節季は清明となり鎌倉は麗らかな陽射しに溢れ、前山から庭に花がはらはらと降り散って来る。
こんな日は久々にお猫様を連れて野遊びに出よう。
花も終りの谷戸の散歩道は、行く先々で春風谷風に花びらが舞っている。
(猫型酒注 明治頃 古丹波杯 江戸時代 煎茶盆 明治時代)
麗らなる桜の根元の花屑の上で杯と戯れるようなお猫様だ。
上げた手の先から酒が出る仕掛になっている。
宿痾により酒の飲めない隠者も、お猫様のお酌でひと舐めだけ御相伴。
猫の眼と同じ高さで見れば、一面の花屑世界の夢幻に浸れる。
路傍には小さな花々が咲き、ちょっとした空地でも春の陽射しを堪能できる。
この空地の蒲公英は2週間ほど前に咲き出した花ごと草刈りされてしまったのが、その後も逞しく根を張ってまた花を咲かせたのは驚きだ。
甦った緑と黄の瑞々しさは、この春の痛切な想いとして記憶に残るだろう。
本はラフカディオハーン(小泉八雲)の「日本の面影」の戦前翻訳版。
彼が日本に来て間もなく鎌倉を訪れた時の紀行文は詩情に満ちて、日本人よりずっと深く日本の美を理解した名文だ。
英語が苦手な隠者でも、原書の初版が欲しくなる。
家に帰って誓子の落花の句でも眺めながら一服しよう。
(直筆句軸 山口誓子 益子急須湯呑 昭和前期)
「遅れ咲きいまの落花に加はらず」山口誓子
誓子は機関車や鉄錆などの硬質なモチーフで評価を得たが、私はこの句のような普通の季題の方が好みだ。
最新流行の物ほど古臭くなるのも早い。
穏やかな句風の軸と地味な色合いの机辺に、干菓子の春色が鮮やかに映える。
ーーー暗雲の去り行く風や花は葉にーーー
街ではマスクの人も減りつつあり、山々は芽吹の色に潤って来た。
今月からは少しでも明るい世に戻れるように、隠者もせめて明るめの衣服でも着るようにしたい。
©️甲士三郎