★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ブタペスト弦楽四重奏団+第2ヴィオラ:ワルター・トランプラーのブラームス:弦楽五重奏曲第1番/第2番

2024-07-15 09:45:31 | 室内楽曲


ブラームス:弦楽五重奏曲第1番/第2番

弦楽五重奏:ブタペスト弦楽四重奏団+第2ヴィオラ:ワルター・トランプラー

        ヨーゼフ・ロイスマン(第1ヴァイオリン)
        アレクサンダー・シュナイダー(第2ヴァイオリン)
        ボリス・クロイト(第1ヴィオラ)
        ワルター・トランプラー(第2ヴィオラ)
        ミッシャ・シュナイダー(チェロ)         

録音:1963年11月14日~15日(第1番)/1963年11月21日、26日(第2番)、アメリカ、ニューヨーク

LP:CBS/SONY SOCL 1138

 ブラームス:弦楽五重奏曲第1番は1882年に、 そして弦楽五重奏曲第2番は1890年に、それぞれ完成している。第1番は、如何にもブラームスの作品らしく、緻密で内向的な性格の曲。地味ではあるが完成度の高さでは、ブラームスの室内楽曲の中でも屈指の作品とも言える。どちらかというと一般向けの曲というよりは、プロ好みの室内楽曲。一方、第2番は、作品全体にワルツの主題が流れ、終末部にはロマの音楽が展開されるなど、ブラームスの室内楽としては、明るく陽気な作品となっており、耳に心地良く、楽しい作品。どことなく弦楽六重奏曲第1番と雰囲気が似かよっている。ブラームスは、この曲を書く直前にイタリアに旅しており、その影響を指摘する向きもある。さらにドイツ風のユーモア、スラブ風のメランコリー、それにハンガリー風の誇らしげな雰囲気などを加え合わせ、これら4つの性格が巧みに融合されているところが、この曲の魅力の源泉とも指摘されている。これら2曲を演奏しているのが、20世紀を代表する伝説のカルテットであるブダペスト弦楽四重奏団。1917年にブダペスト歌劇場管弦楽団のメンバーによって結成され、メンバーの変遷を経ながら1967年2月まで活動した。1938年からアメリカに定着して活動し、最終的なメンバーは全員がロシア人。伝統的なロマン主義的を避け、新即物主義的な解釈を行い、さらに、各声部のバランスを取ったことなどから、現代の弦楽四重奏演奏のスタイルに大きな影響を与えたカルテットと言われている。1940年から長年にわたりアメリカ合衆国の議会図書館つきの弦楽四重奏団としても活躍したが、ストラディヴァリウスを演奏に使用した。そして1962年以降の後任がジュリアード弦楽四重奏団である。このLPレコードで共演の第2ヴィオラ担当のワルター・トランプラー(1915年―1997年)は、ドイツ出身の名ヴィオラ奏者で、1939年以降、アメリカにわたり演奏活動を行った。このLPレコードでの演奏内容は、第1番については、ブラームス特有の内省的で緻密な曲想に合わせるかのように、実に求心的で濃密なロマンの香りを馥郁と漂わせた演奏に終始し、一分の隙のない名演を聴かせる。一方、第2番は、明るく、活動的な室内楽の楽しみを、リスナーと分け合うかのように、軽快に弾き進んで行き、ブラームスの別な側面を明らかにしてくれている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇新ウィーン楽派の3人(シェーンベルク/ベルク/ウェーベルン)の編曲によるヨハン・シュトラウスのワルツ集

2024-06-27 10:14:19 | 室内楽曲


ヨハン・シュトラウス:皇帝円舞曲(シェーンベルク編曲)                
           南国のばら(シェーンベルク編曲)
           酒、女、歌(ベルク編曲)            
           宝石のワルツ(ウェーベルン編曲)

室内楽:ボストン交響楽団室内アンサンブル

        ジョーゼフ・シルヴァースタイン(第1ヴァイオリン)         マックス・ホバート(第2ヴァイオリン)      
        バートン・ファイン(ヴィオラ)      
        ジェール・エスキン(チェロ)      
        ジェローム・ローズン(ハルモニウム)      
        ギルバート・カリッシュ(ピアノ)      
        ドリオ・アントニー・ドワイアー(フルート)      
        ハロルド・ライト(クラリネット)

録音:1977年4月3日、ボストン、シンフォニー・ホール

LP:ポリドール(ドイツ・グラモフォン) 2530 977(MG1194)

 これは、大変愉快なLPレコードだ。というのは、あのヨハン・シュトラウスのワルツの名曲を、何とシェーンベルク、ベルク、ウェーベルンの3人の新ウィーン楽派の作曲家達が編曲をした曲を、ボストン交響楽団のメンバーが演奏したものだからだ。新ウィーン楽派とは、主に1900年代初頭にかけて、ウィーンで活躍した作曲家の集団で、先生役のシェーンベルク (1874年―1951年)と、ウェーベルン(1883年―1945年)およびベルク(1885年―1935年)の2人の弟子の3人を中心とした作曲家集団のことをいう。彼らは、無調音楽や十二音技法などの現代音楽を確立したことで知られる。一見すると、ワルツ王ヨハン・シュトラウスと新ウィーン楽派とは、水と油の関係のように感じられるが、意外や意外、シェーンベルクは、ヨハン・シュトラウスをはじめ、オッフェンバッハ、ガーシュインなどの新しい傾向の曲を高く評価していたのだという。当時、新ウィーン楽派は、従来からクラシック音楽の主流を占めていた権威主義的な傾向を厳しく批判していた。一方、ヨハン・シュトラウスの曲はというと、大衆に根差した音楽であり、決して権威主義的な曲ではない、というところを、どうも評価したようである。シェーンベルクは、現代音楽の普及団体「ウィーン私的演奏協会」の会長を務めていたが、ここでの演奏会では、しばしば自分達が編曲した曲を演奏し、さらに、その編曲した楽譜を販売していたというから、なかなかのものである。このLPレコードの石田一志氏のライナーノートによると、ベルク編曲の「酒、女、歌」が5,000クローネ、ウェーベルン編曲の「宝石のワルツ」が7,000クローネ、シェーンベルク編曲の「南国のばら」が1万7,000クローネで売られたという(ちなみに現在はというと、1クローネ=23円)。私は、このLPレコードの最初のシェーンベルク編曲の「皇帝円舞曲」を最初に聴いたときは、大いに驚いたことを思い出す。ヨハン・シュトラウスの曲には違いないのであるが、そこは、それ、シェーンベルク流のワルツに巧みに仕上がっていることには唖然とする。これはシェーンベルクの歌曲「月に憑かれたピエロ」の手引書のような役割を持った編曲ではないかと石田一志氏は指摘する。一度、これらの編曲を聴かれることをお勧めする。現代音楽への見方が変わるかもしれないのである。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ネヴィル・マリナー指揮アカデミー室内管弦楽団のモーツァルト:喜遊曲K.136/K.137/K.138/セレナータ・ノットゥルナK.239

2024-05-16 09:38:13 | 室内楽曲


モーツァルト:喜遊曲K.136          
       喜遊曲K.137          
       喜遊曲K.138  
       セレナータ・ノットゥルナK.239

指揮:ネヴィル・マリナー

弦楽合奏:アカデミー室内管弦楽団

発売:1980年

LP:キングレコード K15C‐8060

弦楽合奏:アカデミー室内管弦楽団

 このLPレコードに収められたモーツァルトが作曲したK.136、K.137、K.138の3つの喜遊曲は、モーツァルトが第2回目のイタリア旅行(1771年8月13日~1771年12月16日)から帰って、第3回目の旅行(1772年12月24日~1773年3月13日)に持参すべく用意された作品だとも言われている。一方、このLPレコードのライナーノートで向坂正久氏は、「モーツァルトは、イタリア旅行のみやげ話をこれらの喜遊曲にまとめ、モーツァルト16歳の誕生日(1月27日)に集まった人々の前で演奏するために用意された曲ではないか」という説を披露している。いずれにせよ、この3曲の喜遊曲は、1曲づつ聴いても、それぞれ持ち味が違って楽しめるが、3曲を一気に聴くとそれはそれで、一つのまとまった喜遊曲でもあるかのように聴こえるのだから面白い。当時、流行っていたシンフォニアでもなく、また弦楽四重奏曲でもなく、喜遊曲独特の味わいを持ち合わせた、弦楽合奏の楽しい曲として、現在でも少しもその存在価値は失われていない。一方、 セレナータ・ノットゥルナK.239は、1776年1月、モーツァルト20歳の作とされる。ちょうどこの年には、有名な「ハフナー・セレナード」も書かれており、その頃、モーツァルトが関心を持っていたフランス風のギャラントなスタイルに影響を受けた作品となっている。このLPレコードで演奏しているのが、指揮者のネヴィル・マリナーとマリナーによって結成されたアカデミー室内管弦楽団である。ネヴィル・マリナー (1924年―2016年)は、英イングランドのリンカン出身。王立音楽大学に学んだ後、パリ音楽院に留学した。1959年にアカデミー室内管弦楽団を結成し、長年その指揮者を務めてきた。さらに、1979年から1986年までミネソタ管弦楽団、1983年から1989年までシュトゥットガルト放送交響楽団の音楽監督を務めた。1985年にはナイト号を授与されている。このLPレコードでの演奏は、典雅この上ない演奏に徹しており、同時に躍動感溢れ、聴いていると18世紀の宮殿の中の演奏会にタイムスリップしたかのような感覚に捉われる。それでいて、少しも古臭さを感じさせないのは、ひとえにネヴィル・マリナーとアカデミー室内管弦楽団の現代感覚に溢れた演奏によるものだ。このような演奏は、特にLPレコードで聴かないとその真の良さがなかなか伝わってこない。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇スーク・トリオのシューベルト/メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番

2024-05-02 10:32:00 | 室内楽曲

 

シューベルト:ピアノ三重奏曲第1番
メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番

ピアノ三重奏:スーク・トリオ                    

         ヴァイオリン:ヨセフ・スーク          
         チェロ:ヨセフ・フッフロ          
         ピアノ:ヤン・パネンカ

LP:日本コロムビア OQ‐7045‐S

 ヨセフ・スーク(1922年―2011年)は、1950年にプラハ音楽院を卒業した2年後に、自らが中心となりスーク・トリオを結成。スークのヴァイオリン演奏は、プラハ音楽院のヴァイオリン科に流れる、ボヘミアの弦の長年の伝統に裏付けられた、しっとりとした音色と端正な形式美に特徴を持ち、これがそのままスーク・トリオの演奏の特徴ともなっていた。チェロのヨセフ・フッフロ(1931年―2009年)は、1959年にメキシコで行われたカザルス国際チェロ・コンクールの優勝者であり、安定感のある浪々としたチェロの音に特色があった。ピアノのヤン・パネンカ(1931年―1999年)は、チェコで行われたスメタナ・コンクールで優勝、そのピアノ演奏は、しっかりとしたピアノタッチに加え、美しい詩情を湛えていた。この3人は、ほぼ同世代の演奏家であり、その意味からも互いに気心が知れ合い、そのため、淀みのない、流麗な音のつくりが実現でき、当時、その演奏内容は、他のピアノ・トリオでは得られないものとして高く評価されていた。シューベルトは、ピアノ三重奏曲を2曲作曲しているが、このLPレコードでは、明るく軽快な曲想が広く一般に親しまれている第1番が収録されている。この第1番は1827年に作曲され、作曲された当時は歌曲集「冬の旅」や3曲のピアノソナタ(第19番、第20番、第21番)が生み出された時期でもあった。公開初演は同年の12月26日、シュパンツィヒ四重奏団員によってウィーンの楽友協会で行なわれた。初版譜は1836年にウィーンのディアベッリ社から出版された。一方、メンデルスゾーンもピアノ三重奏曲を2曲残しており、このLPレコードではピアノ三重奏曲の屈指の名曲として有名な第1番が収録されている。この第1番は1839年9月23日に完成し、この時はメンデルスゾーン自身がピアノ、ヴァイオリンは友人のフェルディナンド・ダヴィッドが担当した。この曲を聴いたシューマンは「ベートーヴェン以来、最も偉大なピアノ三重奏曲」だと評したという。このLPレコードでのスーク・トリオの演奏は、スークの伸びやかで優雅なヴァイオリン、ヤン・パネンカの軽快で澄んだピアノ、それにヨセフ・フッフロの大きな広がりをもったチェロと、3人の奏者の息がぴたりと合っている。これら2曲のピアノ三重奏の名曲を、LPレコードの持つ柔らかな音色により、心ゆくまで堪能することができる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇レオポルド・ウラッハのブラームス:クラリネットソナタ第1番/第2番

2024-04-25 09:36:40 | 室内楽曲

 

ブラームス:クラリネットソナタ第1番/第2番

クラリネット:レオポルド・ウラッハ

ピアノ:イェルク・デムス

LP:東芝EMI IWB‐60005

 ブラームスは、最晩年になってクラリネットの作曲を始め、クラリネット三重奏曲、クラリネット五重奏曲に続き、今回のLPレコードに収められたクラリネットソナタ第1番と第2番の2曲を完成させた。何故、急にクラリネットの曲を書くことに目覚めたかというと、リヒャルト・ミュールフェルト(1856年―1907年)というクラリネットの名手と知り合い、彼の演奏に魅了されたためと言われている。具体的な作曲は1894年から開始され、この2曲が相次ぎ完成した。このためこの2つのクラリネットソナタは、双子のような性格を持っていることが、聴き始めると直ぐに分る。初演は1895年で、ミュールフェルトのクラリネット、ブラームスのピアノによって行われたという。この作品は、ブラームスの最後のソナタ作品となった。クラリネットの代わりにヴィオラあるいはヴァイオリンで奏されることもある。この2曲のクラリネットソナタを聴くと、老人が遥か昔を偲んで物思いに耽るような感覚が強く滲み出しており、聴けば聴くほど味のある曲であることが分る。何か諦観の面持ちさえ聴いて取れる。この意味で、私などは西洋音楽というより、どちらかと言うとブラームスが東洋的な神秘の世界に踏み込んで作曲したのではないかとさえ考えてしまう。現に、ブラームスは、世界の民俗音楽に深い興味を持っていたようで、琴の六段の演奏を実演で聴き、採譜をした記録が残っているほど。このLPレコードでクラリネットを演奏しているレオポルト・ウラッハ(1902年―1956年)は、オーストリア出身のクラリネット奏者。ウィーンで生まれ、1928年からウィーン国立歌劇場およびウィーン・フィルの首席奏者、ウィーン・フィル管楽器アンサンブルの主宰を務め、ウィーン・フィルの最盛期を支えた一人。その音色は、ビロードのような滑らかさで奥が深い。ウラッハの奏でる夢幻のようなクラリネットの音色を聴いていると、これが古き良きウィーンの響きなのかという思い至る。多分、ブラームスが魅了されたミュールフェルトの音色も、ウラッハのそれに近かったのではなかろうかという思いに至る。ピアノ伴奏のイェルク・デムス(1928年―2019年)もウィーン出身で、日本ではパウル・バドゥラ=スコダとフリードリヒ・グルダとともに“ウィーン三羽烏”と呼ばれていた。ここでは、ウラッハに寄り添うように演奏して、見事な出来栄えを聴かせてくれている。(LPC)

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