~ヴァイオリン名曲集~
クライスラー:愛のよろこび/愛の悲しみ/美しきロスマリン
モーツァルト:メヌエット
マスネー:タイスの瞑想曲
ドヴォルザーク:ユーモレスク
ベートーヴェン:ト調のメヌエット
シューマン:トロイメライ
モーツァルト(クライスラー編):ロンド
シューベルト:セレナード
アルベニス(クライスラー編):タンゴ
フォーレ:夢のあとに
ドヴォルザーク:わが母が教えてくれた歌
シューベルト:アヴェ・マリア
ヴァイオリン:アルテュール・グリュミオー
ピアノ:イストヴァン・ハイデュー
録音:1973年、アムステルダム
発売:1977年
LP:日本フォノグラム(フォンタナ・レコード) PL-23
私は「クラシック音楽がどうして好きなのですか?」問われたら、昔はむきになって、ベートーヴェンが如何に素晴らしいかを喋り、シューベルト、ブラームス、シューマン、ショパンなどあらゆる作曲家の名を挙げ、そしてそれらの名曲について語ったものだった。しかし、今同じ質問が来たら、多分何も答えず、アルテュール・グリュミオーの弾く、このLPレコードの最初の3曲「愛のよろこび」「愛の悲しみ」「美しきロスマリン」を聴いてもらうことになるのではないかと思う。何故かというとグリュミオーの弾くヴァイオリン演奏には、クラシック音楽の持つ美しさが凝縮され、しかも誰が聴いても分りやすいからだ。それにクライスラーが作曲したこれらの曲は、郷愁にも似た感情を、聴いたものすべての者に抱かせることができる、不朽の小品だからでもある。「百聞は一見に如かず」という言葉があるが、グリュミオーの弾くヴァイオリン演奏を聴くと「百聞は一聴に如かず」という思いが自然に湧き上がってくるほどだ。これらの3曲を含んで、このLPレコードに収められたグリュミオーの演奏の素晴らしさは、筆舌に尽くしがたいものがある。グリュミオーの弾くヴィブラートはヴァイオリン演奏史上最も美しいと称される。自然なボウイングでヴァイオリンを奏で、そこから紡ぎだされる音は珠玉のように美しい。フランコ=ベルギー楽派を代表する大ヴァイオリニストなのである。アルテュール・グリュミオー(1921年―1986年)はベルギーの出身。シャルルロワ音楽学校を経た後に、ブリュッセル王立音楽院で学ぶ。その後、パリに留学してジョルジュ・エネスコに師事している。第二次世界大戦後、その名は不動なものとなり、世界的な名声を得るようになる。特に、ピアニストのクララ・ハスキルをパートナーに迎えての演奏活動は、当時の多くの聴衆を魅了した。グリュミオーは音楽界への貢献が認められ、1973年に男爵に叙爵されている。美を極限まで追求したグリュミオーのようなヴァイオリン演奏は、LPレコード特有の柔らかくも温かみのある音質によって聴くことで、はじめてその真価が聴き取れるのである。その意味でこのLPレコードは貴重な存在である。そしてピアノのイストヴァン・ハイデュー(1913年―?)との絶妙なコンビを書き落とすとしたら、片手落ちになろう。イストヴァン・ハイデューはハンガリー・ブタペスト出身。1957年にオランダに移住し、その翌年からグリュミオーの常時の共演者を務めた。(LPC)