歴史作家 智本光隆「雪欠片―ユキノカケラ―」

歴史作家 智本光隆のブログです。

祈念―がんばろう東北―

桜の花に癒され、地震の爪あとに涙し・・・しかしながら確実に仙台の街は復興しております。1歩づつではございますが、前進していきたいと思っております―8年前、被災地からこの言葉をいただきました。今年もまた、春がめぐって来ました。今も苦しい生活を送られている方々に、お見舞いを申し上げます。本当に1日も早い復旧、復興がなされますよう、尽力して行きたいと思っております。

本能寺将星録秘話第9回―伊也―

2011-06-18 00:54:28 | 本能寺将星録
さて、第9回目として細川忠興の妹・伊也。
・・・この子が一番、残っているエピソードとキャラのギャップあったかも知れない(w
伊也は細川藤孝の長女、丹後の一色義定(義有)に嫁ぎます。
一色氏は足利一門、細川氏とは同族です。
しかし、本能寺の変で明智光秀に味方し、事変後の混乱で細川忠興に謀殺されました。
(暗殺は2月との説もあり)
この際、伊也は実家に戻されますが、兄の忠興と対面した際に隠し持った短刀で斬りかかります。
忠興は間一髪身を交わしたものの、鼻の頭を斬られました。
後に吉田兼見の子・兼治に再嫁して84歳まで長寿を保ちます。


さて、そんな伊也ですが本来、斎藤利三が勝龍寺城へと来る理由付けに登場しました。
なんか自然な流れで珠子さんに懐きました。
というか、小説等で伊也が出て来る場合、絶対珠子に懐いている気が・・・
忠興が一色義定を斬るエピソードを使う予定は最初からあったのですが、
それに対するスタンスをどう取らせようかと。
明智方の中で忠興対義定の構図作るに当たって、伊也は婚家側から忠興側に完全にシフトしました。
妹に嫁ぎ先の肩を終始持たれていたら、やりづらいので(w


結果、嫁ぎ先で苦労している。夫からDV気味の仕打ち、だから帰りたくないみたいな設定に。
下巻前半、短刀の柄握ってお兄ちゃんに夫の抹殺希望する、よく考えたらかなり怖い子ですね。
それを実行している兄貴と特にそれ咎めない兄嫁・・・


『本能寺将星録』のラスト、伊也は明智光慶の子を宿しています。
「これって、ホント?」と聞かれましたが、そんな訳もない(w
理由としては「明智家を継承する人間が必要」と思った事と、
上巻で忠興が再婚予定相手の父・吉田兼見を散々脅している件。
吉田家に嫁がせるのは無理ですね。その必要性ももうないでしょうし。


ちなみに忠興の兄弟姉妹は作中に登場した細川興元、伊也の他に二男三女います。
作者の母、「末の妹だから可愛がっていると思ってた。騙された!」と言ってます。
まあ、確かにそう見えなくもない。
作者的には「なんか、側室の娘っぽいな」って感じで書いてました。
宮津城ではなく勝龍寺城に戻って来るあたりが。
細川藤孝は生涯、ひとりの側室も持たなかったと言われているので、はっきりそうとは書いてないけれど。


ラストシーンの後、伊也は光慶の子を出産したはずです。
男子だったら明智家の後継者になりますね。
忠興と珠子の全面バックアップあるでしょうから、立派な跡取りに育てて下さい。
子供が成長した暁に「心配するなって言ったのに!」といって忠興に斬りかかっても作者は止めません。
でも、鼻の傷は他の人がもう付けたので、多分当たらないと思いますよ(w

本能寺将星録秘話第8回―明智光慶―

2011-06-13 23:21:58 | 本能寺将星録
メイン連中は一応終わったので、あとは登場人物についてつらつらと。
本日は山崎の合戦当日(更新は実質、翌日だけど)、
『本能寺将星録』作中、この日に命を散らせた光秀の嫡男・明智光慶。


この光秀の嫡男さん、実はほとんど史料はなし。
イエズス会の宣教師の記録で「ヨーロッパの王子のような優美な人」とあるだけですね。
光秀の年齢に対して嫡男ながらまだ14歳です。
このあたり、光秀が高齢ながら隠居できなかった理由っぽいですね。


実は当初の主人公案として、光慶主人公案というのもありました。
ですが本能寺の変後の混乱は、14歳の子供がひとりでどうにか出来るものではないので、やっぱり無理ですかね?
某作品で病弱を理由に光秀に廃嫡されかかってるってのを見たことあり、本作も少しそんな感じではあります。
作中の時期は元気な少年ですが。


性格は幼少時病弱なために、武断派の忠興を慕って懐いているという設定に自然になりました。
珠子は随分、この弟を可愛がってます。
(一応、光秀と煕子の子だと記録あるのは、光秀の子供の内でこの2人だけかな?)
一方、明智秀満はあんまり快く思っていなかったようで。
下巻の光慶襲撃者ももしかして?って感じにはなりました。光秀も廃嫡を考えていたと・・・


珠子もそれ心配してそれとなく忠興に頼み、鉄砲術し込んで信長にお披露目!!
有無を言わさず明智家継承の既成事実作る・・・なんて書くはずもないサイドストーリー考えたりもしてました(w
何気に腹黒く、策謀巡らす「鬼蛇夫婦」(w
本筋とは何の関係もないですが、「キャラ作り」の一巻としてこういうの考えるのは楽しいです。
ある程度、キャラのイメージが一般的に固定されている『関ヶ原群雄伝』の面々(石田三成とか福島正則とか)では、
こういう一種の遊びは出来ないですね。


光慶は山崎の合戦で、父である光秀を守ってその命を散らせました。
あの最期は作者としても迷いに迷ったところです。
生き残って明智家を継承する案もあり、担当さんとも相談の上、ああなったのですが・・・
ネット上で「可愛かったのに、残念」って意見も見たので、複雑ですね。
まあ、可愛い顔してやることはやってたようですが(w


史実では山崎の合戦後、坂本城を守って自害したようです(生存説もありますが)
武家の嫡男として、その家の運命を背負った生涯でした。
今、考えましたが死なずに生き延びて数年後・・・って設定なら、光慶主人公でいけるような気もする。


最後に、光慶に全力の謝罪を!!
愛宕百韻の結句「国々は猶、のどかなる頃」
あれ作中では忠興が読んでますが、実際には光慶の作です。
義弟からパクるなよって突っ込んでおきます。

本能寺将星録秘話第7回―明智光秀2―

2011-06-02 00:00:01 | 本能寺将星録
本日はついに?6月2日。
本能寺の変、当日でございます。


さて、丹波道より洛中に進軍した明智勢は本能寺を襲撃、織田信長は自害して果てます。
嫡男で家督を継いでいた織田信忠も二条新御所で死に、光秀は一瞬にして洛中を制しました。
ここまでは良かった。光秀の側からすれば。
しかし、一気呵成な洛中制圧に反して、以後の行動は余りにも無計画で蛋白。
細川家の与力は得られず、筒井にも日和見されます。
最大の?は安土に赴いて京をからっぽにしている点でしょうね。
そして「中国大返し」の羽柴秀吉に敗れ、「三日天下」は終わりを告げました。
本能寺の変のあざやかさに反して、山崎の合戦でのあっさりとした負け方。
ここは本書と同時期に刊行された、神宮寺元氏『明智軍戦記』でも疑問が呈されていました。


『本能寺将星録』では光秀サイドの行動を「武辺の果てに散ったクーデター」の一点に絞っています。
光秀は信長を本能寺で討つのに、朝廷の密命を受けた。
しかし、信長を討ったことが諸将の指示を得られないこと、羽柴秀吉には抗しきれないこと、
そして朝廷が自分と心中する気がないこと・・・内心でそれは承知した上での決起だった。
それでも武家として朝家の臣として、源氏の武者として立った。
それが本作の明智光秀という人物像になっています。


智本光隆の歴史群像大賞優秀賞作は新田義顕を主人公にした『風花』です。
その父は後醍醐天皇の命で南朝のために命を散らせた新田義貞。
時々、新田義貞=明智光秀という解釈聞きます。朝廷に忠誠を誓ったが、結局は使い捨てにされる・・・
それでもその信任を最後まで疑わず、戦陣に散った武将。
作者は必ずしも義貞=光秀だと思っている訳ではありませんが、
本作の光秀のイメージのひとつであったことは確かですね。


織田信長は朝廷をどうするつもりだったのか?実際のところは分かりません。
仮に廃絶を考えていた場合、信長が生存すれば間違いなくそれは実行されたでしょう。
本能寺の変が光秀の朝廷守護のための決起であるならば、光秀こそが天皇と朝廷を護ったことになります。


本作では山崎の合戦に光秀は勝利しますが、明智家も事実上崩壊しました。
あのラストは明智に辛辣すぎるなと、書いている本人も思いました(光慶の件が特にですね・・・)
ですが、主殺し(本作の信長殺害の黒幕は秀吉です。ですが、光秀にも反逆の意思はありました)の罪を、
必ず償わせるとした忠興の言葉のまま、あのようになりました。


光秀は丹波地方では今でも「名君」と讃えられています。
京都にある母校の教授に、
「光秀の描き方次第で、あの辺り(丹波)の売上かわるよ」って言われたくらいです。
丹波の皆さんに本作がどう映っているのかは分かりません。ですが、確かに言えることがひとつあります。
明智光秀の能力で織田信長に勝っているものは、正直いってないかも知れません。
人気も含めて(w 
ですが朝廷を中心としたこの国の姿を守る・・・
この一点において、明智光秀は織田信長に「勝った」のだと思います。



しかし、本能寺の変当日に朝廷ならぬ政権がとんでもないことに。
とんでもないって言うか、しょうもないって言うか・・・
今日、「これは本能寺の変です!」っていう政治家、絶対いる気がするな。
いたら全力で笑ってやろう(w

本能寺将星録秘話第6回―明智光秀1―

2011-05-28 01:56:30 | 本能寺将星録
本日5月28日・・・
本能寺将星録秘話も3人目に突入。
今回は忠興の義父で珠子の父、明智日向守光秀。
さて、本作は元々が「本能寺の変の明智側」ということでスタートしております。
従いまして、本来であるならば「光秀を勝たせる!」という物語であるはずのような気がします。


実際、当初構想の中には忠興を「源氏の武者」の立場に立たせて、
光秀と共に戦わせるというものありました。
作中にも多少、そんな空気残っているかも知れませんが・・・
執筆を進めるにつれ、忠興が勝手にどんどん信長サイドに行ってしまった結果(w
『本能寺将星録』は「明智物」というより「本能寺物」になりました。
結末は読者のみなさまには御存知の通り・・・
明智光秀は史実そのまま、次の時代の主役になることはありませんでした。


本作の舞台は言わずと知れた本能寺の変。
ここの所、テレビの歴史バラエティーなんかでも本能寺の変を取り上げるの目立つ気がします。
今年のNHK大河ドラマ「江」でも2年前の「天地人」でも取り上げられましたね、本能寺の変。
その主役は御存知、明智光秀。
では、その光秀は何が理由で本能寺に信長を討ったのか?


それは今日に至るまではっきりと示されてはいません。
世上、言われているものとしても信長に対する怨恨、武田征伐で辱めを受けた、家康接待の不手際、
西国への左遷、精神を病んでいた、天下への野望があった・・・・・多分、もっとあったかと思います。
『信長公記』『太閤記』など当時の史料は暗に怨恨を匂わせているようですが、
本能寺の変当時生存し、江戸時代も存続した家々の者達の多くが、この事変に対して語ることをしてはいません。
それは徳川幕府始め、細川家も含めて。


本作では羽柴秀吉、高山右近サイドの動きは全く別にすれば、「朝廷黒幕説」を採りました。
作中、近衛前久、吉田兼見らの作成した「密勅」が明智光秀に下されています。
光秀は朝家の命があったからこそ、大恩ある信長を裏切った・・・
それが『本能寺将星録』の光秀像の基本になっています。


本能寺の変は朝廷が主導、関与した・・・・・少なくとも光秀の行動は容認していたという説です。
1990年代くらいから多く用いられるようになりました。
信長死後に光秀は征夷大将軍に任じられていた・・・とするものもあります。
本作でも光秀の征夷大将軍就任を巡る動きは書いて見ました。
案外あれが近いんじゃないかなと、内心思っていたりもします。


光秀決起の真相が完全に明らかにされることは、今後も難しいと思います。
何れにしても光秀は今日5月28日、愛宕山において連歌の会を催します。
「時は今、雨が下しる皐月かな」
そして、本能寺の変の幕が開きました。
次回へ続け!!(w

本能寺将星録秘話第5回―細川ガラシャ2―

2011-05-15 08:17:25 | 本能寺将星録
さて、それでは実際の忠興と珠子の夫婦仲はどうだったのかという点。
作中の時期は円満だった・・・そう考えられるのですが、ここで本能寺の変が起きます。
良く知られている通り、史実では細川家は明智方への加担を完全拒否、宮津から動いていません。
忠興が天王山に出陣、羽柴方として山崎の合戦に加わっている可能性は前に書いた通りです。


そして珠子さんは光秀の娘であるとして丹後味土野に幽閉されます。
味土野は宮津から直線距離で約15キロ、丹後半島の真中あたり。
実はここでの暮らしぶりは珠子の残した和歌以外、確かなものは伝わっていません。
この間に忠興、藤孝の方は家名を守るために奔走し、細川家は豊臣政権で存続を見ました。
本能寺の変から2年後、忠興は珠子を宮津へと呼び戻します。
この間、正室の座は空けたままでした。


さて、この期間の描写。
多くの創作では失意に打ちひしがれた珠子がキリスト教に傾斜して、
忠興嫉妬に狂う・・・てのが多いですね。
しかし、この描写は果たしてどうなのか?
本能寺の変に際しての細川家の措置、これ以上はどうにもしようがなかったというべき。
離縁しない、明智に送り返さない、そして殺さない・・・
本能寺の変後の情勢下で、かなり危ない橋を渡ったと思います、忠興も藤孝も。
これで珠子が世を儚むような人間ならば、それは戦国武将の妻としては失格なのではないか?
本作のキャラ創りはそんな思いもあってああなってます。
「右府様に謀反した方々が、お揃いで」というセリフを光秀に対して、珠子の口から言わせて見ました。


忠興との夫婦仲、晩年は冷えていたというのが通説です。
しかし、それならば果たして関ヶ原の合戦で死ななければならない意味は何処になったのか?
東軍有利の流れを作る、忠興に愛想をつかしていた・・・など解釈はありますが、
あれは「忠興と細川家の負担に、これ以上なりたくなかった」という見方が一番近いような気がします。
正しいと言い切れるものではないにしろ。


「鬼蛇夫婦」のエピソードからはこの2人、何処かで通じあっていたんだと思います。
そして、珠子の辞世である「散りぬべき時知りてこそ世の中も 花も花なれ人も人なれ」
これは死を前にすべてを達観した境地を感じます。
正直、信仰にみに傾斜した人間ではないな、と。
でも、忠興は珠子に生き残って欲しかった・・・それは間違いなことなんんだろうとも思います。


珠子は実はもう少し考えたエピソードありました。
特に高山右近はもうちょい絡ませたかったかな?
そして、ラストの案は当初は色々ありました。
両者の感情すれ違うとか、光秀の死に発狂する(おい、待て)とか。


『本能寺将星録』ではあの細川ガラシャに最後、
キリスト教と一定の訣別をさせるというある意味、とんでもないことをやってしまいました(w
実際に決定されたあのラスト、庭師のエピソードをやろうと言う流れでまず考え、
あとは筆のままに書いています(諸般の事情で、制作期間2日です)
その中で珠子が自然に口にした言葉でした。私にはキリスト教は必要ない・・・と。


忠興は信長の復仇を遂げ、天下を差配するために多くのものを失い、そして捨てました。
珠子もひとつ、心の拠り所を捨てたのだと思います。
従う、寄り添うというよりも、向かい合って立つのが本作における忠興と珠子の作者のイメージです。
彼女はこの後も忠興のすべてに向かい合い、笑って受け入れると思います。
忠興が天下布武を成し遂げるその日まで。
そして、それからも。

やっぱり、ただのバカップルか(w



「細川家の至宝」展マスコットの黒猫。作中の珠子の猫のモデル。