シューマン:交響的練習曲 op.13
幻想小曲集 op.12
ピアノ:ギオマール・ノヴァエス
LP:ワーナーパイオニア H‐4952V
ギオマール・ノヴァエス(1895年ー1979年)はブラジル出身のピアニスト。パリ音楽院の卒業試験の時、あまりにも妙演に、列席した試験官のドビュッシーやフォーレがアンコールを求めたというエピソードが残されている。ノヴァエスのピアノ演奏の特徴は、如何にも女流ピアニストらしい繊細さに溢れ、抒情的で、しかも艶やかな音色を奏でる。それに加えて貴族的な威厳に満ちた演奏内容が持ち味だった。レパートリーは、あまり広くはなく、ロマン派の音楽が中心となっていた。最も得意としていたのはショパンで、次はシューマンであった。今回のLPレコードには、ノヴァエスが得意としたシューマンの2曲のピアノ独奏曲が収録されている。日本においては、ノヴァエスが現役時代からその実力の割には、一部の熱烈なファンを除いてその評価はそれほど高いとは言えなかった。このことは、何も日本だけのことではなかったようで、海外でも、“好きになれば文句なしに好きになれる”タイプのピアニストであったようで、ファンの数も限られていたようだ。その原因は、自分が好むレパートリーの曲しか演奏しなかったためで、さらに彼女を好む狭い範囲の愛好者のためにしか、コンサートを開かなかったとも言われている。このLPレコードには、ノヴァエスの得意としていたシューマンの曲が収録されており、その意味で貴重な録音と言える。現役時代から、いわゆる通のファンからから高い評価を受けていたのだが、没後30年以上が経過した現在、かつて名ピアニストであったギオマール・ノヴァエスの名前は、忘却の彼方へと忘れ去られようとしていることは、残念至極のことと言わざるを得ない。録音は今聴くと古ぼけてはいるが、鑑賞に差し支えるほどではない。ノヴァエスの残した録音は、何とか今後、永久保存版として後世に伝えていってほしいものだ。このLPレコードを聴くと、つくずくそう思う。このLPレコードのA面には、シューマン:交響的練習曲が収められている。このLPレコードでの演奏は、実にロマンの香りが色濃く反映した内容となっている。一般的にこの曲を男性ピアニストが弾くと、やたらと対位法を意識したようなごつごつした構成になるが、ノヴァエスの演奏は、そんな曲でも何か物語を語るような、文学的表現が前面に押し出される。この曲は、こんな側面を持ち合わせていたのだと改めて思い起こさせる演奏だ。一方、B面の幻想小曲集 op.12おけるノヴァエスの演奏は、ノヴァエスの持ち味が全開したように、優雅さに満ち溢れた世界を聴かせてくれる。(LPC)