シェーンベルク:3つのピアノ曲Op.11
5つのピアノ曲Op.23
6つのピアノ小品Op.19
ピアノ組曲Op.25
ピアノ曲Op.33a/Op.33b
ピアノ:グレン・グールド
録音:ニューヨーク
LP:CBS/SONY 18AC 971
カナダ出身のグレン・グールド(1932―1982年)は、1964年のシカゴ・リサイタルを最後にコンサート活動からは一切身を引いてしまう。この理由については、いろいろ詮索されているが、これ以降、没年まで、グールドはレコード録音及びラジオ、テレビなどの放送媒体のみの音楽活動に集中することになる。そして1981年、バッハの「ゴルトベルク変奏曲」を再録音した後の1982年10月4日、脳卒中により死去した。享年50歳。リヒテルは、グールドを「バッハの最も偉大な演奏者」と評したという。そんなグールドは、現代音楽も積極的に取り組んだが、特にシェーンベルクを高く評価したようである。グールドお気に入りのシェーンベルクのピアノ曲だけを収めたのがこのLPレコードである。ここに収められた曲は、シェーンベルクの音楽愛好家か、現代音楽のピアノ曲に興味がある人でもないと、普段滅多に耳にしない曲ばかりだ。私も、このLPレコードを買った当時は、あまり興味がなく、1、2回聴いただけでお蔵入りとなっていた。今回、改めて聴いてみると・・・、これまで敬遠していた現代音楽が、実に身近な感覚で聴くことが出来たことには自分でも驚いた。グレングールドは、対位法を重視し、カノンやフーガの曲を数多く作曲したバッハなどの曲の演奏に力を入れた反面、ショパンのような曲には関心が薄かったという。ところが、今回このグールドの弾くシェーンベルクのピアノ曲を聴いて、私の脳裏に最初に浮かんだのは、これは「現代のショパン演奏ではなかろうか」ということだ。何か物憂げで、その一方、鋭い視線で周囲を見回すようなような場面にも遭遇する。リズムも多様に変化し、人間の内面に潜む複雑な心理の変化を凝視しているような演奏なのだ。一方では、表面的には、あたかもロマン派のピアノ曲を聴いているような一種の優雅さもある。そう言えば、シェーンベルクは、ヨハン・シュトラウスのワルツを高く評価していたことを思い出し、成る程なと一人感じ入ったほどだ。ここでは、グールドという類稀な才能が、とっつきにくいシェーンベルクの曲を活き活きと再現して見せる。私にとっては、驚きと同時にシェーベルクの音楽を、今度はじっくりと聴いてみたいな、という気を起こさせた貴重なLPレコードにもなったのである。