★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇テオドール・グシュルバウアー指揮バンベルグ交響楽団のモーツァルト:交響曲第38番「プラハ」/第39番

2021-04-26 09:51:51 | 交響曲(モーツァルト)

モーツァルト:交響曲第38番「プラハ」
       交響曲第39番

指揮:テオドール・グシュルバウアー

管弦楽:バンベルグ交響楽団

LP:日本コロムビア OP‐7012‐RE

 世の中には、実力以上に評価される指揮者もいれば、実力があるのに知名度はそう高くない指揮者もいる。このLPレコードでモーツァルト:交響曲第38番「プラハ」と交響曲第39番指揮をしているテオドール・グシュルバウアー(1939年生まれ)は、どちらかというと後者に当たるようだ。特にこのLPレコードでの交響曲第38番「プラハ」の名演ぶりには圧倒的なものがある。フリッチャイの求心力とシューリヒトの緻密さを兼ね備えたような演奏内容とでも言ったらいいのであろうか。グシュルバウアーは、ウィーンの生まれで、ウィーン国立音楽院に学ぶ。ウィーン・フォルクスオーパーやザルツブルク州立劇場の指揮者を経て、1969年にリヨン歌劇場の首席指揮者に就任。以後、リンツ・ブルックナー管弦楽団、ストラスブール・フィルハーモニー管弦楽団、ラインラント=プファルツ州立フィルハーモニー管弦楽団の各首席指揮者を歴任。モーツァルトの交響曲第38番は、プラハにおいて初演されたため、「プラハ」の愛称で親しまれている曲。曲は全3楽章からなる。このLPレコードでのグシュルバウアーの指揮ぶりは、実に堂々としており、その構成美は数多くある同曲の録音を大きく上回る。緻密の中にも、毅然たる意志力が見え隠れし、聴いていてもその充実した演奏に釘付けとなる。音の一つ一つが躍動しているのである。決して上っ滑りな音楽なんかでは毛頭なく、さりとて重々し過ぎることもない。中庸を行く演奏であるかもしれないが、同時に強烈な光が解き放されるような、今聴いても、その新鮮さに溢れた演奏には驚かされる。一方、モーツァルトの交響曲第39番は、1788年6月にウィーンで作曲された。第40番と第41番とともに、“三大交響曲”と言われ、その最初を飾る曲。交響曲第38番「プラハ」は、オペラ「フィガロの結婚」との親和性が指摘されるが、この交響曲第39番は、オペラ「ドン・ジョヴァンニ」との関係がしばしば語られる。当時のモーツァルトは貧困に喘いでいたわけであるが、天才とは、そんな自己の境遇と真逆な曲風を作曲できるということか。曲は第38番とは異なり通常の4楽章構成であるが、モーツァルトの作品では例外的に木管楽器群にオーボエは使っていない。交響曲第39番でのグシュルバウアーの指揮は、基本的には第38番と同一なことが言えるが、この第39番では、力強さを前面に出すというよりも、何か憂いを含んだような表現が強調される。グシュルバウアーが、作曲時のモーツァルトの境遇を斟酌して、憂いを含ませて指揮したかのように私には感じられた。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇パリ時代に書かれた名作モーツァルト:交響曲第31番「パリ」/フルートとハープのための協奏曲

2021-03-01 09:38:45 | 交響曲(モーツァルト)

モーツァルト:交響曲第31番「パリ」

   指揮:オトマール・スウィトナー
   管弦楽:ドレスデン国立管弦楽団

モーツァルト:フルートとハープのための協奏曲

   フルート:エレーヌ・シェーファー
   ハープ:マリリン・コステロ
   
   指揮:ユーディ・メニューイン
   管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団

LP:東芝EMI EAC‐30171

 これは、モーツァルトがパリに滞在していた時の作品2曲を収めたLPレコードである。モーツァルトは、1778年3月(22歳)にパリに到着した。パリ旅行には母のマリーア・アンナも同行したが、母は健康を害し、亡くなり、当地で埋葬されてしまう。そんなショッキングな出来事が起きた時に、交響曲第31番「パリ」とフルートとハープのための協奏曲が作曲された。2曲とも明るく、優雅で、華やかな趣を持った作風の曲となっている。この理由は、その当時のパリの流行に合わせたことによるものと考えられている。交響曲第31番「パリ」は、パリ旅行の前に訪れたマンハイムで吸収したものに、パリの華やかな音楽性が加わり、大規模な編成の交響曲となっている。このLPレコードには、オトマール・スウィトナー指揮ドレスデン国立管弦楽団による演奏が収録されている。オトマール・スウィトナー(1922年ー2010年)は、オーストリア出身の指揮者。シュターツカペレ・ドレスデン音楽総監督・首席指揮者、ベルリン国立歌劇場音楽総監督などを歴任し、1973年にNHK交響楽団の名誉指揮者に就任。このLpレコードでのスウィトナーの指揮ぶりは、誠に正統的な演奏内容で、如何にも華やかなこの交響曲を、颯爽と指揮して、小気味いいことこの上ない。少しの力もなく、自然に演奏が進むが、内容がぎっしりと詰まっているので、聴き応え十分。要するに表面をなぞったような演奏ではなく、心からの共感を持ってモーツァルトを指揮していることが手に取るように分かるのだ。ドレスデン国立管弦楽団の演奏も一部の隙もなく、スウィトナーの描くモーツァルトの世界を忠実に再現して見せる。B面に収録されたモーツァルト:フルートとハープのための協奏曲は、フルートのエレーヌ・シェーファーとハープのマリリン・コステロを、名ヴァイオリニストだったユーディ・メニューイン(1916年―1999年)がフィルハーモニア管弦楽団を指揮をし、伴奏している珍しい録音。フルートのシェーファーは指揮者のエフレム・クルツ(1900年―1995年)夫人として知られ、ニューヨーク・フィルの首席奏者を務めていた人。ハープのコステロは、フィラデルフィア管弦楽団の首席ハープ奏者だった。ここでの演奏内容は、古き良き時代を思い起こさせる優雅な雰囲気で進められる。一人一人の演奏者が自由に伸び伸びと演奏する雰囲気が伝わってくる。特に、シェーファーのフルート演奏は絶品。これは、同曲の隠れた名録音と言っていい。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ヨゼフ・カイルベルトのモーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」/セレナード第6番「セレナータ・ノットゥルナ」/第36番「リンツ」/6つのドイツ舞曲集

2021-01-18 09:50:36 | 交響曲(モーツァルト)

モーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」
       セレナード第6番「セレナータ・ノットゥルナ」
       交響曲第36番「リンツ」
       6つのドイツ舞曲集

指揮:ヨゼフ・カイルベルト

管弦楽:バンベルク交響楽団

発売:1978年

LP:キングレコード(テレフンケンレコード) GT 9166

 このLPレコードは、“ヨゼフ・カイルベルトの芸術”と銘打った15枚からなるシリーズの中の1枚。ヨーゼフ・カイルベルト(1908年―1968年)は、ドイツの指揮者。第二次世界大戦以前は、ドレスデン・シュターツカペレの首席指揮者を務め、戦後は、チェコスロヴァキアを脱出したドイツ人演奏家が主体となって結成されたバンベルク交響楽団の首席指揮者に就任し、終生その地位にあった。さらにベルリン国立歌劇場音楽総監督、バイエルン国立歌劇場音楽総監督などを務め、戦後のドイツを代表する指揮者の一人であった。その指揮ぶりは、実に正統的なもので、少しの誇張のない、重厚な響きが特徴。派手なところはないが、音楽を歌わせるところは存分に歌わせ、その解釈は玄人を唸らせるほど内容が深いものがあった。このLPレコードは、そんなカイルベルトがモーツァルトの作品4曲を手兵のバンベルク交響楽団を指揮した録音。交響曲第35番「ハフナー」は、最初から実に堂々とした指揮でスタートする。細部まで目が行き届いた指揮ぶりに感心させられる。奇を衒うところは寸分もなく、あくまで正攻法なのだが、聴き進めていくと、リスナーの耳には豊かな音の響きが心地よく届き、モーツァルトの音楽の面白みがひしひしと伝わってくる。バンベルク交響楽団の演奏は、カイルベルトが手塩にかけて育てただけあって、実に緻密で颯爽とした演奏を披露する。音楽が、川の流れの如く、自然に流れす進むのだ。これは簡単のようだが、実際には難しい奥義ような技術であり、精神的にも一段と高い位置にある演奏家達でなければ到底表現することが難しい技であろう。バンベルク交響楽団の団員達は、カイルベルトの指揮に、全員が心を一つにして、一心不乱に演奏している様が、録音を通してリスナーに熱く伝わってくる。次の交響曲第36番「リンツ」は、モーツァルトがたった数日間で書き上げたという交響曲だが、内容は充実したものに仕上がっており、改めてモーツァルトの才能の凄さを見せつけられる作品。ここでのカイルベルトは、モーツァルトの音楽が持つ形式美を最高の高さまで押し上げ、格調ある指揮ぶりに徹していることが強く印象づけられた。少しも押しつけがましいところがないのだが、その奏でる響きはリスナーの耳の奥まで入り込み、モーツァルトの音楽の真髄を味あわせてくれる。「現在、これほどまで、モーツァルトの豊かな響きを奏でられる指揮者がいるか」と問われればその返答に窮してしまうほどカイルベルトの指揮するモーツァルトの音の響きは豊かであり、何よりも暖かい温もりがする。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇フェレンツ・フリッチャイのモーツァルト:交響曲第40番/第41番「ジュピター」

2021-01-04 09:37:45 | 交響曲(モーツァルト)

 

モーツァルト:交響曲第40番
       交響曲第41番「ジュピター」

指揮:フェレンツ・フリッチャイ

管弦楽:ウィーン交響楽団

発売:1974年

LP:ポリドール MH 5002

 このLPレコードは、モーツァルトの交響曲第40番と交響曲第41番「ジュピター」を、名指揮者フェレンツ・フリッチャイ(1914年―1963年)がウィーン交響楽団を指揮した録音。モーツァルトの晩年は、常に資金繰りに苦しめられていた。だから、晩年は金になる作曲や演奏活動に多くの時間が割かれたわけであるが、そんな切羽詰まった時に、交響曲の二大傑作である交響曲第40番および交響曲第41番「ジュピター」が生まれたのだから驚きだ。まあ交響曲第40番は悲壮感漂う曲想なので理解がいくが、交響曲第41番は「ジュピター」という愛称が付くほど、堂々として威厳に満ちた曲想であることは、奇跡的なことも言える。この2曲を指揮しているのがベルリン・ドイツ交響楽団首席指揮者、ベルリン・ドイツ・オペラ音楽監督、バイエルン国立歌劇場音楽総監督などを歴任したハンガリー出身の指揮者フェレンツ・フリッチャイである。ブダペスト音楽院で学び、1947年、オットー・クレンペラーの代役としてザルツブルク音楽祭で一躍脚光を浴びた。ドイツでの活躍に加え、1953年、ボストン交響楽団を指揮してアメリカでもデビューを果した。しかし、白血病のため48歳の若さで他界しまう。その才能を惜しんで、バリトンのフィッシャー=ディースカウは「フリッチャイ協会」を設立したほど。指揮者として成熟の直前のその死は、多くの人々に惜しまれた。幸い、フリッチャイが指揮した録音は比較的多く、現在でもそのCDを入手することができる。フリッチャイの指揮の特徴は、オーケストラを自分の情熱的な指揮に完全に一体化し、集中度が限りなく高い演奏を聴かせてくれること。今回のウィーン交響楽団を指揮した録音は、そんなフリッチャイのいつもの姿勢とは少々異なり、より理性の勝った指揮ぶりを聴かせる。特に交響曲第40番の指揮のこのことが顕著に表れる。しかし、聴き終えると、理性の勝った今回の指揮の方が余計にモーツァルトの“疾走する悲しみ”をリスナーは実感できるともいえる。このことをフリッチャイは計算しての指揮したのだろうか。それともウィーン交響楽団の持つ特質を考えた末の結論だったのか。これに対し交響曲第41番「ジュピター」の指揮は、いつものフリッチャイが少々戻り、集中力の高い、情熱的でスケールの大きい演奏を披露する。特に第1楽章に、このことが顕著だ。いずれにしてもフリッチャイは、指揮者として大成の直前に亡くなってしまったということを、このLPレコード聴くことにより、実感させられる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇クレンペラーのモーツァルト:交響曲第38番「プラハ」/歌劇「フィガロの結婚」序曲/交響曲第39番

2020-08-06 09:42:12 | 交響曲(モーツァルト)

モーツァルト:交響曲第38番「プラハ」
       歌劇「フィガロの結婚」序曲
       交響曲第39番

指揮:オットー・クレンペラー

管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団
    ニュー・フィルハーモニア管弦楽団(歌劇「フィガロの結婚」序曲)

録音:1962年3月6日~8日、26~28日、キングスウエイ・ホール
                 (交響曲第38番「プラハ」/交響曲第39番)
   1964年10月29日~28日、11月9日、14日、アビー・ロード・スタジオ
                 (歌劇「フィガロの結婚」序曲)

LP:東芝EMI EAC‐40048

 このLPレコードは、20世紀を代表する指揮者の一人である巨匠オットー・クレンペラー(1885年―1973年)が、フィルハーモニア管弦楽団を指揮して、モーツァルトの交響曲を演奏したものだ。ドイツ出身の指揮者らしく、クレンペラーが得意としていたのは、ドイツ古典派・ロマン派の作品である。クレンペラーは、フランクフルトのホッホ音楽院で学び、22歳でマーラーの推挙を受け、プラハのドイツ歌劇場の指揮者に就任。さらにクロル歌劇場の音楽監督に就任するが、その後、ナチス政権を嫌い、アメリカへ亡命することとなる。アメリカでは、ロサンジェルス・フィルやピッツバーグ交響楽団を指揮し、両楽団の再建に大いに貢献する。しかし、1939年に脳腫瘍を患い、これによりアメリカにおける活動の場は絶たれてしまう。第二次世界大戦後になると、クレンペラーは、ドイツの市民権を回復。そして、1959年このLPレコードで指揮しているフィルハーモニア管弦楽団の常任指揮者に就任し、以後、同楽団とのコンビで一連の録音を行い、戦前の知名度の復活にものの見事に成功するのである。しかしながら、英国EMIのレコード録音専門のオーケストラであったフィルハーモニア管弦楽団は、その後、フィルハーモニア管弦楽団の創立者であるウォルター・レッグが同楽団を売却したことで、存続できなくなり、楽団員が自主経営し、ニュー・フィルハーモニア管弦楽団と名称が変わる。その後、またもとの名称に戻るのであるが、この時、クレンペラーは会長に就任して、両者の関係はそのまま継続されることとなった。クレンペラーの指揮ぶりは、一般的に「表面的な美しさよりも、遅く、厳格なテンポにより楽曲の形式感・構築性を強調するスタイル」とよく言われるが、このLPレコードのクレンペラーの指揮は、正にこの言葉どおり、ゆっくりとしたテンポで、武骨なほど力強く、曲の全体の構成をことさら強調するような演奏内容である。現在では、このような演奏をする指揮者は少なくなってしまった。つまり、クレンペラーの指揮は、ある意味では大時代がかった、現代感覚とは逆行するような演奏内容とも言える。しかし、そうであるからこそ、今、クレンペラーの指揮の独自性に耳を傾けることは重要なことではあるまいか。そこには、現代の指揮者が見落としている、音楽の本質が隠されているように思われてならない。このLPレコードに収められたクレンペラーのモーツァルトの演奏を聴きながら、ふと、そんなことが頭をよぎった。(LPC) 

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