鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

374 晩秋の音色

2024-11-07 13:00:00 | 日記

今週は立冬だが鎌倉の野山はようやく秋色が見え始め、散歩がてらの吟行もこれから秋本番の気分だ。


夏場は苦労した日々の音楽選びだが、秋の音楽ならポップ、ロック、ジャズと皆それぞれお気に入りの曲があるだろう。

ただ詩歌書などを読みながら聴く時には歌詞があるヴォーカル曲より器楽曲の方が適している。



(幽玄の歌人で鎌倉将軍だった宗尊親王の館跡)

試聴に相当長い時間をかけてクラシック方面を検討した結果、和歌に似合う音楽は色々あるのだが俳句に合う物は少なく、その中では素朴なイタリアンバロックのヴァイオリンソナタ類が良かった。

合奏もピアノよりチェンバロとかヴィオラダガンバなどの古楽器の、和音の厚みも物足りず旋律も細い感じのソナタだ。

またバロックは短い曲が多くコレッリ、アルビノーニらのソナタなら1楽章が2分足らずなのも俳句に適している。

自句を案じるにもふさわしい音楽があればその世界に没頭し易いので吟行時にも欠かせないのだ。

ーーー楽の音を携へ往かむ草穂波ーーー


池辺の葦も枯れ色となり始めた。



(永福寺跡の池)

バロック音楽では厳粛なバッハのピアノ曲が最も隠者好みなのだが、残念ながら軽みや平俗を宗とする俳句には全く似合わない。

ロマン派の華麗なピアノコンチェルトなどは更に不適だった。

その点イタリアのバロックは素朴で軽やかだから俳句にも合うのだろう。

「イタリアンバロック インストゥメンタルエディション」シリーズはアルバム1枚に6〜7時間分の曲が入っていて、全6枚で1枚あたり1800円程度と超お買得だ。

これなら仕事や家事介護時のBGMに流しっ放しでも1週間分賄える。

ーーー枯色も和ませ映す水鏡ーーー


もう少し肌寒くなる頃には重厚な音色がふさわしい。

そこでこの秋冬にお薦めなのがチェロのハウザーだ。



(Hauser)

若い頃のハウザーはヘビメタチェロで暴れていたが、近年はだいぶ落ち着きクラシック方面のシンプルな曲を丁寧に弾くようになった。

彼は元々かなりのイケメンでYoutubeのビデオでも人気が高く、母国クロアチアの美しい自然の中での演奏は一見の価値がある。

また近年の優れた録音技術は一昔のヴァイオリンやチェロのギコギコした雑音を抑え、実に品の良い潤いのある音色になっているのだ。

ヨーヨーマが晩年のモリコーネと共演した至高のアルバムには及ばないものの、他のヨーヨーマの古い録音よりは遥かに音質が良く聴きやすい。

また晩秋から冬の閑寂な俳句との相性は抜群に良く句想も深まる。

ーーー秋寂のチェロ弾きの指強(こは)くありーーー


もう少し早く最新録音のイタリアバロックがこんなにも大量に出ているのを知っていれば、この十年来の介護ストレスもだいぶ和らいだろうと後悔している。

諸賢も是非良き音楽と共にある暮しを楽しんで頂きたい。


©️甲士三郎