‘花の中年ヘドウィグ’の爆発的な歌唱力を確認する瞬間、
ユン・ドヒョンの『ヘドウィグ』
大劇場で‘ニュー・メイクアップ’として
劇場の中に入るとホイットニー・ヒューストンの歌“I Will Always Love You”が流れて来る。目を閉じてしばらく感傷に浸ってみる。
だが目を開けて眺めた舞台は古いトレーラーが正面に置かれた巨大な廃車場のようだ。アクション映画のような場所を見たら 群れをなしてケンカし、
人殺しをするのに良い場所ではないだろうか? そういう感じだ。あの車は皆どこで手に入れたのか? サイドと後方まで車が重なり合っている。
そして車の間に自販機が1台置かれている。ボロボロのようだったが その自販機の扉を通じて昔の恋人‘トミー’のコンサート場面が演出される。
舞台中盤 上には薄い幕がかかっていて その上には映像が再生される。バンドも両側に広がった。下手にはドラムとベース、
上手にキーボードとギター、そして‘イツァーク’。
久しぶりに『ヘドウィグ』、大劇場とはあまり想像できないのも事実だ。小さい小劇場、“モーテル リバービュー”にぴったり合うとみられる劇で
片方に準備された小さな舞台で交わされるトーク、そのささやき、自己告白の舞台としてなじむ作品だったが、どのように大劇場で公演するのか?
観客との疎通とか親密な感情の交流が可能なのか?
情熱で飛び散るる汗、吐き出すため息が肌に届かない距離でもヘドウィグの本心が観客に届くのか? 内心 心配したことも事実だ。
「『ヘドウィグ』という作品はこういう形式でなければならない」と知らないうちに思い込んでいたのかも。
照明が暗くなると客席の左側の花道に‘ヘドウィグ’が登場する。その前でカメラが顔をクローズアップして撮り その画面は幕で生中継される。
大劇場で使うことができる~ユンドウィグの言葉を借りて~あるように見える最先端のシステム(?)で俳優の顔が詳しく見える。
映像はヘドウィグが舞台に上がってスタンディングマイクを掴む時まで続く。そして車のボンネットの中にも設置されたオーブンの中でラジオを聴く
ヘドウィグの子供時代の場面でも使われる。客席に下りたり客席から視野確保が難しい時 俳優の表情やジェスチャーを近くで捉えてくれる。
大劇場だから可能な照明と舞台演出
舞台があまりにも大きくなったためだろうか? 全体的に没入感や集中度はアップダウンがある方だった。過去に感じた孤独で穏やかながらも
淡々と吐き出す告白のセリフが前より力を失ったことも事実だ。
何といってもより声を張り上げなければならず、より大きく動かねばならず より遠く走り回らねばならないようだ。
この大きな舞台、そして広い客席を自分のエナジーで満たさねばならないとは俳優にとって本当に難しくつらい挑戦だろうと考え
同時にしてみようという欲も生じるようだ。だが前とは別の何かがあるべきではないだろうか?
ひとまず照明が印象的だ。全体的にデザインはシンプルだが適切なタイミングに合わせてディテールにキューを出し、多様な色を混ぜて雰囲気を変化させる。
トップの照明とサイドの照明が繊細に演出された感じを与えた。その他にも車の上で火が燃えるような照明で場面の情緒を作り
“Angry Inch”を歌う場面ではトレーラーの上に上がって手術室の場面を演出するが 横にあったクレーンで手術室の感じの照明が入ってきて
写実的なイメージでちょっと恐ろしくもなった。
ヘドウィグがしばらく休んで帰ってきた後に“Wig In A Box”を歌とともにトレーラーが前に移動して扉が開くと 派手な金色の服を着たヘドウィグと
たくさんのカツラが見える。
大型の劇場でだけ可能な場面だ。そして最後の部分でヘドウィグが胸に持ったトマトを破裂させて走り、同時に積み重なった車が動いて割れ
舞台、つまり世界が崩壊するような場面が演出されるが そのうるさい音が止まってまるで死んだような静けさになると
左右に長く白いポイント照明が点く。まるで心臓が止まって泣いている心電計のようだ。そこに舞台の正面が開かれて白い光が客席にあふれ出てくる。
静かにその扉から退場するヘドウィグ。とても印象的な場面だが 深さのある大劇場でなければ作れなかった場面ではないだろうかと思う。
YBのコンサート会場に来たような感覚、‘ヘドウィグ’と‘ユン・ドヒョン’を行き来する老練さ
もう我々の主人公ユン・ドヒョンに戻って言うならば、思ったより魅力あるキャラクターだったという結論だ。ボロボロになった姐さん、
あらゆる苦労をして悠久の歴史を過ごした時代遅れの想い出の中の女人(?)の雰囲気を与えた。
過去最年少のヘドウィグ‘ソン・スンウォン’の公演を見て、「これは誰でもすることではないな」と感じ この役が俳優の若さやスリムな体つき、
ハンサムな顔だけで勝負を見られる公演ではないと思った。ほぼ100%俳優による、俳優のための、俳優の力量に左右される公演だと思う。
ユンドウィグが持つ中年の魅力は‘チョ・スンウ’や‘チョ・ジョンソク’らのヘドウィグとも違う感じだ。歌手だから彼の持つ音楽カラーや
歌の特徴が強いという考えになる。だから『ヘドウィグ』の‘ヘドウィグ’という人物よりは‘ユン・ドヒョン’自体がそれになったような感じだろうか?
女性の声を出して演技してもユン・ドヒョンとして歌を歌うようだ。魅力的なその声、ロック歌手の魅力がにじみ出る場面は
ユン・ドヒョンバンドのファンなら彼のコンサートだと思ってもいいのではないかと思った。
中間でイエスについて話をして『ジーザス・クライスト・スーパースター』の一場面を少し歌うが ちょっとの間だがどっぷりハマった。
最初に登場した瞬間から立ち上がれと言うと楽しげに最初の曲を歌い しらばっくれてなぜまだ立っているのかと言う。
セリフを言ってしばらく止まったり順序が混乱しそうに感じる部分もあったが 冗談を言って切り抜ける老練さが引き立って見える。
‘イツァーク’を演じる‘ソムン・タク’とも昔からの兄妹のように自然に合って舞台を満たす。
その上客席の呼応も一役買ったが 作品を完成するのに俳優、そして残りを満たすのが観客であるようだ。観客の返事と拍手の音、
笑い声などのリアクションが大きい影響を与える。2階は少し観察だけでもいいのだろうか?
1階、特に舞台近くなら ただ気楽に行く考えはダメだろう。十分に楽しむ準備でいっぱいの心と体で行かねばならないようだ。
フロアごとにフォトゾーンがあるので様々に楽しむことができるようになっている。客席の通路に俳優たちが行き来して
OP席2~3列の中間には‘トミー’が座っているという仮定の下に投げられるヘドウィグの愛を受けることもできる。
もちろん洗礼を受けるかもしれないということだ。開かれた心で行けばよいだろう。ミュージカル『ヘドウィグ』は5月29日まで
弘益大・大学路アートセンター大劇場で続けられる。
YBインスタグラムにはこんなイラストが。
‘ポドウィグ’とのツーショット。チョ・ジョンソクの目が大きい!!