★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ウィーン・フィルハーモニー室内アンサンブルのベートーヴェン:七重奏曲/弦楽五重奏のためのフーガ

2023-09-21 09:36:40 | 室内楽曲


ベートーヴェン:七重奏曲Op.20
        弦楽五重奏のためのフーガop.137

演奏:ウィーン・フィルハーモニー室内アンサンブル
       
ゲルハルト・ヘッツェル/ヴイルヘルム・ヒューブナー(ヴァイオリン)
      ルドルフ・シュトレンク/エトヴァルト・クドラック(ヴィオラ)
      アダルベルト・スコッチ(チェロ)
      ブルクハルト・クロイトラー(コントラバス)
      アルフレート・プリンツ(クラリネット)
      ディートマール・ツェーマン(ファゴット)
      ローラント・ベルガー(ホルン)

録音:1975年11月19~22日、ウィーン

LP:ポリドール SE 7705(ドイツグラモフォン MG1060 2530 799) 

 このLPレコードで演奏している「ウィーン・フィルハーモニー室内アンサンブル」は、ウィーン・フィルのコンサートマスターのゲルハルト・ヘッツェルによって1970年に結成され、全員がウィーン・フィルのメンバーからなっている。以後、現在までその伝統は生かされ、来日公演を行っている(名称は「ウィーン室内合奏団」)。ゲルハルト・ヘッツェル(1940年―1992年)は、ユーゴスラビア出身で、ドイツ、オーストリアにおいて活躍したヴァイオリニスト。1956年、ベルリン放送交響楽団(現ベルリン・ドイツ交響楽団)のコンサートマスターを経て1969年には、オーストリア人以外では異例であったウィーン国立歌劇場およびウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターに就任したが、1992年、ザルツブルグ近郊で登山中に転落死した。ヘッツェル亡き後、同アンサンブルは、ヨゼフ・ヘルが師の意志を継ぎ、ウィーンの伝統の響きを現代に伝え、現在も活発な演奏活動を展開している。この録音は、同アンサンブル結成5年目にウィーンで行われたものだが、メンバーには、リーダーのヘッツェルのほか、ヴァイオリンのヒューブナー、ヴィオラのシュトレンク、そしてクラリネットのプリンツなど、昔懐かしい名前が並んでいる。ベートーヴェン:ヴァイオリン、ヴィオラ、クラリネット、ホルン、ファゴット、チェロ、コントラバスのための七重奏曲op.20は、若き日のベートーヴェンの傑作の室内楽として知られた曲で、オーストリア皇帝フランツⅡ世の妃マリア・テレジア皇后に献呈されている。これはベートーヴェンが、自らの自信作である七重奏曲を皇后に献呈することによって、ハプスブルグ宮廷に認められようとしたためと言われている。曲は全部で6つの楽章からなっているが、全体の印象は、若さが漲り、はつらつとした印象を強く受ける一方、青春のやるせないような感情も顔を覗かせている。一方、ベートーヴェン:弦楽五重奏のためのフーガop.137は、1817年に完成。ヴァイオリン、ヴィオラ各2、チェロのために書かれた作品で、わずか83小節の小品であるが、5声の対位法で書かれた見事なフーガ。ウィーン・フィルハーモニー室内アンサンブルの演奏は、実に落ち着いた、伸びやかで、しかも深みのある内容となってなっており、「これが本物のウィーン情緒だ」と言わんばかりの演奏で、さすがウィーン・フィルの名手達の演奏ではあると思わず唸らされる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のシューベルト:弦楽五重奏曲

2023-08-17 09:48:50 | 室内楽曲


シューベルト:弦楽五重奏曲

演奏:ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団+第2チェロ:ギュンター・ワイス
      
      第1ヴァイオリン:アントン・カンパー
      第2ヴァイオリン:カール・ティッツェ
      ヴィオラ:エーリッヒ・ヴァイス
      第1チェロ:フランツ・クヴァルダ
      第2チェロ:ギュンター・ワイス

発売:1962年

LP:キングレコード(ウエストミンスター) MH 5123

 シューベルトは、31歳の若さで世を去ったが、その2カ月前に作曲されたのがこの弦楽五重奏曲である。通常、弦楽五重奏曲というと、弦楽四重奏に第2ヴィオラを加えた構成をとるわけだが、このシューベルトの弦楽五重奏曲は、それとは異なり、ヴァイオリン2、ヴィオラ1、チェロ2という構成となっている。これは、チェロを加えることによって、全体のバランスを整えると同時に、低音域の充実を図ろうとしたことに他ならない。このころ既にシューベルトの作品には、死の影が忍び寄ってきており、この弦楽五重奏曲も低音を充実させることによって、重苦しい雰囲気を醸し出し、これによって当時のシューベルトの感情をこの曲に反映させることに見事に成功させているのである。このLPレコードの演奏には、51分50秒を要していることからも分るとおり、室内楽としては非常に長い曲であり、あたかも交響曲のような雄大さを秘めている。全体は4楽章に分かれており、全体は流れるようなメロディーに彩られ、如何にも歌曲の王シューベルトの晩年を飾るに相応しい作品となっている。第1楽章は、重く、同時に流れるような回顧的曲想が印象的であるが、時には激情がほとばしる。第2楽章は、アダージョの神秘的なとでも言った方がいいような幻想的な楽章である。この楽章が広く知られることによって、弦楽五重奏曲自体の評価が一層高まったようである。第3楽章は、スケルツォの楽章で、活発で浮きうきする様な曲想が、曲全体にメリハリ利かす結果に繋がっている。第4楽章は、表面的には颯爽と進むが、よく聴いてみると、何か物憂げで、死の恐怖に慄いているようにも聴こえる。このLPレコードで演奏しているのは、ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団+第2チェロのギュンター・ワイス。ウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団は、1934年当時ウィーン交響楽団のメンバーだったアントン・カンパー(第1ヴァイオリン)とフランツ・クヴァルダ(チェロ)を中心にカンパー=クヴァルダ四重奏団として結成され、その後、メンバー全員がウィーン・フィルハーモニー管弦楽団に移籍し、1967年カンパーの引退により解散した。ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団は、情緒的な曲を演奏させれば、当時、その右にでるカルテットは他になかったほどの実力を持っていた。ここでも、奥行きのある潤いに満ちた名演を聴かせてくれている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇フィッシャー・トリオのブラームス:ピアノ三重奏曲第1番/第2番

2023-07-27 09:38:07 | 室内楽曲


ブラームス:ピアノ三重奏曲第1番/第2番

ピアノ三重奏:フィッシャー・トリオ
          
         エドウィン・フィッシャー(ピアノ)
         ヴォルフガング・シュナイダーハン(ヴァイオリン)
         エンリコ・マイナルディ(チェロ)

録音:第1番:1953年11月30日/第2番:1951年12月2日、バイエルン放送スタジオ

発売:1979年5月

LP:日本コロンビア OZ‐7560‐BS

 ブラームスは、数多くの室内楽を書いた。中でもヴァイオリンソナタ、ピアノ五重奏曲、クラリネット五重奏曲、弦楽6重奏曲などは、度々演奏会でも取り上げられるし、FM放送でも流されることが多く、数多くのリスナーから親しまれている。ところが、ピアノ三重奏曲やピアノ四重奏曲、さらにはチェロソナタなどは、そう滅多に聴くことができない。これらは、内省的であり、晦渋であり、しかも暗い印象を漂わせる曲が多い。逆に言うと、最もブラームス的な要素を凝縮している曲であるとも言うこともできるかもしれない。これらの作品は、緻密で、強固な構成力を持っている曲が多く、内容の深みという点から見ると、他のジャンルの作品を凌駕しているという見方もできよう。今回のLPレコードは、ブラームスのピアノ三重奏曲第1番と第2番である。これらに対し第3番は、比較的牧歌的な要素がある。第1番の第1楽章の出だしの部分と第2番の第2楽章が比較的穏やかで、聴きやすいが、他の部分は、実に晦渋であり、内省的な性格で覆われている。しかし、よく聴いてみると、第1番は、若い時の作品だけに意欲的な面はあるものの、構成力は今一歩。一方、第2番は、充実期の作品だけあって十分な構成力を見せている。ここで、演奏しているのが、当時の3人の大家、スイス出身のピアニストで、とりわけバッハの演奏では同時代の第一人者であり「平均律クラヴィーア曲集」の全曲録音を世界で初めて行ったエドウィン・フィッシャー(1886―1960年)を中心に、オーストリア出身のヴァイオリニストのヴォルフガング・シュナイダーハン(1915年―2002年)、イタリア出身のチェリストのエンリコ・マイナルディ(1897年―1976年)からなるフィッシャー・トリオである。このトリオは、1949年のルツェルン音楽祭で登場して以来、1955年まで6年間の間、活動して名声を得ていたが、このLPレコードが発売になるまでは、口伝のみの評判であったようだ。フィッシャー・トリオが活動を停止した大分後になって、このLPレコードが登場し、初めてそのベールが剥がされたのである。このLPレコードに付けられた帯には、「戦後ヨーロッパ最高のトリオとして活躍したフィッシャー・トリオ初のレコード化!」と書かれており、当時のリスナーのフィッシャー・トリオへの熱い思いが伝わってきそうである。演奏内容は、3人の息が合い、期待に違わぬ、密度の濃い、充実したブラームスの調べを聴くことがでる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇スーク・トリオのベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第3番/ブラームス:ピアノ三重奏曲第3番

2023-06-15 09:42:33 | 室内楽曲


ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第3番
ブラームス:ピアノ三重奏曲第3番

ピアノ三重奏:スーク・トリオ

        ヴァイオリン:ヨセフ・スーク
        チェロ:ヨセフ・フッフロ
        ピアノ:ヤン・パネンカ

発売:1987年6月

LP:日本コロムビア(スープラフォン) OC‐7182‐S

 このLPレコードは、往年の名トリオのスーク・トリオ(ヨセフ・スーク:ヴァイオリン/ヨセフ・フッフロ:チェロ/ヤン・パネンカ:ピアノ)の名演を偲ぶ一枚である。録音状態も良く、若きベートーヴェンの意欲作と円熟期に入ったブラームスの作品の2曲のピアノ三重奏曲を聴くのには、これ以上の演奏条件で聴くことはなかなか難しい。この2つの曲は、名作が多いベートーヴェンとブラームスの作品群の中では、そう目立つ存在ではないが、ともに内容が充実した作品であり、聴き応えは十分である。チェコ出身のヨセフ・スーク(1929年―2011年)は、亡くなるまで、その美しいヴァイオリンの音色で聴衆を魅了してきたボヘミア・ヴァイオリン楽派を代表するヴァイオリニスト。チェロのヨセフ・フッフロ(1931年生まれ)は、1959年のカザルス国際チェロ・コンクールの優勝者であり、抜群の安定感のある演奏には定評がある。ヤン・パネンカ(1922年―1999年)は、チェコ出身のピアニストで、溌剌とした演奏振りはスーク・トリオに躍動感を与え、このLPレコードでの活き活きとした演奏が特に印象的。ベートーヴェンのピアノ三重奏曲第3番は、作品1の3曲のピアノ三重奏曲の3番目に書かれた作品。ハイドンが列席してリヒノフスキー公の前でこれらの3曲が演奏され、ハイドンはベートーヴェンの素質を高く評価したと言われるが、ハイドンはこの第3番だけは、評価しなかったという。これは当時あまりに革新的な曲でハイドンには馴染めなかったためと言われている。ベートーヴェン自身は3曲のうちでは一番の自信作であった曲。ハイドンやモーツァルトなどの先輩たち影響を受けているものの、既に後のベートーヴェンの作風を想わせるものを多く持つ作品である。一方、ブラームスは、ピアノ、ヴァイオリン、チェロという編成の三重奏曲を4曲残している。そのうちの3曲は作品番号のついた曲(第1番op.8、第2番op.87、第3番op.101)で、あと1曲は、1924年に発見されたイ長調の曲である。ピアノ三重奏曲第3番は、ブラームス53歳の時の作品で、スイスの雄大な風景に囲まれたトウンの町で書いた。ブラームス特有の晦渋さに覆われているものの、円熟の境地にあった作品だけに、雄大で内容の濃い作品に仕上がっている。スーク・トリオは、この2曲のピアノ三重奏曲を、一本筋の入った強靭さに加え、優雅な美しさも加味した名演を披露している。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇オボーリン、オイストラフ、クヌシェヴィッキーのドヴォルザーク:ピアノ三重奏曲「ドゥムキー」/スーク:ヴァイオリンとピアノのための小品集

2023-06-01 09:51:35 | 室内楽曲

ドヴォルザーク:ピアノ三重奏曲「ドゥムキー」
スーク:ヴァイオリンとピアノのための小品集
                
      「愛の歌」「バラード」「メランコリー・メロディー」「ブルレスク」

ピアノ:レフ・オボーリン

ヴァイオリン:ダヴィッド・オイストラフ

チェロ:スビャトスラフ・クヌシェヴィッキー

録音:旧ソ連 MK

LP:ビクター音楽産業 SH‐7770

 ドヴォルザークは、ボヘミアのプラハに近い村で生まれた作曲家である。このことがドヴォルザークの作曲家人生の原点にあり、民族音楽の泰斗として今日までその名を広く知らしめているのである。同じ境遇の作曲家としてスメタナがいるが、スメタナが交響詩などで民族意識を強く前面に立てたのに対し、ドヴォルザークは、交響曲や室内楽曲など、所謂絶対音楽においてその才能を発揮した。このため同じ土俵に立つブラームスと親交が厚かったようである。そんなドヴォルザークが作曲した室内楽曲の名曲が、今回のLPレコードのピアノ三重奏曲「ドゥムキー」である。ドヴォルザークは、全部で4曲のピアノ三重奏曲を作曲しているが、「ドゥムキー」は最後に作曲された曲であり、古今のピアノ三重奏曲の中でも傑作として知られている。ドゥムキーとは、ウクライナ地方を起源とするスラブ民族の哀歌「ドゥムカ」の複数形のことで、ゆっくりとした悲しげな部分と速く楽しげな部分とが交互に現れるのが特徴。全体は5つの楽章からなっているが、第1楽章が大きな2部形式で書かれているため、各部を1つの楽章と見た6楽章説もある。ここで演奏しているのが、ピアノ:レフ・オボーリン(1907年―1974年)、ヴァイオリン:ダヴィッド・オイストラフ(1908年―1974年)、チェロ:スビャトスラフ・クヌシェヴィッキー(1908年―1963年)という、当時のソ連が誇る最強の演奏者3人によるもの。今考えると同世代でよくこれほどの名人を当時のソ連が輩出できたもんだと感心するほど。三重奏曲の演奏は、名人が3人揃ったからといって必ずしも名演が聴かれるわけではないが、この録音での3人の息はピタリと合い、名曲「ドゥムキー」を、キリリと引き締まった名演奏で聴くことができる。このLPレコードのB面にはヨゼフ・スーク(1874年―1935年)のヴァイオリンの小品が4曲収録されている。スークはヴァイオリンを学んだ後、作曲をドヴォルザークに学んだ。スークのヴァイオリンの作品で最も有名なのは作品17の4曲であるが、このLPレコードには、第2曲の「情熱的に」が欠けており、代わりに作品7の1「愛の歌」が入っている。このスークの4曲のヴァイオリン小品も、ヴァイオリン:ダヴィッド・オイストラフ、ピアノ:レフ・オボーリンによる、しみじみと心に沁みる名演となっている。ただ、このLPレコードは惜しいことに録音の質が今一つ冴えない。(LPC)

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