~ラフマニノフ歌曲集~
「秘密の夜の静寂の中で」 作品4の3(A.フィエト)
「そんなに長い間、わが友よ」 作品4の6(A.ゴレニシチェフ・クトゥーゾフ)
「私は自分の悲しみを恋してしまつたの(兵士の妻)」 作品8の4(T.シェフチェンコ)
「夢」 作品8の5(H.ハイネ)
「私はあなたを待つている」 作品14の1(M.ダヴィドヴア)
「小島」 作品14の2(P.B.シェルレイ)
「夏の夜」 作品14の5(D.ラトハウス)
「みんながきみをそんなに可愛がる」 作品14の6(A.K.トルストイ)
「ぼくを信じないで、わが友よ」 作品14の7(A.K.トルストイ)
「春の水」 作品14の11(F.チューチェフ)
「運命」 作品21の1(A.アプーフチン)
「そよかぜ」 作品34の4(K.バルモント)
「アリオン」 作品34の5(A.プーシキン)
「ラザロのよみがえり」 作品34の6(A.ホミャーコフ)
「そんなことはありえない!」 作品34の7(A.マイコフ)
「音楽」 作品34の8(Ya.ポロンスキー)
ソプラノ:エリーザベト・ゼーダーシュトレーム
ピアノ:ウラディーミル・アシュケナージ
録音:1975年8月
発売:1977年
LP:キングレコード(LONDON) SLA 6189
ラフマニノフの名を聞くと、ピアノ独奏曲、ピアノ協奏曲それに交響曲などをまず思い浮かべる。このLPレコードは、これらとは異なりラフマニノフの歌曲集である。あまり馴染みがないので一瞬腰が引けそうだが、一度聴くとこれがまた魅力的な作品がぎっしりと詰め込まれていて、びっくりする。あたかもシューベルトの歌曲とシューマンの歌曲とを足して2で割ったような雰囲気なのだ。しかし、そこには当然ラフマニノフ独自の特徴が込められている。それらの特徴を、このLPレコードのライナーノートに園部四郎氏は次のようにまとめている。①旋律の流れの美しさ、特にその叙情性②極めて複雑な、深い内容をもった詩を取り上げ、これをムソルグスキーを連想させるようなデクラメーション、つまり朗詠調によって描き出す書法③声とピアノのパートが溶けあい、からみ合い、見事なアンサンブル―などの特徴を有しているのである。ここに収められている16曲の歌曲の多くは、叙情的な雰囲気に溢れているのであるが、中には「運命」と名付けられた曲などのように、ラフマニノフの激情が激しく渦巻く曲も含まれている。この曲は、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」の“運命が戸を叩く”という冒頭の小節が突然出て来てびっくりさせられる。これは、自作の交響曲第1番の不評に対し、ラフマニノフが失意の時にあった心境を歌曲に書き綴った作品という。つまり、ラフマニノフの歌曲は、単に抒情的であるだけでなく、激しい独白の作品でもあるのだ。このLPレコードで歌っているソプラノのエリーザベト・ゼーダーシュトレーム(1927年―2009年)は、スウェーデン、ストックホルム出身。1948年、ストックホルム王立歌劇場でデビューを飾る。その後世界の主要な歌劇場で活躍。レパートリーは古典から現代オペラまで幅広かった。ピアノのウラディーミル・アシュケナージ(1937年生まれ)は、現在では指揮者活動(ロイヤル・フィル首席指揮者、ベルリン・ドイツ響首席指揮者、チェコ・フィル首席指揮者、シドニー響首席指揮者などを歴任し、現在NHK交響楽団桂冠指揮者)が中心となっているが、以前は、世界的名ピアニストとして活躍していた。このLPレコードでは2人の息はピタリと合っており、美しくも奥深いラフマニノフの歌曲の世界を十全に表現して見事だ。それにしても、もっとラフマニノフの歌曲は広く聴かれてもいい作品だと思う。なによりも内容が優れた曲が多いのだから。(LPC)