モーツァルト:ミサ曲「戴冠式ミサ」ハ長調 K.317
リタニア(拝礼曲)「聖母マリアのための」ニ長調 K.195
指揮:ネヴィル・マリナー
管弦楽:アカデミー室内管弦楽団
独唱:イレアナ・コトルバス(ソプラノ)
ヘレン・ワッツ(コントラルト)
ジョン・シャーリー・カーク(バリトン)
ロバート・ティーア(テノール)
合唱:スコラ・カントルム
発売:1972年
LP:キングレコード(英ARGO) K18C‐9218
このLPレコードには、ネヴィル・マリナー(1924年―2016年)の指揮で、ミサ曲「戴冠式ミサ」ハ長調K.317およびリタニア「聖母マリアのための」ニ長調K.195という2曲のモーツァルトの宗教曲が収められている。モーツアルトの宗教曲というと「レクイエム」が突出して有名で、現在、コンサートで度々取り上げられている人気作品として誰もが知っている。しかし、モーツァルトの「レクイエム」は、どこまでがモーツァルトの直筆なのか判然としないところもあり、しかも、全曲を通して聴くと何かモーツァルトの作品にしては、異様な激しさが出過ぎているようにも感じられる。そんなわけで私などは、いつも聴くたびに「レクイエム」については、“モーツァルトらしくないモーツァルト作品”といったことを、つい考えてしまう。その点、このLPレコードに収められた2曲の宗教曲は、いずれも典型的なモーツァルトらしさが全曲に漲っていて、聴いていて好感が持てる。そして今回のLPレコードの聴きどころはというと、独唱陣の声の美しさが何よりも素晴らしいという点だ。しかも、独唱者同士の阿吽の呼吸がぴたりと合い、文字通り、天上の音楽そのものの雰囲気を醸し出しているところが素晴らしい。2曲を通して聴き終えると、私は「戴冠式ミサ」よりもリタニア「聖母マリアのための」の方が、より強い印象を受けた。モーツァルトには、リタニアという名のつく拝礼の曲が4曲あるが、いずれもザルツブルグ時代の作品である。リタニアには、「ロレートのリタニア」(イタリアのロレートのカーサ・サンタの聖マリア礼拝堂の壁にそのテキストが刻まれていることに由来)と「聖餐式のためのリタニア」(楽章の数が多く、より本格的)の2種類がある。モーツァルトは、これら2種類のリタニアをそれぞれ2曲ずつ書いている。「ロレートのリタニア」は、そのテキストの由来から「『聖母マリアのための』リタニア」と呼ばれている。これら2つのリタニアは、18世紀のドイツでは、毎年5月になると演奏されていたという。一方、ミサ曲「戴冠式ミサ」ハ長調K.317は、1779年3月に完成した作品。この曲は、ザルツブルクの音楽の伝統の上に立ってつくられ、当時の大司教が短めの曲が好みであったため、独唱部は控えめに書かれている。「戴冠式」の名の由来は、ザルツブルクにほど近い、マリア・プライン教会の聖処女像の戴冠を記念するために、毎年行われていたミサのために作曲されたと考えられている。(LPC)