★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇フルニエ&グルダのベートーヴェン:チェロソナタ第1番/第2番

2023-03-23 09:38:05 | 室内楽曲(チェロ)


ベートーヴェン:チェロソナタ第1番/第2番

チェロ:ピエール・フルニエ

ピアノ:フリードリッヒ・グルダ

LP:ポリドール(ヘリオドールレコード) MH 5037

 ベートーヴェンのチェロソナタは全部で5曲あるが、第1番と第2番が前期、第3番が中期、第4番と第5番が後期に書かれており、ベートーヴェンの生涯にわたってつくられている。このLPレコードには、初期の作品である第1番と第2番が収められている。2曲とも初期の作品らしく、若々しく、力強い印象を受ける。この2曲は、ベートーヴェン26歳(1796年)の時に作曲されたもので、モーツァルトを思わせる古典的な雰囲気と同時に、中期以降のベートーヴェンを彷彿とさせる個性も時々顔を覗かせ、興味深い作品に仕上がっている。第1番は、全体を通してピアノのパートの活躍が目立つが、これはベートーヴェン自身が、プロイセン国王のウィルヘルム2世の前でピアノを演奏することを念頭に置いて作曲したためとも言われており、若きベートーヴェンの意欲が滲み出ている作品そのものといった感が強い作品に仕上がっている。第2番は、まだハイドンやモーツァルトの影響力があるものの、その内面には中期以降花開くベートーヴェン的な前向きな意欲が感じられる。第1番も第2番も若々しさに満ちていることには変わりはないが、第2番の方が感傷性がより強く表現されている。この2曲のチェロソナタは、緩徐楽章を持っていないので、その代りに第1楽章にかなり長大なゆるやかな序奏を置いている。演奏しているのは、往年の名手であるチェロのピエール・フルニエ(1906年―1986年)とピアノのフリードリッヒ・グルダ(1930年―2000年)である。ピエール・フルニエは、フランスのチェロ奏者で、“チェロの貴公子”のニックネームを持ち、気品に溢れた演奏で世界中に多くのファンを持っていた。1923年にパリ音楽院を一等賞で卒業後、1924年、パリでコンサート・デビュー。1937年、31歳でエコール・ノルマル音楽院教授となる。1941年から1949年までパリ音楽院教授。ヨゼフ・シゲティ(ヴァイオリン)、アルトゥール・シュナーベル(ピアノ)との三重奏、さらにウィリアム・プリムローズ(ヴィオラ)を加えた四重奏など室内楽でも活躍した。親日家であり、日本にも多くのファンがいたことで知られる。ピアノのフリードリッヒ・グルダは、オーストリア出身の名ピアニスト。ジャズにも造詣が深いなど、型に嵌らない演奏で聴衆を魅了した。この二人が共演した、このベートーヴェンのチェロソナタの録音は、名人同士の掛け合いが融和し、見事な演奏効果を生み出している。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ “チェロの貴公子” ピエール・フルニエのチェロ小品集

2022-09-12 09:43:03 | 室内楽曲(チェロ)


~ピエール・フルニエのチェロ小品集~

フランクール:アダージョとアレグロ
ハイドン:メヌエット
ウェーバー:ラルゲットとロンド
ショパン:夜想曲 op.9‐2
リムスキー=コルサコフ:太陽への讃歌熊/くまばちは飛ぶ
シューマン:アダージョとアレグロ
バッハ/グノー:アヴェ・マリア
チャイコフスキー:感傷的なワルツ
ブラームス:野の寂しさ
ポッパー:よう精の踊り
ドヴォルザーク:ロンド op.39
サン=サーンス:白鳥
パガニーニ:モーゼの主題による変奏曲

チェロ:ピエール・フルニエ

ピアノ:ラマール・クラウソン

録音:1969年1月8日~10日、ミュンヘン、プレナーザール

LP:ポリドール(独グラモフォン 2544 184)SE 7810

 ピエール・フルニエ(1906年―1986年)は、フランスのチェリストで“チェロの貴公子”と呼ばれ、その優雅な演奏スタイルで世界中の人々から愛された。度々来日し、わが国でも多くのファンを持っていた。パリで生まれたが、小児麻痺のためピアニストからチェリストへ転向。1923年、パリ音楽院を一等賞で卒業し、1924年、パリでコンサート・デビューを果たす。その後、エコール・ノルマル音楽院、パリ音楽院の教授を務め、1963年、レジオン・ドヌール勲章を受賞する。このLPレコードは、そんなピエール・フルニエの独奏により、珠玉の小品集が聴けるというまたとない一枚であり、懐かしい“チェロの貴公子”の優雅きまわりない演奏を思う存分堪能することができる。どの曲も、フルニエの温かい眼差しが隅々まで行き届いた演奏内容となっている。最近の演奏家の演奏はあまりゆとりが感じられない。我々はフルニエのような慈愛に満ちたチェリストに、もう巡り合うことはないかもしれないと考えると、このLPレコードの存在の貴重さを改めて思い知らされる。このLPレコードは、そんなピエール・フルニエが誰もが親しめる小品を演奏している。フランクール:アダージョとアレグロは、ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ集の1曲。ハイドン:メヌエットは、全6曲のヴァイオリンとヴィオラのためのソナタ第1番の第3楽章。ウェーバー:ラルゲットとロンドは、ピアノとヴァイオリン・オブリガートのための6曲のソナタ集の第2番と第3番の編曲。ショパン:夜想曲op.9‐2は、ポッパーによる編曲。リムスキー=コルサコフ:太陽への讃歌は、オペラ「金鶏」の第2幕のソプラノのアリアの編曲。同:くまばちは飛ぶは、オペラ「サルタン皇帝の物語」第3幕前奏曲の編曲。シューマン:アダージョとアレグロは、ホルンまたはチェロまたはヴァイオリンとピアノのための曲。バッハ/グノー:アヴェ・マリアは、バッハの前奏曲の上にグノーがメロディーを付けた曲。チャイコフスキー:感傷的なワルツは、ピアノ小品集「6つの小品」第6曲の編曲。ブラームス:野の寂しさは、op.86の全6曲からなる歌曲集の第2曲の編曲。ポッパー:よう精の踊りは、チェロ独自の美しさを生かした曲。ドヴォルザーク:ロンドop.39は、チェロのためのオリジナル作品。サン=サーンス:白鳥は、組曲「動物の謝肉祭」の中のチェロ独奏曲。そして最後のパガニーニ:モーゼの主題による変奏曲は、ヴァイオリンのG線による曲の編曲。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇フルニエ&バックハウスのブラームス:チェロソナタ第1番/第2番

2021-01-28 09:40:51 | 室内楽曲(チェロ)

 

ブラームス:チェロソナタ第1番/第2番

チェロ:ピエール・フルニエ

ピアノ:ウィルヘルム・バックハウス

発売:1974年

LP:キングレコード MZ5119

 ブラームスは生涯で2曲のチェロソナタを作曲した。これらのチェロソナタは渋く、とっつきにくい印象を持たれがちだが、曲の仔細を聴き進むと、リスナーは、これらの2曲が豊かな情感と確固たる構成美を持ったチェロソナタの傑作であることに気付かされる。2曲とも聴き終わった後の充実感は、ブラームスの他の室内楽作品に決して引けを取らない。第1番は1865年の夏に完成された作品。この曲は、ブラームスの友人のヨーゼフ・ゲンスバッヒャーに捧げられ、1865年にゲンスバッヒャーのチェロ、ブラームスのピアノで初演された。第2番は、この20年後の1886年の夏に作曲された。晩年のブラームスの室内楽作品らしく、渋く、重いが、第1番がチェロの低音が強調されているのに対し、この第2番は、チェロは低音から高音までの旋律を活発に奏でる。第1番より簡潔に書かれているが、演奏には第1番以上の技巧を要する曲であることが聴き取れる。このLPレコードでのチェロを演奏しているのは、フランスの名チェリストのピエール・フルニエ(1906年―1986年)である。如何にもフランス人演奏家らしく、気品のある格調の高い表現力で、その当時「チェロの貴公子」と呼ばれ、日本でも多くのファンを有していた。このLPレコードでピアノを演奏しているのがドイツ出身の名ピアニストのウィルヘルム・バックハウス(1884年―1969年)である。バックハウスは、1905年、パリで開かれたルビンシュタイン音楽コンクールのピアノ部門で優勝。1946年にはスイスに帰化している。若い頃は「鍵盤の師子王」とまで言われたほどの技巧派であったが、歳を取るにつれて、深い精神性を持つピアニストとして、多くの人の尊敬を集めていた。初来日は、フルニエと同じ1954年。このLPレコードでのピエール・フルニエのチェロ演奏は、実に優雅で美しい響きを存分に聴かせてくれる。ブラームス:チェロソナタというと、その渋さがことさら強調されがちだが、ここでのフルニエのチェロ演奏は、それらとは一線を隔するように演奏自体に滑らかさがあり、決してごつごつした武骨な印象をリスナーに与えない。何か、フォーレとかサン=サーンスのチェロの演奏を聴いているみたいに、穏やかであり、深い静かさが辺りに宿っている演奏内容である。一方、バックハウスのピアノ演奏は、伝統的なドイツ音楽のがっしりとした構成美に貫かれたものとなっている。一見するとこれら二人の演奏は馴染まないかに思われがちだが、実際にこのLPレコードを聴いてみると、実にしっくりと溶け合い、少しの不自然さも感じさせない。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ロストロポーヴィッチのショパン&ショスタコーヴィッチ:チェロソナタ(ライヴ録音盤)

2020-03-23 09:32:49 | 室内楽曲(チェロ)

ショパン:チェロソナタ
ショスタコーヴィッチ:チェロソナタ

チェロ:ムスティスラフ・ロストロポーヴィッチ

ピアノ:アレクサンダー・デデューヒン

発売:1977年4月

LP:日本コロムビア OZ‐7530‐BS(ライヴ録音盤)
 
 このLPレコードは、チェロの巨匠ロストロポーヴィッチ(1927年―2007年)が残したライヴ録音という点で貴重な記録である。ロストロポーヴィッチは、「生の演奏でその真価を発揮するタイプの演奏家であった」と言われており、このLPレコードの存在価値は大きい。この辺のいきさつについて、このLPレコードのライナーノートで小石忠男氏が次のように書いている。「このレコードは、以上二人(ロストロポーヴィッチとデデューヒン)のコンビによる演奏会の実況録音で、聴衆のノイズや拍手、ちょっとした調弦の音までが収められている。この演奏がどこで収録されたものかはわからないが、ロストロポーヴィッチがデデューヒンと演奏していたのは、1974年の(米国)移住以前と思われるので、この録音も74年よりも前のものと推定される。このうちショスタコーヴィッチのチェロソナタは、かつてソ連で録音された作曲者との共演がレコード化されていたが、ショパンのチェロソナタは、現在までカタログにない」。ムスティスラフ・ロストロポーヴィチはアゼルバイジャン(旧ソビエト連邦)出身のチェリスト・指揮者である。モスクワ音楽院で学び、「全ソビエト音楽コンクール」金賞受賞などの輝かしい受賞歴を持つほか、1951年と1953年に「スターリン賞」を、1963年に「レーニン賞」を、さらに1966年 に「人民芸術家」の称号を受けるなど、旧ソ連における国民的英雄であった。しかし、1970年に 社会主義を批判した作家アレクサンドル・ソルジェニーツィンを擁護したことで旧ソビエト当局から「反体制者」とみなされ、国内での演奏活動の停止および外国での出演契約も破棄されてしまう。これに抗議して、ロストロポーヴィッチは1974年に米国に亡命。これにより一旦は国籍が剥奪されるが、1990年に旧ソ連で16年ぶりに凱旋公演を行い、国籍を回復する。この録音は、今から40年以上前のライヴ録音であるので、決して良い音質とは言えない。2曲の演奏とも実際の演奏会での録音なので、コンサートの緊張感がそのままリスナーに伝わって来る。ここでのロストロポーヴィッチの演奏は、うねるように起伏を大きく取り、しかも、いとも軽々とチェロを弾きこなす。これにより、ショパン:チェロソナタは、深遠さとスケールの大きな曲へと変身を遂げる。そして、ショスタコーヴィッチ:チェロソナタは、細部まで克明に演奏されることにより、その美しさが魔法の如く生み出される。このLPレコードを聴き、ロストロポーヴィッチが不世出のチェリストであったことを再認識させられた。(LPC)

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