親が死に、母親は男を作って子を婆様に預け、いらい親戚中をたらい回しにされて育った孤児みたいな周旋屋で、20代のころからの長い付き合いがある。
価値観が柔く多様化してる今と違って、昔は社会の目や風は冷たかった。
・・・ふっふっふ、可愛い話だね~、で? エロ大魔王はどうすんの? 学校に行ってくるの?
・・・いやいやいや、そこまで馬鹿じゃ~ね~よ、また海にでも遊びに連れていって、さんざんに怖い目に遭わしてやれば済むだろう
・・・あとは腹いっぱい飯食って、爆睡すりゃ~済む、か
・・・そんなもんだろうよ、俺もお前も、そんなもんだろうよ? 思春期に帰る場所を持たなかった俺たちは、そんなもんだったろう
・・・そんなもんだ、な・・・
さ、梅雨も終わる、今週末からまた山に戻るっぺよ。